第38話「なんてこった、こいつがボスだ!」
《ギャァァァァオオオオオオオオオン!!》
吠え猛るダークボーンドラゴン。
奴の青く燃える体、その明かりだけで死者の街が煌々と照らし出された。
明かり魔法なんていらない。
っていうか、そんな暇もない!
「走れエミリィ!!」
「うん!! お兄ちゃんも急いで!」
そうだ。
エミリィの方が速い!
速いけど、場所の知見はビィトの方がある。
どうやって連れてこられてたのかわからないが、エミリィがここの景色を見るのは初めてだろう。
ちょっと前にビィトが仕掛けた柱によるローラーで骨の絨毯は随分丁寧に
しかも、ダークスケルトンの残党がまだまだうろついている。
「エミリィ! とにかく前へ! 遠くに見える建物の中に地下へ向かう階段があるからそこまで行けばこいつも入れない──はず!」
左右のアパートは気にするなと言い置き二人して疾駆する。
ガシャガシャと骨を踏みつぶしながら走るも、背後からの圧力がすごい。
《グゥオオオオオオオオオオ!!!》
ズン! ズゥン!! 物凄い足音が空間に響き渡る。
その度に地面に散らばった人骨がカタカタと揺れる。コイツぁぁ桁違いのモンスターだ!
通りでダークスケルトンキングを倒しても宝がないわけだ。
本当のボスはコイツだ!
こいつを倒して初めて奥の隠し通路にあるお宝に巡り合えるのだろうが────!
こんな奴倒せるか!!
「振り向くなエミリィ! 君の足ならギリギリ逃げ切れる──」
「え? お、お兄ちゃんは!」
そうだ、俺はコイツに追いつかれる!
絶対足ではかなわない──……。敵わないなら、逃げない!
立ち向かう!
「お兄ちゃん、まさか!」
「いいから行け!」
「無理! 勝てないよ!!」
当たり前だ勝つ気なんてない。
勝てるわけがない。
だけど、起死回生の一手は立ち向かうしかないんだ!
だからさぁぁ、俺に構うなエミリィ!
「行けぇぇぇぇ!!」
グっと、一度唇を引き結んだエミリィ。
ビィトを目を合わせると力強く頷く。
そうだ。俺を信じろ!
「こい! トカゲの骨野郎!」
《グゥオオオオオオオオオオ!!!》
どうやって知覚しているのか知らないが、奴は確実にビィト達が見えている。しかも、探知範囲もかなり広そうだ。
だが、それが狙い目でもある。
そうとも、例えば獲物が二ついたらどうする?
頭のいい奴ならどっちかに絞るだろう。
頭のすごくいい奴ならどっちも獲れるように工夫するだろう。
でも、頭の悪い奴なら?
《グゥオオ!!》
エミリィを見つけるとグワバと口を開け食らいつかんとするも、
「こっちだ!」
わざと見えるように大振りな動きでダークボーンドラゴンの前を横切る。
それをチャンスと見たのか、容赦なく食らい付くダークボーンドラゴン。
その一撃を危うい所で躱し、さらに後方へ逃げるビィト。そのまま、ビィト追わんとダークボーンドラゴンが迫るが、────ここだ!
「掛かってこい!」
その安い挑発に乗るダークボーンドラゴンは、顔全体で叩きつける様にしてビィトに食らいつくが──。
ドカァァン!
と、街中にある巨大な柱に顔面から突っ込む羽目になった。
「……やったか?!」
って、
《グゥオオオオオオオオオオ!!!》
それくらいでは大した痛痒も感じていないだろう。簡単に柱を噛み砕くと、ブチキレたように吠える。
だが、それでいい!
突撃の勢いは間違いなく削がれている。
広い空間に出たことで自由気ままに暴れ回っていたドラゴンだが、まさかこんなことろに障害物があるとは思わず面食らっているようだ。
砕き切った柱から顔を上げるとプルプルと顔を振るう。
あービックリしたと言わんばかり。
その柱とはビィトが「ビィト鋸」で切り出し、ダークスケルトンナイトを一掃した時に使ったやつだ。
そこにビィトが飛び掛かる。
身体強化を施し、身体能力が向上しているビィトからすれば突撃の勢いを削がれたダークボーンドラゴンなど止まっている牛と
「たりゃぁぁああ!!」
威勢よく声を上げるも、飛びついた先はドラゴンの顔面だ。奴の眼窩に足を突っ込み、エミリィが売ったボウガンの矢に手をかけしがみ付く。
まださっきのドラゴンブレスの余熱がのこっているのか奴の表面はほんのりと温かい。
もし、『水衣』を纏っていなければ火傷するほどの温度だった可能性もある。
ピッタリと顔面に張り付いたビィトだが、驚いたのはダークボンドラゴンだろう。
ぶち殺す予定の人間がチョコマカと逃げ回っていたから、コンガリと焼き殺してやつつもりが────まさか向こうからくるなんて?!
といったところだろうか。
戸惑ったように顔を振り回すがビィトとてそう簡単には振り下ろされない。
かと言ってこのままでは攻撃も出来ずに掴まっているだけだ。
……これがビィトの策?
ブンブンと振り回されるビィト。必死にしがみ付いているが今にも振り落とされそうだ。
そこにエミリィが気付いて悲鳴を上げる。
「お、お兄ちゃん!?」
思わず足を止めたエミリィだが、
「エミリィ! 後ぉぉお!」
彼女の後ろに迫っていたのはダークスケルトン。
やはり、まだまだ数がいやがる!
しかし、彼女は少しも慌てず──軽いステップで距離を取るとベアリング弾を発射。正確無比な射撃でダークスケルトンを射抜いた。
パカァァンという音が小気味よく響くと頭部を失ったダークスケルトンが崩れ落ちる……。
ビィトが初見であれ程苦戦した相手が一瞬だ。
やはり相性の問題だろうか。
少し、悔しい気持ちのビィトだったが、
「何してるんだ! こいつがいつまでも俺に構うわけないだろ!!」
そうとも、ダークボーンドラゴンとて馬鹿ではない。
顔面に獲物が貼りつき振り払えないなら、そいつを無視して次の獲物を狙う頭くらいある。
「だ、だって!」
だってもそってもあるか!
早く────。
「早く逃げろぉぉぉおお!!」
ビィトの誤算はいくつもある。
まずはエミリィの存在。
ちゃんと言うことを聞いて逃げてくれるものだと思ったのだが──。
《グウゥオオオオオオオオオ!》
クソ! やっぱり……!
ダークボーンドラゴンは顔面に張り付いたビィトを鬱陶しく思いながらも無視。
まずはエミリィを仕留めようと彼女を追うドラゴン!
この野郎!
そして誤算がもう一つ。
……ビィトとて、何も考えがなかったわけではない。
倒せないと思いつつも、接近戦でなら勝機があるかと考えてしがみ付いたのだ。
つまりはゼロ距離で魔法攻撃をブチかましてやるという強引な作戦。
ダークスケルトンキングもこれで倒したんだ!
いけるさ!!
まずは────神聖魔法!
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