第47話「なんてこった、プレゼントしよう!」

「お兄ちゃん! わかったよー!」


 んん?

 なんぞ?


 急にテンション高めで話しかけてきたエミリィに、ビィトが若干ばかり気圧けおされながら聞くと、

「な、なに? どうしたの?」

「ほら、これだよね!?」


 小冊子片手に、鑑定結果らしきものをしきりに示す。


 あー……そういえば、闇骨ナイフの鑑定をさせてたっけ。


 どれどれ?

「ん~…………。────惜しい!」


 エミリィは示して見せたのは惜しいどころではなく、出鱈目そのものだったが、それは仕方ない事。


 なんせ、鑑定には無数の文字と記号のなかから合致するものを探して照らし合わせなければならない。

 

 小冊子にはビッチリと説明と文字と記号が掛かれているのだが、これまたややこしいことに色々な文字記号があって、中には似ているものも多い。


 そのため、鑑定に慣れないものが挑戦すると、時々、文字・記号を間違えて鑑定することがある。

 もし間違えた鑑定結果を信じこむと、戦闘場面等で大失敗することがある。


 今、エミリィが示しているのも間違えやすい記号をドンピシャで当てているし……。


「ちょっと違うかな。それはこれ。闇と耐性の記号を選らばないと──風の記号と似てるからね。間違えやすいんだ」


 しかも、中古品のためか小冊子はボロボロで注記だらけ。

 鑑定用のスクロールも色あせており文字が霞んでいて非常に見づらい。

 

 今までに、様々なアイテムを繰り返し繰り返し、何度も何度も鑑定をしたことのあるビィトだからわかるのだ。


 とは言えそれをエミリィに直球で伝えることはしない。

 鑑定に下手に苦手意識を持たれても困るしね。


 人を教育するなら、手本を示して、やらせてみて、結果はどうあれ──褒めてやらないとね。


「あーそっか……。ごめんなさい」

「謝ることじゃないよ。……はい。じゃあエミリィにはこれをあげる」


 飴と鞭も大事。

 まぁ、見た目が凄い装備だけど……。


「エミリィ、頑張ってるからね!」

 ──はい。


 そう言って闇骨ナイフを差し出したビィトに、

「え? いいの!!」


 女の子にあげるにしては飾り気も何もないけど……。


「う、うん。もちろんだよ。パーティなんだからドロップ品は山わけだよ」


 とはいえ、分けれないものや、装備品なんかは要相談ってね。


「ありがとう! 大事にするね」

 そう言って骨のナイフを抱きしめるエミリィ。

 可愛いけど、物騒だな──おい。


「あと、これもあるんだけど……」


 ビィトが取り出したのは弓。

 エミリィに扱えるかどうかわからないけど、念のため。


 少なくとも、スリングショットよりも威力は間違いなく上だろう。


「弓? ……あまり得意じゃないけど、いいの?」


 困った顔のエミリィだが、ビィトとしては嬉しい誤算だ。


「得意じゃないってことは、扱ったことはあるんだ?」

「う、うん……。ベンさんの所では遠距離専門だったから──」


 なるほど。

 奴隷が多くいた頃のベンは、完全に役割を分化したパーティを作っていたのだろう。


 そして、ドケチのベンのことだ。


 再利用できる確率の高い弓矢を奴隷に使わせていたことは想像に難くない。


 魔術師は希少だし、スリングショットは安価だが、弾の再利用が難しい。

 ならば、必然的に奴隷の使う武器は弓矢の比率が高くなるだろう。

 とくに近接戦闘に向かない奴隷ならなおさらだ。


「少しでも扱えるならいいよ。矢は自作できるし、ベアリング弾もいつかは尽きるからね……。攻撃手段は多くあった方がいいよ」

「わ、わかった」


 エミリィは神妙な顔で弓を受け取ると、弦を引き絞っている。


 かなりの強弓らしく、ほとんど弦が引けない様子。

 だが、弦の長さには余裕があるため調整次第ではエミリィにも引けるようになるだろう。


 あとは、

 問題の矢だが────。


 ま、手元にない以上作るしかない。


 スリングショットも悪くはないのだが、衝撃力はあっても貫通力の点では弓矢に遠く及ばない。


 しかも専用弾はいずれ尽きる。


 その辺の石ころでも代用できるのは強みだが、もちろん威力は著しく下がる。


 その点、矢なら木材さえ入手できれば自作が可能だ。

 鏃は工夫が必要だが、当面は木の先端を削るだけでも十分だろう。


「よし、じゃあ、これはエミリィの物だよ」

「うん! 練習するね!」


 ……微妙に心配になる回答だが、致し方あるまい。

 アイテム自体にスキル向上の効果もあったし、なんとかなるさ。

 

「じゃ、そろそろ休もうか。エミリィが先に休んでていいよ。──俺はもう少しやることがあるから」


「え? う、うん。わかった────おやすみなさい」


 先に寝ることに多少の抵抗を感じているようだが、何度も同じやり取りをしているので、エミリィもゴネることはしなかった。


 受け取った装備品を大事に片づけると、火の傍で作業しようとしているビィトの背中にぴっとりと寄り添って寝ころぶ。


 敷物はビィトしか持っていないのだから当然なのだが、ちょっと近すぎてドキドキする。


「いつでも交代するから。お兄ちゃん遠慮なく言って!」

「ああ、わかったよ。おやすみ」


「おやすみなさい」


 予備の毛布を顎下まで引っ張り上げると上目遣いでビィトを見上げ、柔らかく微笑むエミリィ。


 その頭を軽く撫でると、ビィトは火に向き合い作業を開始する。


 赤くなった顔を見られたくなかったというのもある。


 ……こういったとき、「豹の槍パンターランツァ」の頃はジェイクとリスティはよろしく・・・・やっていたな~と、ぼんやり思い出すが、ビィトにそんな度胸も甲斐性もない。



 だから、男は黙って木を削る。



 これからビィトは矢の製作に取り掛かるのだ。




 まだまだダンジョンの夜は長い……。

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