第45話「なんてこった、凄くうまい!」


 ホカホカと湯気をたてるスープ。

 よい香りを漂わせる兎肉の炙り。

 見た目に麗しい新鮮なサラダ。


 ゴクリ…………。

 い、

「「いただきまーす!!」」


 『石工の墓場』の古代の休憩場所に明るい声が響いた。

 そこから漂う肉焼けた匂いと、さらによく煮えた良い香り。

 それらが二人の食欲を、否応なくそそる──。


 では、実食。


「あむ」

「もぐ」


 エミリィもビィトもまずは足肉からガブリ。

 この頃にはエミリィもビィトの顔色を見てから食事をとることはなくなった。良い傾向だと思う。


 プリュ────。

 モリモリモリ……。


 ッ!!


「んむ!」

「んーー!!」


 塩だけの味付け。

 簡素で安い兎肉。


 薄暗く不気味なダンジョン──────。



「「うまーーーーーーい!!」」



 肉、柔らか!!

 肉汁すっごい!!

 臭みが全くなし!!


 なにこれ、────旨い!!


「おいひーよー!」

 おいひーよー、おいひーよ──!


 エミリィちゃんが壊れた。


 まるで壊れかけの魔導機械オートマタのように、繰り返し繰り返し呟くエミリィ。


 よほど美味しかったのか涙まで浮かべてる。


 だけど、

「凄く旨いなコレ……。ただの兎の肉じゃなくて、荒野の野兎かな」


 普通の兎よりデッカイ、それ。


 多分、ダンジョン都市近郊にある、市で管理している農場に度々現れる害獣の肉だろう。


 荒野野兎とか、そんな感じの捻りのない名前だった気がする。


「うーん……ダンジョン都市に来て初めて兎肉を買ったけど……。これ旨いなッ」


 いつもはジェイクらの嗜好に合わせて少し高めの肉を買っていたのだが、今回は懐事情もあり安い肉を買った。

 だけど……これが大当たり!

 うーむ。次からはこれを買ってもいいかもしれない。


「うん……うん……。お肉美味しい」

 おいひーよー……。

 ボロボロと泣きながら食べるエミリィ。──大げさやねん君ぃ!


「あはは……まだ半分残ってるし、明日も食べようね」


「うん!!」


 無茶苦茶イイ笑顔をみせるエミリィ。

 惚れてまうわ……。


「じゃ、じゃあ、遠慮なく食べて食べて! ほらほら」


 久しぶりに自分の作ったものを、美味しいと言ってもらえたビィト。

 それだけで、嬉しい気持ちがいっぱいだ。


 だけど、恥ずかしさもあり、誤魔化す様にスープをよそってエミリィに渡す。


「スープもよく味がしみてるよ」


 肉の良い香りが漂い、これもまた旨そうだ。


「ありがとう! ────ん~♪」

 早速口を付けたエミリィが喉を鳴らす。


 どれどれ。


「ん! ナス旨ッ!」

「おいしいね!」


 うわお……ナス、トロットロやないかい!

 フワフワのトロトロ……。


 まさにフワトロ!!


 し・か・も、肉の旨味をナスの果肉部分が吸っているものだから、──味が深い!!


「んんんんまッ!」

「おいひ~♪」


 あっという間に二人して一杯目を平らげると、二杯目に突入。


 今度は肉多め~♪


 少しハーブを垂らして──っと。

 んむ!

 

 美味!


「あ、味が薄かったら塩使ってね」

「はーい!」


 袋に入った岩塩とハーブを取りやすい位置に置く。

 といいつつも、エミリィには今の味付けで十分満足らしい。


「パンつけてもいい? お兄ちゃん?」


 ん?

 おうおう、いいともいいとも。


 ちょっと堅くなったパンをスープに浸してジュルジュルと食べるエミリィ。

 人によっては行儀が悪いというかもしれないけど、────ここはダンジョンだよ!

 ダンジョーーーン!

 誰が文句を言うっていうのか。


 ……その食い方や、よし!


 俺もやる。


 ちょっとだけパンを浸すと────。

 うおッ、めっちゃスープがしみ込んだ。


 パク。

「──あ、うまい」


 パサパサのパンはよくスープを吸い込み、柔らかくなる。

 肉の旨味とナスの苦みと小麦の香りが混然となり、これはこれで旨い!!


 パンが進む進む!


 んーーーーむ、エミリィちゃんやるな~!


「野菜も食べてね」

「はーい!」


 シャクリシャクリと良い歯ごたえ。

 エミリィも先日以来野菜がお気に入りらしく、モリモリと食べている。


「あ、この野菜、味が濃いなー」


 ダンジョン都市での野菜は、郊外での農園産が主流だ。

 とくに、個人栽培の多い菜園では、野菜に味に当たり外れが大きい。


 それぞれが使う肥料の差だと思うのだが、先日市場で購入したのは色艶がいいので思わず買ってしまった。だが、これも大正解だ。


 オリーブオイルの柔らかい甘味とレタスの苦さ、そしてキュウリの歯ごたえと混在になり、質素な見た目の割に実に旨い!


 塩がしっかりと味を引き立てており、食が進む進む!


 もう最高────。


「おいしい! シャキシャキでお肉と合うね!」


 口の中をパンパンにしてエミリィがいう。

 ほほう? エミリィちゃん、通な食べ方してるね。


 たしかに、このシャキシャキの野菜は肉との相性がバッチリだ。

 口の中で食べ物を合わせるなんて下品だと言われそうだが、そんな事は知らぬ。


 お上品な食卓ならサラダ、スープ、お肉、パン────なんて感じに順番に食べていくのだが、ここはダンジョンだぞ? 好きなように食うさ。


 パンをスープに浸すし、サラダと足肉を交互に食べてもいいじゃないか。


 んーーーーー。だって美味しいし!!


「「うまーーーーーい!」」


 二人して幸せの声を上げつつ、スープの最後の一滴まで飲み干した。





 ぷふぅ……。

 ごっそさん!

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