第53話「なんてこった、『鉄の拳』だって?!」

 ──────カッ!!



 闇骨王の杖から、眩い光が迸る!

 それは目を閉じたビィトでさえ、眩しさにふらつくほど────。


 瞼の裏が真っ白に染まるッ!!



「「「「ぎゃあああああああ!!」」」」



 最大級に強化された目くらましが「鉄の拳アイアンフィスト」の面々の視界を焼いていく。


「ひぎゃあああ!! 目が、目がー」

「うぎゃあああ!! 見えねぇ!!」

「いでぇぇえ! だ、誰か、誰かぁああ!」

神官班メディック! 神官班んんッッメディィィック


 一瞬のことで、すぐに目を開けたビィトの前にはすさまじい惨状。

 バタバタと暴れる男達は目を覆って転げ回っている。


 少々大げさに感じなくもないが──。


「テメェ!!」


 無事な奴もいる。

 エミリィを抱えていたリーダー格の野郎は、彼女を連れ去ろうと向きを変えていたため光を直視しなかったらしい。


 そして、闇骨王の杖で頭を強打した細身の男もまた、無事だった。

 それでも、そいつにとって杖の一撃は予想外に効いたらしく、まだふらついていた。


 だが、

「雑魚のクセにぃぃぃい!!」


 おらぁぁぁあ!! と、気合の籠った一撃を放つリーダー格。


 エミリィをポイすと投げ捨てると、まさかりを構えて大上段に振りかぶった一撃だ!


「ぐあッ!」


 ビィトは荷物を回収しようとしたためワンテンポ行動が送れる。

 なんとか背嚢で防ぐも、鉞が直撃し──何かが割れる音がした。


「おらぁぁあ! おらぁぁぁあ!」


 ガスッ! ガスッ! と何度となく叩きつけられる一撃に、背嚢の荷物が飛び散っていく。


 そのうちに、荷物を貫通してビィトへ凶刃が迫るだろう。


(は、反撃しないと────!)


 だが、隙が無い!


「クソぉ!」


 魔法を行使する間もなく、連打を浴びるビィト。

 絶対絶命だ!


「ロリコン野郎が、生意気なんだよぉぉぉおお!!」

「俺はロリコンじゃねぇぇぇええ!!」


 誰かが勝手に噂してるだけだッつの!


「これで終わりだぁぁぁあ!!」


 ギラリとまさかりの刃がほの白く輝く。

 ありゃ、何かのスキルを使いやがったな!


 恐らく貫通系か、強打系のものだろう────つまり、受ければ……死ぬッ!?


 グアアーー……────と迫るまさかりを見ても、ビィトには対抗手段が……ない。


 ど、どうすれば!


 脳の処理速度が向上し、水の中にいるように全てがドロリと遅くなる奇妙な感覚。

 あらゆるものがスローモーションに見え──────……。


(あ!!)


 え、

 エミリィ────!!!!


「こぉのぉぉおお、デブオヤジぃぃい!!」

 エミリィが叫ぶ。

 ビィトの思いに答えるように叫ぶッ!


 その手にはスリングショットが握りしめられており──あの強力な一撃が!


 ドシュン────!


「ぶげぇあ!」


 ビィトの一撃を叩きつけんとしていたリーダー格の男が妙ちきりんな声を上げて腹を前にして体を「く」の字に曲げる。


 エミリィの一撃が背中を直撃したらしい。


 鉞が手からすっぽ抜けてヒュンヒュンと飛んでいってしまった。

 そして、リーダー格は白目をむいてドズゥン……と倒れる。


 エミリィのスリングショットは強烈だ。

 脳天だったら炸裂していただろう。


 だけど、それじゃ人殺しになってしまう──。

 だからエミリィの判断は正しい。


 正しいんだ!


「エミリィ! ありがとう!!────そして、逃げるよッ」

「うん!」


 回収した荷物を背負いなおすも、中身がバラバラと落ちていく。


 こ、こりゃ不味い!

 ──ぶ、物資が!!


「いつつつ……テメェ……」


 そして、敵はまだいた。

 いや……最初からいやがった!


 あの野郎だ。


 杖でぶん殴った細身の男。

 そいつが頭を押さえながら、ムクリと起き上がると仲間の惨状を見て顔を歪める。


「や、やりやがったな……! てめェ、ギッタギタにして、」

「上……危ないぞ?」


 ビィトが走り抜ける前に警告してやる。

 だって……。


「──は! その手は食うかッ。上には誰もいないんだろ! 騙しやが──」


 ゴッキーーーーーーーーーン!!!


「はぶぁ────!!」


 細身の男の脳天にリーダー格の男の持っていたまさかりが降ってくる。

 幸い刃の部分ではなかったが……ありゃ痛ぇぇわ。


 ドサリと倒れる男。


 あとには目を押さえて未だジタバタと暴れる男達がいるのみ。


 だけど、

「な、なんだ!?」

「おかしらぁ?」

「おい! 見ろッ────全員されてるぞ!」


 跳ね橋の方にはまだまだ「鉄の拳アイアンフィスト」の連中がいたらしく、ぞろぞろと集まってきた。

 よく見れば目立たない位置に天幕が張られているではないか。

 ……上からでは気付かなかった。


 く……──!

「エミリィ! 突っ切るよ!」

「う、うん! で、でもどこに!?」


 そうだ……どうする!?

 ──────決まってる!


「牙城に行くしかない!」

「わ、わかった!────橋は任せてッ」


 え? あ、そうか。

 跳ね橋を降ろさないと!


 バラバラと零れる荷物を庇いながらビィトとエミリィは疾走する。

 前に立ちふさがるのは「鉄の拳アイアンフィスト」の面々だ。


 なぜ襲われるのか、未だに理由はしっくりとはこないものの。


 状況から考えて、恐らくジェイク達の遭難に一枚噛んでいるに違いない。


 何らかの理由でジェイク達「豹の槍パンターランツァ」を裏切ったのだろう。

 でなければ、コイツらがここにいるはずがない。


 そして、救助部隊であることを確認しての拘束────。

 つまり、コイツらがここで救助部隊を襲っているのだ。


 ────それは、なんのため?


 そんなの……。

 ……「豹の槍パンターランツァ」を孤立させるために決まっている!


 きっと騙されたジェイク達は『悪鬼の牙城』内で立ち往生しているのだろう。


 ギルドで聞いた話では、「鉄の拳アイアンフィスト」を運び屋ポーター代わりに雇っていたというが……。


 それはつまり、物資を持つポーターが裏切ったなら……?

 わかる……。わかるよジェイク!


 物資不足になって困窮しているんだな?

 だから、行く。


 今行くよ!!






「邪魔をするなぁぁあ!!」

「どっけぇぇええ!!」

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