第50話「なんてこった、怪しい気配がするぞ!」
長い……。
長い通路を抜け、ようやく『石工の墓場』を抜けたらしいビィトたち。
その視線の先には広大な空間が広がっていた。
その様子からも、恐らく通路の先は『悪鬼の牙城』のある派生ダンジョンなのだろう。
ようやく……。
ようやく、ここまでたどり着いた。
でも、まだ終わりじやない。
確か『悪鬼の牙城』自体も、相当に広大なダンジョンだ。
それはもう、生半な覚悟では行けそうもない場所……。
(だけど、ジェイクたちが助けを待っているんだ────!)
絶対に行かなければッ……。
少し小走りでダンジョンの接合部に近づくと、恐る恐るその先を覗き込む。
その視線の先には、確かに派生ダンジョン『悪鬼の牙城』が広がっていた。
ビィトの読み通り、蟻の巣からのルートは裏道だったようだ。
……とはいえ、「
そのため、入り口から先の様子は詳しく知らなかったのだが……。
通常は『地獄の釜』の正規ルートを通るか、近道として使えるの超危険区画から行くのだが、今回は蟻の巣からの裏道だ。
「お兄ちゃん?」
通路の端から覗き込むビィトの頭越しに、エミリィも、ピョコっと『悪鬼の牙城』を覗き込む。
二人の目の前には、薄暗い広大な空間が広がっていた。
冷たい空気の流れる空間。
一見すると端から端がギリギリ見えると言った程度のドーム状の空間だ。
だが、ドームとは言っても天井があるのか判然としない。
そこにあるのは、空の様な──洞窟のような、靄のかかった天井部分。
そこには、なぜかモヤモヤとした雲の様なものが溜まっており、雷の様な放電現象が起きている。
そのボンヤリとした雷のおこす光が空間を照らしているのだ。
しかし、太陽や光る魔石ほどの明るさはなく、不気味な陰影を生み出すだけの光源。
まるで、『悪鬼の牙城』を不気味に演出するための雷雲のようにも見える。
そして、その悪鬼の牙城だが──ビィト達のいる横穴から遥か先にある広大な地底湖の上に、いつものごとく
「うわぁ……あれがオーガの巣なんだ」
エミリィが恐れとも感心ともつかない表情で城を眺めている。
小さな城塞にも見える城だが、あれはスケールがオーガサイズなので、近くにある様に見えて、その実──結構な距離がある。
この派生ダンジョンのほとんどは地底湖とその上に聳える『悪鬼の牙城』が面積の大半を占めているのだ。
それにしても────……。
「どうやって降りようか?」
ビィトの疑問。
なんていうことはない。
『石工の墓場』の入り口はドーム状になった空間の側面に開いていたのだ。
つまり覗き込んでいるこの場所から下は真っ逆さま……。
「け、結構高いな……」
「ど、どうしよう?」
二人して首を傾げる。
昔は石組があって行き来できたと、聞いたはずなのだが……。
「誰かが破壊したみたいだね」
視線の先には無残に崩れ去った足場がある。
だが、ダンジョンには自然治癒作用があるため、放置してしばらく放っておくといつの間にか直っていることがある。
その作用を利用したのが蟻の巣の封鎖なのだが……。例外はモンスターや人間がそこ居据わっているた場合のみ。
つまり、この足場を崩した連中が近くにいるのだろう。
それもごく最近のこと────。
「なんでこんなとこを破壊したんだ?」
それによく見てみると、視線の先『悪鬼の牙城』の跳ね橋が片側のみ封鎖されている。
(……なぜだ?)
「お兄ちゃん──あそこ……」
エミリィが恐る恐る指さす先。
通常の正規ルートからくる入り口付近が、真っ赤な血痕でベタベタになっていた。
そこで、なにやら作業している男達。
「戦闘……? いや、ここは牙城内以外に、モンスターはいなかったはずだが……」
『悪鬼の牙城』の構造は地底湖と牙城として、ドーム状の空間に周囲にへばりつくようにある陸地だけ。
そして、陸地部分には魔物らしい魔物はいない。
その代わりに地底湖にはアリゲーターフィッシュがうようよしており、牙城内部にも大量のオーガが闊歩している。
「いや────というより、彼らは何者だ? ……ギルドの派遣した救助部隊──なのか?」
ビィトには判断がつかなかった。
ただ、なんとなく嫌な空気を感じる。
「とにかく、牙城へ向かおう」
「う、うん……」
エミリィが怯えた様にギュッとビィトにしがみ付く。
「どうしたの?」
「な、なんかすごく嫌な感じがする……沢山、人がいるんだけど──」
その。
「??? 探知できないの?」
「うん……うまく偽装してるみたいで」
エミリィの探知に引っ掛からない偽装──。
かなりの高Lvの冒険者か、上級のモンスターということか。
だけど、牙城の外にはモンスターはいないはず。
──ならば冒険者の気配のはずだが……。
なんでこの安全地帯で偽装する必要がある?
わからないが…………。
彼らが、やましい気配を醸し出しているのもまた事実。
…………。
「わかった。警戒していこう」
「うん……」
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