第46話「なんてこった、鑑定しよう(前編)!」
たらふく食べたビィトにエミリィはそれぞれ食器を洗いつつ、口の中の油を水で割った果実水でサッパリと流しこむ。
「美味しかった! ありがとうお兄ちゃん」
「うん。エミリィの手伝いのおかげだよ」
まぁ、味付けはビィトだけど。
そもそも手間暇も何もない。切って煮込んで、焼いて、千切って並べただけ。
食材が良ければ誰でも作れる。
「そ、そんな! 私、お肉切っただけだよ?」
「充分だよ。次もお願いするからね」
えへへ、と照れた笑いを浮かべるエミリィ。まんざらでもない様子だ。
ビィトも悪い気分ではない。こうして誰かと自分の作った料理をはさんで食べるのは実にひさしぶりな気がする。
「
まだ時間はそれほど経っていないというのに……。
「はい」
「ありがとう」
エミリィが洗い終わった食器を渡してきたので礼を言って受け取り、魔法で乾かす。
食器をピカピカに洗ったならば後は休むだけ。交代で寝て、一人が火の番をしつつ、モンスターを警戒する。
とはいえ、エミリィの探知には引っ掛かっていないようだし、簡易なバリケードとエミリィによる完璧な偽装があるのでそれほど心配しなくてもいいだろう。
もっとも、油断は大敵だけどね。
「もう寝るかい? 俺はまだやることがあるけど────」
「ううん。大丈夫だよ。──お兄ちゃんから先に寝て?」
そう言ってエミリィはビィトを促すも、
「いや、これの鑑定とか色々あるから────じゃ、二人でしばらく起きてようか」
疲労を取るためにもしっかりと休息を取る必要がある。
かと言って無理に食事をして無理に寝るのも気が休まらない。
なるべくリラックスした方がいいのだ。
「うん!」
そうだ。
いい機会だし、エミリィとは今後の連携や方針なんかもちゃんと話し合わないとな。
なんだかんだで、ぶっつけ本番で来ている。これは良いことではないだろう。
ま、とりあえず今はノンビリして、腹が落ち着いてきたら話そうか。
取りあえず、まずはドロップしたものを鑑定しないとな。
ビィトは荷物の中から簡易鑑定用のスクロールと小さな冊子を取り出す。
スクロールは使い古されており、相当年季が入っているのが分かる。
これも冒険者なら大抵持っているダンジョン探索グッズの一つで、とくに鑑定の技術がないパーティではよく使われているものだ。
スクロールを広げてその上に鑑定する品物をおく。
すると、スクロールに刻まれている様々な記号が反応して、それと小冊子を照らし合わせて効果などを識別するのだ。
呪いの有無もこれで確認できる。
「鑑定するの?」
「ん? うん。まぁね。色々変なアイテムを拾っちゃったし」
そうだよ。
なんだよこの骨々グッズはよー。
「エミリィは鑑定したことあるの?」
「ないけど──ベンさんの所にいた人で鑑定できる人がいたから」
あー……そりゃ優秀だ。
鑑定魔法や鑑定のスキルはレア中のレアらしい。
ビィトも鑑定魔法を使えるが、下級のそれはほとんど役に立たない。
「生きてる」とか「動物」とか、どーでもいい情報しかでないものだから、ほとんど使ったことがない。
そもそも、こうして鑑定の道具が発達した今では、鑑定技術自体が形骸化しているところもある。
「──だから見るのは初めて」
「そっか、簡単だからエミリィにもできるよ」
多少なりとも魔力を持っている人間なら誰でもできる。
魔力のない人間など普通はありえないから、理論上エミリィでも扱えるはずだ。
エミリィにもわかりやすく見せるため、まずはビィトが入手した「ダークスケルトンキングの杖」──『闇骨王の杖|(ビィト命名)』を鑑定してみる。
「この上にアイテムを置いて────あ、一品ずつだよ」
「うん」
「で──この、小さな魔法陣の上に指を置く。あとは微量の魔力を魔法陣が感知するから、指先が温かいと感じたらそれで終わり」
「それだけ?」
「そうだよ。あとはほら────」
ビィトが示した先。鑑定用のスクロールにびっしりと刻まれている文字がボンヤリと明るくなり始めた。
無数に刻まれている文字や記号のうちいくつかが強く光ったり、弱く光ったりする。
「んーと……これは?」
「うん。この光った記号や文字を覚えておいて────あ、割とすぐ消えちゃうからね。何回か魔力を流す必要があるのを覚えておいてね」
「はーい」
って、この杖────付加効果凄いな!?
記号のうち、いくつかが魔力や身体能力に作用するものだと分かる。
赤く光ったのは上昇するもの。
青く光ったのは下降するもの。
例えば、『人魚の篭手』なんてアイテムがあるのだが、そいつの場合は水属性の耐性は赤く光るが、火属性の耐性は青く光る。
つまり、水の耐性はあがるが、火の耐性は下がるという事。
そして、今ビィトが鑑定している『闇骨王の杖』は、かなり多くの文字や記号が光っていた。しかもほとんど赤だ。
おいおい、どんだけ能力が上昇するんだこの杖?!
まずは「闇属性」に対する文字が真っ赤に輝いている。つまり闇属性の耐性の大幅に上昇しているということ。
むしろ、耐性どころか、ここまで来ると無効や吸収に近いのではないだろうか。
そして、「魔力増幅」の記号が輝いている。
この辺は見慣れているからビィトにもわかる。
見慣れない記号は、と。
当然、これだけ無数の文字や記号があるのだあら覚えきれるはずがない。
だからこそ、この小冊子があるというわけ。
冊子の中には記号と称号できるようにタグがついており、スクロール上の文字や記号を暗記して、小冊子の中にあるソレと照らし合わせるわけだ。
「凄い大量だ……この杖、半端じゃないな」
偶然とはいえ、アンデッドから入手した杖にこれほどの付加効果がついているとは。
とんだ目にあったとはいえ、これは大きな収穫。以前使っていた
……見た目は凄いけどね。
大腿骨と真っ赤な頭蓋骨が乗ってるんだもん……。どこの魔王だよ。
そして、鑑定結果を小冊子と照らし合わせつつ────。
※ 闇骨王の杖 ※
闇耐性──極大増(吸収、または無効化)
聖耐性──極小減
その他の魔法耐性──中
魔力増幅──体内の魔力を大幅に消耗する代わりに魔法に威力を上乗せ
死霊避け「アクティブ」──中級以下のアンデッドが避ける(上級以上には効果なし)
死霊支配「アクティブ」──中級以下のアンデッドを使役(上級には効果なし)
瘴気「アクティブ」──魔法を吸収し、威力を減じて反射
「……おいおい、何だこりゃ」
ざっと確認しただけでも、魔術師垂涎の効果がズラリ!
魔力耐性だけでも十分に価値があるものだ。
そしてなんといってもやはり、魔力増幅効果。
下級しか魔法の使えないビィトにとっては火力増加に一躍買うこと間違いなしの打ってつけのものだった。
「す、すごいの?」
エミリィはよくわからないという顔だが、ビィトの興奮だけは伝わってきたようだ。
「あ、あぁ! 凄いよこれは! 俺の大したことない魔法の火力を上昇できるんだ。もちろん防御魔法も!」
「へ、へー……? ……え? 大したことない? 魔法の火力……」
ん?
なんだかよくわからないが、エミリィが顔中に「?」マークを付けているが……。まぁいいか。
アクティブ効果は使いどころがさほどなさそうだが、いつか使う機会があるかもしれない。
それに骨どもはウンザリだ。
また遭遇することになったら遠慮なく使わせてもらおう。
……もっとも、上級には効果がないらしいので、ダークスケルトンには効かないだろうけど。
「じゃ、次はこれ行ってみようか」
ビィトのサイドアームかつ、もう一本をエミリィに上げる予定の「ダークスケルトンナイフ」──『闇骨ナイフ』の鑑定。
「エミリィがやってみて」
「う、うん……でも、その」
ん?
「わ、私あまり字が読めなくて……」
恥ずかしそうに俯くエミリィ。……まぁ学習の機会なんてなかっただろうし、仕方ない事。恥ずかしがるほどでもない。そんなのは冒険者に腐るほどいる。
「大丈夫だよ。俺が読むし──そのうちエミリィにも教えてあげるから」
「ホント!? ありがとう!!」
思いがけず学習の機会を得られたことに対してエミリィが体全体で喜びを表す。
ピョンとビィトに抱き着いてきたものだから、色々ドギマギとした。
君……薄着なんだから勘弁してくれ。ビィトも男の子ですよ!
「ま、任せて────ほ、ほら、早く鑑定してみよう?」
そう言って、闇骨ナイフの鑑定に初挑戦するエミリィ。
神妙な顔つきでスクロールに指を置くと、
「わ!────あ、あ、あ! 光った! ねぇお兄ちゃん光った!」
わかった、わかった……から、落ち着いて──。
ピョンピョン跳ねちゃダメヨ。君ぃ、薄着なんだから!
色々、その、ね。
「落ち着いてエミリィ。こことここと、これだね」
光った箇所は概ね闇骨王の杖と似通った場所もあるため、すぐに目星がついた。
エミリィには練習も兼ねて小冊子を使わせて記号と文字を探させる。
文字が読めなくとも、記号として認識すれば冊子と照合できるはずだ。
「んーと。んーーーと」──エミリィがうんうん、唸りながら冊子から一致する記号を探している中、ビィトはダークスケルトンの弓も調べておく。
効果はやはり同じようなものだ。
※ 闇骨ナイフ ※
闇耐性──大増(吸収、または無効化)
聖耐性──小減
瘴気「アクティブ」──魔法を吸収し、威力を減じて反射
短剣技術──中増
※ 闇骨弓 ※
闇耐性──大増(吸収、または無効化)
聖耐性──小減
瘴気「アクティブ」──魔法を吸収し、威力を減じて反射
長弓技術──中増
いずれも呪いはない。
これだけでも大助かりだ。
予備の武器もない状態でダンジョンに挑むこと自体無謀なのだが、早期に入手できたのは幸いだった。
我ながら行き当たりばったりだなと、呆れるほどだが────今回は事情が事情だ。
さて、エミリィが自力で調べている間にこっちも調べておくか。
曰くのありそうな一品。
バングルと冠、そしてローブだ。
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