第44話「なんてこった、お手軽料理を作ろう!(前編)」
パチパチ……。
小気味のよい焚き火の音が静かに響いている。
休憩所の内部はエミリィの起こした火によって柔らかな明かりに包まれていた。
室内は適度に温められており、質のいい木材からでる煙はイイ匂いがした。
(香木か何かかな? ベッドの素材に使うにしては良いものを使っているな)
太古の休憩所で入手した木材は思ったより質の高いものだったらしい。
薪などに使えると思って避けておいた家具の残骸を手に取ると香りを嗅いでみた。
ふむ……?
古びた木材の匂いの中に、微かに芳醇な香りがする。
「どうしたの?」
火の前で熾火を調整しているエミリィが不思議そうにビィトを見ている。
「いや、いい匂いの木だな~って」
「あ、本当だ。いい匂い」
クンクンと鼻を鳴らし、今更ながら木の香りに気付くエミリィ。
彼女の鼻が悪いわけではないから、そういったことに無頓着なのだろう。
うーむ。
女の子なのに勿体ない……。
「こんな木でも外に持ち出して売れば結構いい値で売れるんだ」
さすがに持ち出して売るには手間がかかるし、それよりも価値のあるものが多いダンジョンではこれだけをワザワザ持ち帰る奴はいないだろう。
「へー」
エミリィは感心したように木とビィトを交互に見ている。
う、うん……感心するほどでもないんだけどね。ていうか、エミリィちゃんは金銭感覚を身に着けようね……。割とマジで。
「多分だけど、黒檀かな? 香りもいいし、丈夫で粘り気のある木なんだ。武具にも使われる高級素材だよ」
そうだ……!
あとでこれを使って
こう見えてビィトは小器用なのだ。
いや、そう見えているか……。なんたって「器用貧乏」の二つ名持ち。
(最近ついた不名誉な二つ名など知らぬッ)
なんたって、ダンジョン探索は物資の消耗が激しい。
稀に物資の補給ができる場所もあるが、基本は素材しか取れない。
例外としては、モンスターのドロップなどがあるが、それを宛にしては探索など覚束ない。
たしかに、武器を持つモンスターもいるため武器の補充もできると言えばできるのだが、その程度は悪いものが多く、そもそも使い慣れたものをそう簡単に放棄することはまずありえない。
補充するにしても基本は使い捨てくらいの感覚だ。
そういう意味では、リズが使う投擲武器や、エミリィのベアリング弾などは理にかなっている。
もとが使い捨てなので、そうした素材から作って補充するなどの工夫ができる。
というよりも、それをしなければあっという間に弾切れになる。
実際に、ビィトはリズが使っていた手裏剣の代用品や、その他にも日用品を作ることもできる。
まぁ、……そんな事ばっかりやっていたから器用貧乏なんて二つ名がついたのかもしれないけど、ね。
「ふーん? 私も何かできるかな?」
「どうだろ? あとで一緒に作ってみようか」
「うん!」
そんな何でもない会話をしながら、ビィトは腰を下ろした。
これで、何時間ぶりにようやく休憩を取ることができたことになる。
──それにしても疲れた……。
とくに地下墓所での戦闘は本当にキツかった。
(どっこいせ────)
丈夫で防水性の高い毛皮を敷いて座り、その上にさらにボロ毛布を敷けば十分快適なものだ。
「はぁ……疲れた」
「迷惑かけてごめんなさい……」
疲れたと言ったビィトに、シュンとしたエミリィが謝る。
きっと、ビィトの疲労の原因に自分があると思っているのだろう。
それは間違いではないけど、
「迷惑じゃないよ。……前にも言ったけど、君とは仲間で、同じパーティなんだ。──助け合おう?」
「……う、うん」
チョコンとビィトの隣に腰かけるエミリィを見て、そう言えばエミリィ用の荷物を紛失していたことを思い出す。
彼女にも最低限の生活用品を持たせていたはずだが、例の親の形見の七つ道具入りの鞄以外は失われていた。
まいったな……寝具はさすがに、余分な分はない。毛布は多少あるが、敷くための毛皮がね──。
「……ま、いっか」
問題を先送りにしつつ、ビィトは背嚢を手繰り寄せると、
「さ、食事にしよう」
うん!!
ようやく調子を取り戻してきたエミリィに、ビィトも笑いかける。
っていうか、本当にこの子は食べるのが好きだな────。
「じゃあ、エミリィにも手伝ってもらおうかな?」
「はい! 何でも言って、お兄ちゃん♪」
そう言ってニッコニコ顔のエミリィに苦笑しつつ、
「じゃあ食材を切り分けてくれる。えっと──」
油紙に包まれたベーコン、チーズの塊、タマネギ、お芋、キャベツ~っと色々あるけど今日はどうしようかな。
うん。
保存食として優秀なベーコンは、取っておこう。
そうすると…………。
んーーーーーーーー。
「じゃ、日持ちしない物から。まずは生のお肉と葉物から食べちゃおうか」
そう言って取り出したのは、市場で買い揃えた野菜とお肉だ。
一応、肉には塩が振られて多少水分が抜けているが、保存処理はほとんど施されていない。
葉物野菜に至ってはそのまま。
冒険者はあまり食事に頓着する者は多くない。だが、ビィトは元貴族。そしてかつてのパーティのジェイク達も元は貴族だ。
そのせいか皆で一々味にうるさく、小間使いできるビィトがいたせいか、やたらと飯には注文が多かった。
そのため、器用貧乏のビィトは出来得る限りの工夫をしたものだ。
今をもってシェフ並みとはいかないも、並みの冒険者よりは料理ができるという自負はある。
これが、ビィトの数少ない自慢の一つでもあった。
とは言え、ジェイクたちに褒められることなど滅多になかったので、その自信はとっくに粉々であったけども……。
「お肉!?」
お肉と聞いてテンションの上がるエミリィちゃん。
昨日宿屋で食べて以来、いたくお気に召したらしい。
……それ以前は滅多に食べれるものではなかったらしいからな。そりゃそうか。
「うん。2、3日はこれを使うよ。あと、葉物もアシが速いからね」
ビィトが『
そう、食材だ。
「わぁ! これ……生のお野菜?!」
「そうだよ。きゅうり、ナス、レタス……他にも色々あるよ」
キラキラ輝くのは、まだまだ鮮度を保っている野菜類。
他にも背嚢の中には、たくさん入っている。
さぁ、調理をしよう!
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