第35話「なんてこった、逃走開始だッ」
《グゥォォォオオオオ────》
うるせッ!
ギャーギャー騒ぐな!
久しぶりの獲物で興奮してるのは分かるけどな……。
「ボスならボスらしく、どっしりと構えてろッ!」
こりゃ勝ち目はないぞ!
聖水ももう残り僅か。
あったとしても、あの巨体を浄化しようと思ったら大瓶が100本あっても足りない。
くっそー!
なんてダンジョンだよ!
あのサイズのアンデットはリスティ級の神官職でなければ太刀打ちできない。
ビィトにできるのは、せいぜい時間稼ぎ程度だ。
少なくともエミリィが逃げられる時間を稼がないと。
「こっちだデカブツめ!」
挑発するまでもなく、ダークボーンドラゴンはビィトに狙いをつけている。
そうだ。
それでいい!!
「火力が足りないからな──二番煎じで悪いけど……」
柱を利用してやる!
「──ダンジョンごと潰れちまえ!」
柱をぶっ倒すことにしたビィト。
素早く柱に走りよると、杖を構える。
……フィィィイイン────。
集まる魔力。
それを練り上げ、魔法を顕現させる。
柱カッターとくれば、こいつ──『水矢』だ!
だけど、悠長に斬り倒す暇などない。ついでに言えば、倒れる方向なんて選んでいられない。
だから、破れかぶれ。
──とにかく数だ!
ビィトは柱に取りつくと、高圧縮『水矢』をぶち込み穴を
(……切るよりもこっちだ。あの時、大爆破のスクロールを見ておいて良かった!)
ブシュン!!
杖のお陰で強力な魔術を行使──あっという間に穴を開けると、そこに目掛けて『小爆破』の魔法を発動する。
一般に「爆発」と言うのは地上爆破と内部爆破がある。
この際、地上で爆発させる場合よりも内部から爆発させた方が無駄なく爆破の力を使うため(※ 地上爆破の場合は爆発力が空中に逃げてしまう)威力が上がる。
これを填塞効果というのだが────。
それを今やる?
どうやって!?
「お高い代物だけど、封鎖部隊に感謝するよ! 爆破用スクロールを見させてもらっておいてさ!」
そういって下級の時間魔法と『小爆破』を組み合わせる。
爆破用スクロールでは時間魔法と爆破魔法を組み合わせることによって時限爆弾としていた。
その応用を実践してみるのだ。
今まで即行で様々な魔法を試したことはあるけど…………、魔法の「組み合わせ」に意図して挑戦するのは初めてかもしれない。
ビィトシャワーや、ビィトクーラーなんてものある意味魔法の組み合わせだが、あれは火魔法と水魔法や、水魔法と風魔法を別々に発動しているだけ。
つまり1+1=2にしたものだけど、今試すのは、最初から組み合わせた魔法だ。1+1=2ではなく、(1+1)=2の魔法にするのだ。
難易度は全然違う。
やってみてうまくいくかどうかわからないけど、やるしかない。
上手くいかなくても魔法の炸裂が多少早まるだけ、問題ない…………多分。
最悪、失敗してもせいぜい死ぬだけだ。
「──やってやる!」
そうこうしているうちに、地響きがすぐ近くまで響いてきた。
最初はシルエット程度しか分からなかったダークボーンドラゴンが、その巨体を見せつけるかのようにして──ズン、ズンと迫りくる!
ひぃ!?
(──で、でけぇ!!!)
《グゥォォォオオオオンンン……!!》
くそ!
負けるものかッ。
──うまく行けよぉぉぉ!!
時間魔法『遅延』と、爆発魔法の『小爆破』────!
いけぇぇええ!!
魔力を最大限充填して、時間遡行を遅らせると、この魔法の先に『小爆破』を包み込む。
『
そも、ビィトに可能かどうか。
だが、実際に爆破用のスクロールでは、魔法陣や魔法方程式を活用しているとはいえ、完璧に複合化した魔法を制御していた。
それも、あの巻物一枚にその複雑な術を組み込んでいるのだ。
ならば、今ここで再現するのも不可能ではないはず……。
魔法陣などの補助がなくとも、ビィトの下級魔法の熟練度なら十分に可能なはずだ。
繊細に過ぎる魔法の行使だが……──できる!──…………いけぇえ!!
ズドォ────…………。……。……。
ォォ────…………。……。……。
ォ…………。
爆音が聞こえた気がしたが、すぐに何も聞こえなくなった。
これは、
「う、上手くいった……?」
発動した『小爆破』は一瞬、爆発する気配を見せたが……。なんと、その爆破する瞬間で時間が止まったかのように小さな輝きのまま固まっている。
よくよく見れば、その輝きが徐々に大きくなりつつあるようだが、その動きは実に遅い。
なるほど……。
これが時間魔法の応用……!
魔法の複合化か!
この調子では、超ゆっくりと爆発するのだろう。威力は減衰せずにじわじわと爆破。
時間魔法が解ければ、一気に爆発ッ!
これは凶悪だ……。
その効果がどれほどのものかは知れないが、時間魔法をかけ続けるなら、『小爆破』はゆっくりと爆発し、ジワジワと柱を破壊するのかもしれない。
いや、それよりも下級魔法ゆえ、それほど効果時間は長くはないのだ。
ビィトが魔力の充填を止め柱の中に封入した時点で、魔法の効果が切れるのは時間の問題。『遅延』の魔法効果が切れれば、一気に発動し、ドカーーーン!──と柱を吹っ飛ばすことだろう。
これはいいッ……!
問題は────、
「だけど、これ……細かい時間の調整ができないぞ?!」
ぶっ放してから気付いたが、いつまで魔法の効果が持続するか全くわからなかった。
モンスター相手なら、連中自身の耐性なども関連してくるので何秒間遅延できる、とは一概にはいえないのだが、それは経験で補うことができる。
だが、魔法にかけた場合は?
『小爆破』に魔法をかけた場合いつ解けるのか? それはやってみないと分からないことだった。
「くそ! でも、まだまだ!!」
一回で上手くいかなくて当然、仕込みはまだまだあるぞ!
背後から迫りつつあるドラゴンの気配に背筋を冷やしながらビィトは走り回る。
今のうちに……。
距離があるうちに……。
ビィトは罠を仕掛けまくるのだ。なんせ、あの感じだと、下手をしたらどこまでも追ってくるぞ、アイツは!?
それだけの威容を感じさせる雰囲気が、ダークボーンドラゴンにはあった。
だから足留めと、時間稼ぎは絶対に必要。
…………倒す?
無理無理無理!!
あんなん、無理や。
だから、ビィトは一貫して時間を稼ぐべく罠を仕掛けていく。
やり方は同じ、水矢で穴を穿ち、そこに『遅延小爆破』をぶち込むのだ。
それを何カ所も!
慣れてくれば魔法発動から、罠の設置まで10秒と掛からない。
逃げるように走りつつ、走るように逃げつつ、柱に次々に設置する。
10以上も仕掛けたころには、
《グゥォォォォォォォォォォオオオオオオオオンンン……!!》
「ぐッ…………!」
ビリビリビリと空気が震える。
ゾワリと寒気を感じ、筋肉が思わず縮こまる。
なんて野郎だ……。
骨だけになったとはいえ、ドラゴンに威圧感は本物だ!
見るなとわかっているのに、チラリと振り返った先────。
「ひぃ!?」
滅茶苦茶至近距離に奴がいる!
あ、あの骨格は
退化した翼の骨格から一目でわかる。
その代わりに異様に巨大化した頭部と、硬く分厚い顎の骨。
──土竜。
一説では、山に多く生息する土竜は、同じく山で暮らすドワーフを主食としているらしい。
そのため、岩陰に隠れるドワーフをそれごと噛み砕いて喰らうために、固く頑丈な顎を持つように進化したとか……。
その顎が間近に迫りビィトに食らいつかんとする!
「くそぉぉ!!」
素直に逃げておけば良かったか?!
いや、しかし────。
ビィトが少し後悔し始めた時……。
──ボォォォン!
突如、空間に響き渡る爆音。
少しくぐもった音のそれは、確かに『小爆破』のもの!
ビィトが食らいつかれんとした、まさにその時である。
来た!!
その瞬間に、気流がかき乱され、埃と骨片まじりの嫌な風が吹き抜けたかと思うと────ミシミシミシ……!
ズシィィィィインッ!!
《グゥオァァアアアン!!》
ゴッキーン! とあの巨大な柱がダークボーンドラゴンの背後に直撃!
奴の尻尾に重くのしかかる。
その衝撃が余ほど驚きたったのか、ビク――――ンと体を仰け反らせるダークボーンドラゴン。
これは効いたかッ?!
巨大な質量が圧し掛かり奴も動けないのかジタバタとし始めた。
「はは! どうだ! 抜け出せるものなら──」
抜け……。
出────。
《グウゥオオオオ!! アギャアアア!!》
ブツン。
トカゲのしっぽ切り。
ならぬダークボーンドラゴンのしっぽ切り……。
「ま、マジで?」
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