第51話「なんてこった、高所から降りるよ!」
キョロキョロと周囲を見渡すも、降りるための足掛かりはどこにもない。
やはり、取りあえずはどうにかしてここから降りないとならないらしい。
──地上までは30mくらいか……。
思案顔のビィトは一度通路に引っ込むと、背嚢を確認する。
大量の荷物の中になにかあったはず。
そうして、ゴソゴソと漁ってみると、怪しい店で購入した冒険者一式の中にロープがあった。
もちろんこういった時に使うものだが、他にも色々な用途に使える。
縛ったり、縛ったり、あと縛る。
「──縛ってばっかりだね」
ジトっとした目でエミリィが睨む。
え? 変なこと言った?
「と、とりあえず、これを先に降ろそうか」
長さは十分だが、先端をどこかに結んでしまうと回収できなくなってしまう。
ロープをここで使い切ってしまうわけにもいかない。
60mの長さであれば二つ折りにしたロープが使えたのだが……。さすがにそこまでの長さはなかった。
「どうするの?」
「うーーーん……ちょっと危険だけど、コイツをつっかえ棒にするかな」
闇骨王の杖をチラリとみるビィト。
長さはと強度は十分だけど……。
「え? まさか……」
エミリィがタラリと汗を流す。
うん、そのまさか。
闇骨王の杖の装飾にある髑髏も、心なしか汗を流している様子────。
※ ※
ギシ……ギシ……。
ビィトが通路の縁に足をかけて踏ん張る中、エミリィがゆっくり、ゆっくり、下に降ろされていく。
「お、お兄ちゃん……ひ!」
ビクビクと震えるエミリィの気配を感じつつも、ビィトも必死だ。
「うぐぐぐ……だ、大丈夫。ゆっくり下ろすから」
身体強化で腕力を強化しているため膂力は十分なのだが、この不安定な姿勢と人命を握っているという心理的圧迫がビィトを汗だくにさせる。
「もうちょい……もうちょい……」
ゆっくり、ゆっくりロープを手繰りだしていき、なんとかエミリィを地面に降ろす。
ふと手に抵抗を感じなくなって慌てて下を覗き込むと、顔面蒼白になったエミリィが、気丈にも笑顔を浮かべつつ、30m下で手を振っていた。
「よかった……大丈夫?」
「(うん……大丈夫だよ!)」
エミリィは周囲を警戒して小声で返す。
今、下にはエミリィしかいないのだ。
この場所にモンスターはいないとはいえ、状況は良くない。
だがもう一仕事。
「荷物を降ろすから受け取って!」
「(うん! こっちは、いつでもいいよ!)」
さて、次は荷物。
これは最悪落としても問題ない。
ポーションや聖水なんかの、幾つかの瓶があるため、衝撃によっては割れる危険がある。
そのため慎重にするに越したことはないのだが、人の命に比べれば何と言うことはない。
もっとも、物資も生命線であると言えばあるのだが……。
とはいえ、エミリィを降ろすときと違い、心理的圧迫がないのか、スルスルと順調に降ろしていくビィト。
さすがに膂力を向上させているだけあってお手の物だ。
しかし、改めてみるとすさまじい量の荷物だと分かる。
大半は糧食なのだが、念のため「
恐らくエミリィ一人では支えきれないだろう。
そうしているうちに手に荷物の抵抗を感じなくなる。
──下についたのだろうか。
「エミリィ?」
「…………」
ん?
「エミリィ?」
ひょいっと覗き込むと、エミリィが荷物からロープを解いた状態で固まっている。
ん? どうしたんだ?
「…………どうしたの?」
「…………あぅ、な……なんでもない」
んんん?
エミリィの挙動がおかしい。
仕切りに目配せしているが……なんだろう?
「どうしたの? 今から、降りるよ。──警戒をお願いするね」
なんだろう?
そう言えば、連携の訓練をしていたんだから、簡単なハンドサインとかも考えれば良かったな。
今さらだが、今後の課題としてビィトは心の刻み、ロープを闇骨王の杖に結び付けた。
これをつっかえ棒にして通路の縁に引っ掛けて、ビィトが一人降りるのだ。
体重がかかっているうちは上手く通路の縁に闇骨王の杖が
当然……超危険でもある。
何らかの拍子に杖がずれたり、壁に足をついたりして体重が抜ければたちまち杖は壁から外れるだろう。
そうなれば哀れビィトは高所から落下する羽目になる。
高さによっては無事では済まないかもしれない。
だが、現状……これしか方法はないのだ。
ロープのために命を張っているようなものだが、時に物資は命の次に大事な時もある。
「さて……外れてくれるなよ……」
闇骨王の杖の装飾にあら髑髏に話しかけるも、しらーっとした雰囲気を感じる。
まるで、俺をそんな風に使うな! とでも言いたげだ。
「よ! う────……け、結構揺れるな」
ギュリギュリ……とロープが軋む。
そう言えば、ロープの強度のことを頭に入れていなかったな──と今更ながら思うも、こうなってしまってはもう引き返せない。
ギシ、キシ……とロープの軋み音を聞きながら手を滑らせていく。
摩擦とロープの生地が手にチクチクと刺激を与えてくるが、我慢我慢……。
無心でただ下へ下へ降りることを考える。
下手なことをすると恐怖で硬直してしまいそうになるからだ。
そのうちに景色が徐々に変わり────。
ストンと足が地面についた。
「ふーーーー…………心臓に悪──」
え?
なんだろ? この気配──。
「お、お兄ちゃん……ゴメン」
「よぉ?────救助部隊だな」
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