第33話「なんてこった、ドロップ祭りじゃぁあ!」
「お兄……ちゃん?」
もぞもぞと背中のリュック上で動く気配。
エミリィがようやく覚醒したらしい。
……戦闘中でなくてよかった。
「あ、あれ? こ、……ここ、どこ? リュックの上?? え、え? え? 誰? え? お、おおお兄ちゃん──だよ、ね?」
おーおーおー。
パニクってる、パニクってる。
って、そりゃそうか。
なんせ今のエミリィは、荷物のようにリュックに縛り付けられているため、身動きができないのだ。
しかも、彼女からすれば、誰に背負われているか現状では確認できないと──。
うん……。
目覚めたら突然わけのわからない状態。
紐でグルグル巻きにされ荷物のように括りつけられている……。こりゃ、ちょっとした恐怖だ。
っていうか、ビィトもヤバい。
小さな子をリュックに縛り付けているとか……考えてみれば凄い格好だ。
絵面が犯罪者クラスである。
しかも、ドロップした骨々の装備類と一緒────って、どこの蛮族だよ!
俺ぁ、子供を攫って食うトロールかっつーの!
食わねーよ!
物理的にも、性的にも!!!
あーもー。
……こんな姿を街の連中に見られたら、更にひどい二つ名がつく。
『鬼畜ロリコン』では済まないぞ……。
うーブルブル……。
想像するだに恐ろしい。
「──あー、エミリィ? い、今下ろすね」
彼女が目覚めた以上、背負う意味はない。
本音では、ここを脱出するまでは眠っていて欲しかったが……。そう上手く事は運ばないものだ。
そう言えば……。ここでいきなり目覚めたことになるけど、だ、大丈夫かな? エミリィちゃんよ。
この空間は、初見で眺めるには少々──どころか、かなり気味が悪すぎる。
だが……現状では仕方ない。なにせ、目隠しして進むわけにもいかないからねー。
「あ!? うん……! よかった──お兄ちゃんだぁ……」
やはり不安だったのだろう。
薄暗い中では周囲の様子などほとんど見えないのだから。
きっと髑髏まみれの空間だとは気づいていないかもしれない。
頼むから悲鳴をあげないでくれよ。
そう念じつつも、手早く荷物を解くと彼女を降ろしてやる。
「大丈夫? 痛くない? 怪我はない? アイツらに何かされた?」
……?
「アイツ……ら?」
む。
やはりエミリィは気付いていないらしい。
と言うこととは、入り口のすぐ傍で襲われたのだろうか?
ボウガンの矢は確かに入り口付近で見つけたけど……。
まぁ、その辺は追々確認しよう。
今はそれよりもこんな不気味な空間から去ることだ。
そこに────ポイン♪ とドロップ音。
それを皮切りにダークスケルトンキングの配下にいた手下どもからも一斉にドロップ。
ポイン! ポポポポポポポポポポポポポポポポポポィィィン♪♪
「な、なになに!?」
ビクリと身体を震わせたエミリィがビィトにしがみ付く。
おうふ……ささやかなふくらみが────じゃない!
「え、エミリィがいない間にちょっとした戦闘があってね。もう大丈夫だよ」
ふー……今さらながら、疲れた。
だけど、こんな気味の悪い所じゃ休む気になれない。
「せ、戦闘? えっと……ゴーレムじゃないよね?」
ここで初めて周囲の違和感に気付いたのか、キョロキョロと見回し、
「ひっ」
ビィトの足元にあるダークスケルトンキングの身体に気付いたようだ。
そして、周囲のオドロオドロしい様子にも……。
「ひぃぃ!?」
怯えた様にビィトにピョンとしがみ付くエミリィ。
それを優しく抱き留めつつ、
「大丈夫……ほとんど殲滅したよ。もう敵はいない……」
……いないよな?
あれ?
なんだろう……違和感が────。
「う、うん。お兄ちゃんがそういうなら……」
「大丈夫。エミリィは俺が守るから……さぁ、ドロップ品だけ回収してここを出よう?」
安心させるようにニコリとほほ笑むと、
「う、うん! わかった!」
エミリィもパァと花が咲くような笑みを返してくれる。
……これだけで、ここに来た甲斐があったように思う。
ビィトを信頼しているのか、すぐに作業に取り掛かるエミリィ。
ダークファントムが密集していたあたりで落ちている使えそうなドロップ品を選別しているようだ。
ダークファントムメダル×8
ダークファントムの核×4
ダークファントムの骨片×12
ダークファントムの種火×3
古文書×2
ドロップ品、ドロップ品……? んん?
ここ、最深部……だよな?
ゴーレムのいた通路にはいくつかの封鎖箇所があったが、そのうちの一つとはいえ、ここも最深部。
ならば…………。
普通、宝とかがあるんじゃないか?
「
そのどれもが例外なく最深部にはお宝が眠っていた。
そして、必ずといっていいほど、それを護る様にしてボスが待ち構えているのだ。
だけど、ここには?
見渡す周囲には砕け散った石櫃と、壁や床の髑髏だけ。
宝があるかと、ちょっと期待しただけに残念……。
だけど、
ふむ……?
んん?
────ん~……ま、いっか。エミリィが無事ならそれで……。
あ、そうだ。
「エミリィ──これ!」
途中で回収したエミリィの荷物とダークスケルトンのナイフを渡す。
「こ、これ! よ、よかったー……」
両親の形見だという荷物をギュッと抱締めると、目の端に涙を浮かべるエミリィ。
「よかったよ……それがなければエミリィにたどり着けなかった」
階段の途中で見つけていなければ、ビィトはダークスケルトンの大群を走り抜けようとしただろうか?
……おそらく、諦めていた可能性が高い。
一体でも苦労したダークスケルトンだ。
それが大群でいるとなれば、未確定の情報だけで走り抜けようなどとは思わなかっただろう。
本当に見つかって……良かった。
鞄に頬を擦り付けているエミリィを優しげな眼で眺めつつ、ビィトも作業に取り掛かる。
早く回収しよう。
あまり長居したい場所でもないしな……。
床に転がっているダークスケルトンの冠を拾って回収。
ついでに死体を覆うローブを引っ掴んだが……さすがに埃が凄い。
耐久性はそれなりにありそうだが、ちょっと使う気になれない。
戦闘の余波で破れている箇所もある。
きっと高価な代物だろうが、ここまで傷んでいるとさすがに買い手がつかないだろう。
ま、……一応回収。死体から衣服を剥ぎ取るのは気分のいいものではないけど、仕方がない。
闇骨王の冠×1
闇骨王の衣×1
闇骨王の杖×1
闇骨王の下顎×1
それよりも、これは────?
闇骨王の────
「バングル?」
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