第39話「なんてこった、しつこいんだよ!」

 まずは────神聖魔法ッッ!


 ──カッ!!

 ゼロ距離で放たれる神聖魔法はアンデッドの大敵だ。

 ドラゴンとはいえ、スケルトンどもと同じアンデットのこいつも無事では済まないだろう。


 片手はボウガンの矢を掴んでいるので動かせないが、もう片方の手は空いている。その手に持つ杖を奴の頭に向け────ぶちかます!!


 ──────あれ?


 もう一発────カッ!!!



 …………な、なにぃ!?



 神聖魔法によって何かしらのダメージを与えられると思っていたビィトは唖然とする。


 ……どうみても、全く効いていない。


 ま、まさか……。

 こいつも魔法を吸収できるのか!?


 至近距離で放ったはずの神聖魔法が瘴気によって吸収されている。


「馬鹿な!?」


 ビィトの熟練度MAXの神聖魔法は下級のそれとはいえ、ダークスケルトンキングですら浄化できた。

 だったら、同じ骨野郎なら無事であるはずがない。


 って、そうか!

 こいつらの纏う瘴気のせいだな!?


 なるほど、瘴気に向かっていくら魔法を撃った所で吸収されるだけだ。

 それは一階で遭遇したダークスケルトンと同じこと。


 あいつも表面に当たる魔法は悉く吸収して、反射してきた。


 ならば、神聖魔法も例外ではないということか!


 そうなりゃ、あとは聖水だが……。


 って、こんな状態で荷物から出せるか!

 杖を手放して片手で取り出してもいいのだが、聖水も残り少ない。


 スケルトンやファントム程度なら少量でも効果があるのだろうが、コイツはデカすぎる!


《ギャァォオオオオオオオオ!!》

 うるせーーー!!!


 ビリビリビリ……と鼓膜を叩く大音響。

 だが、それはビィトに向けたものではなく。エミリィを対象としていた。


 ま、まずい!


 唸る声をあげてエミリィを追うのは、ダークボーンドラゴン!

 今さらながら必死に逃げ出すエミリィ。

 速い、速い速い!! す、凄い速度だ。


 ビィトが客観的に彼女の逃げ足を目の当たりにするのは、これが初めてではないだろうか?

 何だかんだでエミリィが逃げるときはビィトやベンに巻き込まれていることが常なので、彼女自身が単独で標的になったことはほぼない。

 枷を外した時のエミリィの逃げ足たるや……。ビィトがドラゴンの顔面に張り付いているという状況でありながら、感心してしまうほどの速度。


 併走したことは何度もあるが、彼女単身ならあれ程早いのか!?


 もちろんビィトの身体強化の効果もあるのだろうが、それでも速い。


 あっという間にダークボーンドラゴンを引き離すと、うろつくダークスケルトンさえ振り切りあっという間に出口に駆け込んでしまった。


 が……。


 あ、やばい!

 このままだと……!?


 ビィトはこの先どうなるか容易に想像できてしまい、焦りに焦る。


 しかし、もはやエミリィしか見えていないダークボーンドラゴンはそのまま突っ込む。


 おい、おいおいッ!?

 止せ、止せ、止せぇ!


 足元にワラワラと湧き出たダークスケルトンすら、グッシャン、パッキン! となぎ倒しつつ進む進む!!


 こいつらには、仲間意識など皆無らしい。


 そもそもコイツダークボーンドラゴンはどういう経緯でここに囚われていた────って、うおおおお!?


 だーかーらー!

 止めろぉぉお!


 このアホドラゴンは通れるはずもないのに、エミリィを追いかけてあの階段のある所に目がけて突っ込んでいく。


 ──入れるわけないだろ、アホぉぉぉお!


《ギャォォォオオオオオオオオオン!!》


 ダメだ。

 完全にイカレてやがる。


 あとは、ビィトで対処するしかないのだが────。


「神聖魔法が効かないんじゃ、どうしろってんだよッ!」


 逆ギレしつつも考える。

 目に杖を突っ込んで発射するか? いやいや、角度が悪くて効果があるかは微妙だが……。


 そうだ!!


 こうなりゃ、『水矢』で顔面に大穴を開けてやるか?!

 あるいは、首を『水矢』で切り落とすのもありか────。


 って、

「魔法が効かないとか、どんだけずるいんだよお前らはぁぁぁああ!!」


 ああああああああ!!! 突っ込む!?

 無理、無理無理無理無理ぃぃい!!


 ね?

 一端落ち着こ?


 ね?

 一端バック!

 タンマ、タンマタンマぁぁああ!!


 あーーーーーーーーーー!!

 エミリィ、逃げてくれぇぇぇえええええ!


 階段に入り口に向かって猛然と突進するダークボーンドラゴン。


 その様子に気付いたエミリィが慌てて階段を下り始める。


 よし、いいぞエミリィ!!


 俺は────────。


「二度と来るか、こんな所ぉぉおおお!!」


 てりゃぁぁぁああああ!


 ドラゴンの顔面に両足を突っ張りぃぃぃぃいい!!


 思いっきり前方に跳躍ッッ。


 すなわち階段に飛び込んだ! それも……頭からッ。


 そこに目掛けて、

 ズガァァァァァアアアアアンン!!!!!


《ゴォォォオオオオオオオオオオオオ!!》


 と、ドラゴンが顔面を半ば埋没させるようにして突進をブチかます!


 ズズン!──とダンジョンが揺れるような衝撃のあと、ゴリゴリと壁を削りながらドラゴンが追ってくる。

 いくつもの髑髏がパキパキと割れていき、階段に飛び込んだビィトに足にドラゴンの顎が触れそうに────……!!


 ────ズゥゥンン……。


 しかし、そこで勢いがそがれる。

 さすがに巨体過ぎて狭い通路は通り抜けられない様だ。


 顔面を突っ込んだ状態で動けなくなったドラゴンだが……、「おいおいおいぃぃ!?」──ゴパァと口を開けると、階段の先にいるビィトたちを焼き焦がさんとブレスの構え。


 一方でビィトたち。

 エミリィが先に逃げ込んだ階段、その先に飛び込んできたビィト。

 その勢いは留まることなく、彼女に激突してようやく止まるも、小柄なエミリィに荷物を満載したビィトを抱き留めることなどできるはずもなく。


「──ワブッッ!!」


 小さく悲鳴を上げた後はゴロゴロとビィトとともに転がっていく。

 途中でビィトが姿勢を変え、背に担った荷物を下敷きにして自らとエミリィの身を護る。


 二人して階段を滑りながら抱き合いズルズルと下っていくが────。


 ビィトの目にダークボーンドラゴンの大口が見えていた。

 そこからチロチロと火が上り──……。


「や、ヤバイ!! ヤバイ、ヤバイ!!」


 ヤバイ!!!!!!!


「お兄ちゃん?」


 周囲の温度が急激に上昇する。

 抱きしめていたエミリィは顔を上気させているが、それは照れから来るものか、気温上昇から来るものか……!


 ってそれどころじゃない!


 ドラゴンブレスの直撃を受ければビィトの『水衣』じゃ防ぎきれない!


 そんなの試すまでもなく分かる。


 階段をしこたま転がったのでビィトの全身は酷く傷んだが、今は痛みなんて無視しろ────時間がない!


「エミリィ! 起きて!──走って!!」

「え? え? え?」


 きょとんとしたエミリィ。

 もう危機は脱したと思っているのだろう。


 違う!


 まだだ!!


「早く!!」






 ────ドラゴンブレスが来る!!!


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