第41話「なんてこった、二度と来るかッ!」
そう言えば……。
「エミリィは何で奥にいたんだ?」
「……うん? うーん、確かゴーレムに追い詰められて──板壁を破って避難したとこまでは覚えているんだけど……」
シュ~ンとしたエミリィ。こんなとこでする話じゃないな。
だけど、
「最初はすぐにやり過せると思って息を潜めていたら、後ろから殴られて……あとは分かんない」
ガックシと肩を落としたエミリィ。
なるほど、入った直後にダークスケルトンに襲われ、奥へと連れ去られたのか。
だけど、なぜ殺さなかった?
「よく生きて──」
「その時だけど、夢を見たの……古い、古い王国の夢。ドラゴンと戦い、そして死を賭して墓所の奥に封印し、それを見張るために殉死した、小さな王国の夢……」
エミリィの語る夢。
小さな王国で、起こったドラゴン災害。
生きたまま食われていく人々と勇敢に戦った兵士たち。
彼らは体を不死に変えて戦い、最後はドラゴンを洞窟の奥深くへ埋め、封印した。
そして、ドラゴン災害によって死した人々を安置し──慰めた。
最期には、不死となった王と兵士達は、ドラゴンが目覚めないように永遠の見張りにつき────いつしか朽ち果てていった。
彼らの望みは、
「彼らの宮殿が、このダンジョンに飲み込まれたとき。──訪れる者がいなくなってからは、ただただ、人間として生き……死にたいって。だから、私の体が欲しいって言ってた。……夢だよ?」
…………。
そうとも夢だ。
勇敢な彼らは
そして、ゴーレムにすら見張られ外に出る事すら敵わない、哀れで醜悪なただのモンスターだ。
そんな奴らに同情の余地などない。
少なくとも、アンデッドの安楽死のために、エミリィを奪われるなんて許せるか!
「……良かっただろ? 王様……」
じっと手に持つ杖を見るビィト。
「望み通り……死ねたはずだ」
そうとも……。
──死にたいなら戦って死ね。
ドラゴンを滅ぼしてから死ね。
エミリィを緩やかな自殺の道具に使うんじゃない!
「…………行こう、エミリィ」
「うん! ほとんど寝ててよくわからないけど……お兄ちゃん、強くなった?」
ん?
いや、
「多分、コイツのお陰かな?」
気味の悪い意匠の杖。
亡国の王の杖────ダークスケルトンキングの杖……。
「『骨王の杖』って奴だと思う。連続使用すると、俺でも魔力がかなり吸い取られるけど、その分威力は折り紙付きだ」
使ってみた感じだと、呪いも何もない。
ただただ、魔力を増幅し、発動までの速度さえ短縮せしめるという、魔術師にとって涎垂の一品だろう。
「ふーーーん? 杖だけなのかな? うーーん……」
エミリィは可愛らしく首を傾げているがビィトにはよくわからない。変わったものと言えばこの杖。
あとは罠だったのかよくわからないが、ダークスケルトンキングからドロップしたこのバングルだけ。『骨王の腕輪』って感じでいいかな?
効果は……あとで調べよう。
こいつのお陰で最後に酷い目にあったぜ……。
まさか、ダークボーンドラゴンが出るとはね。ほんとシャレになら……ない、ぜ?
あれ?
なんか、また暑くなって来てないか?
確かに周囲は燃え残ったブレスの残照てあちこち火が残っているが、ほとんど燃えカスの様なもの。
急激に気温が上がるはずが……。
「お、お兄ちゃん……!」
ガクガクと震えているエミリィ。
その指さす先は、
「お、おいおい! マジかよ!」
階段の上がチロチロと揺らめいている。
「あの野郎またブレスを!!」
そうだ。そうだよ!
こんなとこで
なんでブレスが一回だけと思ったよ?!
あり得ないだろう?
そりゃー、下の階で敵が生きてる気配がしたら、追撃するわな────!!
「エミリィ!」「お兄ちゃん!」
コクリ、コクコク。
二人して頷き合うと、
「「逃げるが勝ち!!!」」
このクソダンジョンめが!!
二度と来るかぁぁぁあ!!
《グゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!》
墓所内にダークボーンドラゴンの叫びが響き渡る。
それに追われるようにして二人の人影が脱兎のごとく駆け出す。
一人は魔術師、
一人は盗賊少女、
まるで見かけは盗掘者だが、どう見ても大した戦利品は無さそうだ。
それよりも何よりも背後から迫る炎が二人を追う。
「ぎゃあああああああ!! あち、あち、アチィぃぃぃ!!」
「お兄ちゃん急いで、早くぅぅぅぅうう!」
ダダダダダダダ!!!!!
薄暗い墓所が奥の方から明々と燃える様に明るくなる。
否、燃えているから、明るくなる。
その明かりからは逃れるように走る二人。
逆光となって二人の姿はシルエットとなって浮かぶも、その姿はまさに必死そのもの。
大荷物と杖の魔術師と、際どい恰好の少女が、奔るは走る!!
叫びながら走り、光さす空間である石工の墓場のゴーレムたちが徘徊する通路に──。
「「あっちーーーーーーーーー!!」」
ドターーーーーン! と焼け残った板壁をぶち抜いて飛び出してきた。
そのまま、左右に別れると壁を背にしてピッタリと張り付くと──。
ゴォォォオオオオオオオオオオ!!
と入り口から炎が噴き出してきた。
命からがら。
間一髪。
そして二人して叫ぶ────。
「「二度と来るかこんな場所ぉぉお!!」」
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