第52話「なんてこった、こいつら何者だ!?」

「よぉ?────救助部隊だな」


 だ、誰だコイツ。


 ようやく地面に足をつき、一息ついたビィトの目の前には、エミリィに短刀を突きつけている細身の男がいた。


 よく見れば周囲にも複数の人影。


 ボウガンや大剣を装備している。


(こ、こいつら……)

 ……モンスターじゃなく────冒険者だ。


「な、なんだお前ら!」

「ひ!」


 ビィトが声を上げようとしたその隙に、エミリィの喉元に短刀をグイっと近づける男。

 

「──デケェ声を出すんじゃねぇ! ……上にも、まだいるんだろ? 何人で来た?」


 クイクイとビィトが降りてきた『石工の墓場』の通路を顎で示す男。


 ……何人って?

 というかこいつ等何者だ──?


「……あ、え──────さ、3人いる!」

 咄嗟に出まかせを言うビィト。


 一瞬で判断したことだが、……恐らくこいつ等はビィト達を複数できたパーティだと勘違いしている。


 そして、エミリィを脅しているように、ビィトに黙らせたうえで、更にいるであろう仲間を無警戒のまま拘束しようとしているのだ。


 ……もちろん上には誰もいない。


 ロープの先には闇骨王の杖があるだけだ。


「ち……ギルドの連中め。面倒臭い連中を次々送り込んできやがって、話が違うぞ!」


 何を言ってる?

 ギルド?────送り込むって、まさか。


「お、お前ら鉄の拳アイアンフィストか?!」


「ん? ははは。有名になったなー俺達も──」

「ひひッ。こいつ知ってるぞぉ! 「器用貧乏」じゃねぇか!」


 ニヤニヤと笑う男達がビィトを取り囲む。

 これほど近くにいても気配が微弱なのは、特殊なスキルを使っているのかもしれない。

 

 グレーターゴブリンのような「迷彩ステルス」効果のあるスキルだろうか。

 どうりでエミリィにも見抜けなかったわけだ。


「ほうほう、お前──あれだろ? ジェイクに追放されたらしいじゃねぇか。……こんなとこまで意趣返しか? まさか救助に来たとは思えないしな」


 ──……その、まさかだよ!

 

 だがそんなことよりも──、

「な、何のつもりだ!? 「鉄の拳アイアンフィスト」と「豹の槍パンターランツァ」の遭難でギルド中大騒ぎなんだぞ!?」


 そいつらがここで何をしている?

 どう見ても遭難しているようには──。


「おい! 何やってんだ!」


 その時、跳ね橋の方から大柄の男がノシノシとやってくる。

 手にはベッタリと血の付いたまさかりが……。


「オメェらがさぼってる間に、俺が連中を捌いてたんだぞ!」


 ポイっと、放り投げたのはフルフェイスのヘルメット────……うげ! 中身入りじゃねぇか!


 これ……ギルドで見た冒険者だぞ!


「頭ぁ……また追加の冒険者ですよ────面倒くさいったら、ありゃしない」

「あん? だったらサッサと捌いちまいな。俺は疲れちまったぜ──」


 ヒュッヒュとまさかりを振り、血を落とす仕草。

 たった今、冒険者を仕留めたと言わんばかり。

 いや、実際に仕留めて来たのかもしれない……。あの血は──。


「頭ぁ、それがどうやってか知りませんが上から来やがったんですよ。……念のため警戒員を配置していたんで捕まえられましたけどね」

「ほ?! 『石工の墓場』からか? 大方、ギルドも知らない抜け道でもあるんだろうさ」


「そうみたいで。んで、まだ上に3人いるんですと」


 そう言ってロープの先を指し示す。


「なるほど……。全員降りてきたらさっさと捌いちまいな。こんな奴ら生かしとく意味もねぇ────お?」

「ひ!」


 リーダー格の男は、ビィトには目もくれなかったが、エミリィを見ると、ニヤリと顔を歪める。


「おいおいおいおい、可愛い子いるじゃねぇか。……チョイとガキ過ぎるが────悪くないなぁ」


 にちゃあ、と汚い面を歪めると、

「誘き出すにはソイツがいればいいだろ? コイツはしばらく俺が使わせて・・・・もらうぜ」


 そう言ってベロリと舌舐めずりする男。

 むんずとエミリィの首根っこを掴むと、ヒョイっと担ぎ上げて跳ね橋のほうへ向かって去っていく────。


「や、ゃだ! お、おおお、お兄ちゃん!」


 泣きそうな顔でエミリィがビィトに助けを求める。


 当然だ。

 ビィトとて────、


「待てッ!!」

「あん?」


 ビィトの鋭い制止の声に、リーダー格の振り返ると、


「……んーー? おまぇ────確か、「器用貧乏」だったな? いや、最近・・「鬼畜ロリコン」になったんだったか? ヒヒヒ、お前の中古ってのは気にくわないけど、俺がちゃんと使ってやるからよ──」

 ギャハハハと笑って去っていく男。


 ──「鬼畜ロリコン」? なんで……。


「お兄ちゃん!!!」


 ──ッッッ!!

 こいつら、……ふざけるなよ!


 つつ、とビィトが動き出す気配。

 それを感じたのか、

「おい、変な真似するなよ。いつでもお前ら二人を殺せるんだ────。さっさと仲間を呼べ」


 細身の男が短刀をビィトに向けると低い声で凄む。


 まだ、上に仲間がいると思っているのだ。


 だったら好都合────。


「わかった。今、呼んでやるよ────」


 クン! とロープを引く。

 すると、つっかえ棒になっていた闇骨王の杖がヒュンヒュンヒュンと回転しながら降ってきて────。


「「「な?!」」」


 ゴキィン! と細身の男に命中する。

「はぶぁ!?」


 そして素早く杖を構えると────。


「エミリィ! 目をつぶれッッ」

「ッッ??!! う、うん!!」


 こんな状況、前にもあったからな!!

 エミリィもビィトの意図に気付いて、男に抱えられながらも目をきつく閉じる。


「ちぃ! ぶっ殺──」


 魔力最大充填────杖の補助を受けた効果倍増の幻影魔法!!

 ────目くらましだ!


 喰らえッ。





 ──────カッ!!

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