第36話「なんてこった、走馬灯が!」


 ズンズン……ズン!


《ギャアアアアォオオオオオオン!!》

 

 うわ……メッチャ怒ってらっしゃる。

 骨だけなのに無茶苦茶怒り狂っているのを感じる。っていうか、トカゲと同じに尻尾切れるのねアンタ!? 


《グゥルルルゥウゥウウ──》


 ビィトが引き攣った顔をしてジリジリと後退りしているのを睥睨するダークボーンドラゴン。

 あの野郎は体を半身に起こすと、口をガパァァァと開ける。


 そこに────……。


「おまッ! ど、ドラゴンブレスとか吐けるのかよッ!」


 骨だらけの身体でどうやってブレスを吐くというのか!?

 だが、事実として奴の口腔が真っ赤に燃え盛り、口の端からちろちろと赤い火が見え隠れする。

 骨だらけ故、どこで炎が生成されているのがよーーくわかる。


 喉の奥が真っ赤に燃え、隙間だらけの身体からポツポツと火の粉が舞い上がり、奴の身体全体が真っ赤に燃えていく。


 そこに元々纏っている瘴気とダークファントムの様な青白い炎が合わさって物凄く綺麗────。


「って、見とれてる場合じゃない!!」


 脱兎のごとく逃げろッ、ビィぃぃぃぃぃいいいト!!


「くそぉぉおおお!」

 ──回れ右をして遁走開始ッッ!


 怒り狂ったドラゴンなんか相手にして勝てるわけがない。


 しかも、ダークボーンドラゴンって野郎は厄介に過ぎる。


 ビィトとて腐っても元Sランクパーティにいたのだ。……『豹の槍パンターランツァ』時代には、ドラゴン退治も何度か達成したことがある。


 もっとも、それは村人の勘違いで出された依頼で、実際はもっと下級種の翼竜ワイバーンだったりで……。

 ……実はそれほど苦戦していない。


 あの時は確か──。

 リズの空中戦で羽を折り、ビィトの攻撃でチマチマ挑発。

 リスティが応援し、ビィトも声援を送る。

 最後は地面に落ちたワイバーンの逆鱗をリズが切り裂き──動きを止めて、ビィトが後退を援護。

 トドメにジェイクが心臓を一突きし、ビィトが最後に素材を剥ぐ……。


 って具合なのだが……。


 生憎──……コイツにゃ、羽根もなければ逆鱗も、心臓もない!!


 って、……どうやって倒すんだよこんな奴────!?


「ヤバい、ヤバいヤバい!」

 ヤバい、ヤバい、ヤバいヤバイヤバイッ!


 今まさにブレスによって焼かれんとするビィト。

 吐き出される前から空気が焼け、肌が炙られるような感覚がある。


 あぁ……ヤバイ────死ぬ!?


 ビィトの脳裏に流れる景色────。




 …………ジェイク、リスティ。


 リズ────……地元の皆…………。



 エミ──、





「──お兄ちゃん!」




 え?





「エミリィ!?」



 な、なんで?

 ……先に逃がしたはずのエミリィがそこにいた。手には、スリングショットを構えて──────バカ! 逃げろエミリィ!


「──いぃぃぃぃ……ッけぇぇぇえ!!」


 エミリィの渾身の一撃が放たれようとしている。

 掛け声とともに──────!


 ギリギリギリギリ……!──引き絞られるスリングショットの弦が音を立てる所まで、まるでスローモーションのように見えた!


「そんなもん、コイツにゃ効かないぞ! 逃げ────」


「たぁぁあッ!!」



 バヒュン────!!!!



 ギュバァ!──とビィトが思わず首をすくめるほどの風圧を感じる。

 今まで見たこともないほどの圧力を感じる一撃──。


 って、そうか!

 エミリィにも身体強化を施していた。ついでとばかりに掛けた筋力の増強効果により彼女のスリングショットの威力も倍増──しかも、

「とっておきのボウガンの矢だよ!」


 目にもとまらぬ速さで飛び退ったボウガンの矢──ボルト弾。

 あれは、3発あったうちの一発だろうか?


 いや、なんだ?

 一瞬だけ見えた異様な形状……。まるで羽が二つある様に見えたぞ?

 しかも長い────。


 スカァァン!《グォォォオオンン!!!》


 小気味の良い音が響き、ダークボーンドラゴンの顔が仰け反る。

 その拍子に発射されたドラゴンブレスが、天井を舐める!


 ゴォォォォオオオ! と物凄い勢いと熱量だ!


「ぐ!」


 ジリジリと肌の焼ける気配を感じる。

 直撃どころか掠ってもいないのにこの熱量……。まともに食らったら骨も残らないかもしれない。


 『水衣ウォータークローク』!!


 熱を遮断する防御魔法を展開。とたんに涼しい空気を感じ、外部の高温をシャットダウンした。


 それにしても……エミリィのスリングショットでドラゴンの頭骨に突き刺さった?!


「あつ……あつつッ!!」

「エミリィ!?」


 ビィトに駆け寄るエミリィの姿。

 驚いたビィトは、慌てて彼女にも『水衣』を掛ける。


「エミリィ! 何してるんだ!」

「だ、だって……」


 駆けつけるなりビィトに怒鳴られたエミリィは、目に見えてシュ~ンとする。


 ──あぁもう!


「言い訳はいいから、逃げるよ!」


 そうだとも、ボルト弾くらいで倒せれば苦労はしない。むしろ、必殺の一撃を邪魔されて余計に怒り狂っているだろう。


「う、うん!!」

 二人して走り出す。その途中でビィトは聞いた。

 あの一撃についてだ。


「エミリィ。さっきの一撃は?」

 駆けながら器用に振り返りエミリィは言う。

「──双子射撃タンデムショット……! お父さんの得意技だよ」


 少し寂しそうに笑うエミリィ。

 親の記憶なんて遠い彼方だろうに、彼女は両親から受け継いだものを今もなお研鑽しているのだ。


 彼女が言うには、矢の様な細長い飛翔体を上下に連結して発射すると、一段目が命中して砕かれても、その威力をさらに追加するように二段目が追撃の一撃を同じポイントに加えることができる高度な技だという。


 ……というか高度どころではない。

 不安定な飛翔体を二段で発射なんて、できるわけが……。


 だが、ビィトは確かにボルト弾が二段重ねで発射されるのを見た。


 それが故にダークボーンドラゴンの頭骨に突き刺さったのだろう。


 まさに神業だ。


 この年若い少女が放つ技としては完成域に達している。優秀な両親から受け継いだ技は彼女の中に確実に息づいているようだ。


「す、すごいなエミリィは……」

 お世辞でもなんでもない。

 彼女は間違いなく凄腕だ。ちゃんとした支援さえあればA級もS級も狙える位置にいる。


 もっとも────。





「お、おおおおお、お兄ちゃん! い、今はそれどころじゃ!」




 ────へ??



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