第54話「なんてこった、人でなしどもだ?!」

「邪魔をするなぁぁあ!!」

「どけぇぇええ!!」


 ビィトとエミリィが真正面から「鉄の拳アイアンフィスト」に相対する。


 立ちふさがるのは4人。

 剣持ちソードマン1、槍持ちパイク1、弓矢アーチャーが1に────魔術師メイジ1……!


 全員男────。


「何だこいつ等!」

「構うこたぁねぇ! 殺せぇぇえ!」


 ササっと、隊形を整える連中。


 槍持ちが先頭に立ち、穂先で威嚇。

 盾持ちがいないので、槍のリーチを盾代わりにしているのだろう。


 剣持ちは遊撃のため、ダラリと構えている。


 そして、弓矢と魔術師がオフェンス!

 まずはコイツらを────。


「エミリィ右!」

「うん!」


 警告なしの攻撃動作。

 「鉄の拳アイアンフィスト」の遠距離の二人は既にビィト達を射程に捉えていた。


 だが、


「それはコッチも同じだぁぁぁあ!!」


 ブツブツと詠唱している魔術師。

 遅い!!


 中級魔法だが何だか知らないけど、

「とっととブッ放したもの勝ちだぁぁ!!」


 水矢ウォーターアロー────! の、


「テメェら、臭いんだよぉぉおお!」

 体くらい洗え、ばーか!


 洗顔、洗濯、洗髪に大活躍。

 通称────ビィトシャワーだ!


 アーンド、その……高温バージョンッッ!


 水球状態の水矢を打ち出すビィト。


 ただし、……ちょっぴり熱を加えている。

 エミリィお気に入りの温度よりも、ちょ~~~~~~っぴり熱めにしてるけどね。


「大火炎────ぐおあ!?」


 ばしゃああ!!


「あじゃあぁぁぁああ!!」

「あづあづあづ!!」

「あちゃちゃちゃちゃ!!」


 射線上にいた槍持ちと剣持ちをも巻き込んでの大惨事。


 熱湯を被った3人は大慌てて転げまわっている。

 なまじ防具を来ているせいで、熱湯をぬぐうに拭えないらしい。


 そして、

「このガキぃ!!」

「──ふッ」


 エミリィを狙った矢と、弓矢野郎アーチャーを狙ったエミリィのベアリング弾が空中で交差する。


 ────パァン!


「んな!?」


 そして、偶然か狙ったのか──互いの中間で激突し2つの飛び道具が弾け飛んだ。


 いや……2つじゃないッ!

 エミリィのベアリング弾は────もう一発!?


 あ、あれは双子撃ちタンデムショットか?!


 バキュッッ!

「ぐげぇぇ!!────ガフッ……」


 一発目で矢を叩き落とし、背負い式の隠れたもう一発が直進────弓矢野郎の利き手を強打した。

 そして、跳ねあがったベアリング弾が顎に直撃する!


 殺されないだけ感謝しろ、ばーか!!


「エミリィ! 橋ぃぃ!!」

「うん!」


 そして、男達の頭上を走り抜けると、エミリィが先行し跳ね橋の操作機に向かう。


 上げる時と違い、下ろすときは一瞬のはずだ。

 だから、エミリィ! 任せたよ────!


 俺は────。

 連中の天幕に用がある!


 ここは、水矢────!!

 そして、そいつの高圧縮版だぁあ!


 高圧縮の水矢で連中の天幕を薙ぎ払う。

 中に人がいては困るので、天井部分を狙って左右からのギロチンだ。


 複数の天幕が立ち並び、その天辺を切り裂くとバサリと布が落ちる。


「う……!」


 中は無人……だったものの、代わりにいくつかの死体が!


「な、なんてことを──!!」

 暴行を受けたのだろうか……。

 周囲に飛び散った血や歯、そして肉片。


 恐らくギルドの送り込んだ冒険者のなれの果てだ。


 もはや原型をとどめていないものの、女性冒険者らしいソレは既に事切れており。


 ……酷い有様だ。


(「鉄の拳アイアンフィスト」め────アイツ等……人間か!?)


 まさに鬼畜の所業だ。

 救出部隊を襲って……捕虜を惨殺。

 あげく────女性たちは……。いや、言うまい。


 こんな連中、……世界には腐るほどいる。

 悪人もゴブリンと同じだ。


 「鉄の拳アイアンフィスト」の所業に一瞬目を覆いそうになるも、ビィトはこらえる。


 彼女らには悪いが、今は冥福を祈る暇もない。


 手近のいた肢体から冒険者のタグだけ引きちぎるとポケットに押し込む。


「ごめん……!」


 謝罪を一つ。それだけしかできない。

 今は、物資を補給するジェイク達の荷物を回収のが最優先!!


 兎に角どれでもいい。

 雑然と並んだ背嚢のうち、糧食の詰まっていそうなものを選ぶと、その他にいくつかを見繕い背負う。


 元の背嚢はまさかりのせいでボロボロ。

 中身を大分失ってしまった。


 火事場泥棒みたいで嫌な気分だけど、元々ジェイク達の物。それを回収するだけだ!


 冒険者から略奪したらしき荷物と、「鉄の拳アイアンフィスト」のものは揃いの背嚢とクラン大型パーティのシンボルマークを見れば一目瞭然だった。


 当然、冒険者の持ち物には手をつけない。


 ──荷運びポーターとして雇ったなら、これはジェイク達のものだろう……。


「お兄ちゃん! 急いでッ!!」


 エミリィの声に振り返ると、跳ね橋は既に下ろされていた。

 だが、「鉄の拳アイアンフィスト」も態勢を立て直しつつあるようだ。


 バシュン!!


「うお!」


 立ち上がったビィトの足元にボウガンが撃ち込まれる。


「射て射てぇぇ!」


 わわわ……!

 まずい、いっぱい来た!


「奴ら先に進ませるな!!」

「殺せぇぇええ!!」



 


 集結し始めた「鉄の拳アイアンフィスト」の反撃が始まる──……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る