第31話「なんてこった、骨の王様だ!」
「思ったより呆気なかったな? えぇおい。さぁ、邪魔者は消えた……見逃してくれるなら放っておくけど……どうする?」
《ギギギギギギギギギギギギギ!!!!》
ははッ!
怒ってやがる。
けどなぁ………………。
小さく呻くエミリィをチラリと見たビィト、
「────……俺の方が怒ってるぞぉぉぉおお!!!」
タンッ!
軽い調子で飛び上がるビィト。
手には骨の棍棒。それを両手で握り込み──。
って!?
背には大荷物に、エミリィを担いだままで跳ぶ……────おいおい……、思ったより跳ぶなあぁ?! 凄い重量だというのに!
「……見逃すっていったけど、ありゃ嘘だ──」
ビィトの強化に強化を重ねた、熟練度MAXの『身体強化』の重ね掛け。
おまけに元より鍛えた(ジェイク達にポーター扱いされたがため……)筋力によって、驚くほどの跳躍力を見せる。
「当然…………一発ぶん殴る!!」
うらぁぁぁあ!!
驚いた風な様子のダークスケルトンキングに空中戦を挑むビィト。跳躍し、一気に肉薄する。
こいつも、ダークファントム並みの耐久力と想定するなら、多少は物理が効くはずだ。
そして。ゼロ距離の神聖魔法も効果があるに違いない!
バリバリバリ……バチチチ────。
奴は威嚇するように展開している電撃魔法をこれでもかと発動して見せるが……、
「撃つ気はないんだろ? バレバレなんだよ!」
なぜかエミリィに執着しているらしいダークスケルトンキング。殺して食う、だとかそういう事ではないのは明白。
エミリィを攫った理由は不明だが、今すぐ殺すつもりはないようだ。あるいは今だけは殺せない事情か?
だが、そんなことはどうでもいい!
「てりゃぃやぁぁぁぁあ!!」
格闘も剣技も、ましてや棍棒術など収めたこともないビィトのド素人丸出しの振り抜き!
だがあらゆる箇所に『身体強化』を重ね掛けし、跳躍と重量と筋力が加わったその一撃は強力無比だ。
ダークスケルトンキングも反撃かあるいは防御のため、電撃魔法を放置し、ローブの間から伸びる杖を振りかざした────けど、遅ぇぇえ!
「遅い、────遅い、遅い!!」
らぁぁぁああ!!
────ガキィィィイン!!
凄まじい勢いで振り抜かれる棍棒に、ダークスケルトンキングが杖を振り上げギリギリの所で防御魔法を展開したらしい。
薄い魔力の膜がビィトとの間に張っているのが見えた。
ち……!
ギリギリで間に合いやがった。
棍棒を振り下ろした姿勢で防御魔法との間に阻まれるビィトの一撃。
だが、そのまま空中でダークスケルトンキングに圧し掛かると、ぶつけた棍棒をさらに押し付ける。
ギリギリギリギリギリ……!!
それを防御魔法だけで支えているダークスケルトンキングだが────。
「落ちろぉォぉお!!」
ブンッッッ──!
強引に振り抜き防御魔法ごと叩きつけるッ!
すると、たまらずぶっ飛んだダークスケルトンキングが、ガシャーーン! と石櫃の残骸に突っ込み二度三度とバウンドしているのが見えた。
──どうだッ!
防御魔法では攻撃は防げても、衝撃や単純な重量は防げないだろう────舐めんな、骨っ子野郎!
ビィトは振り抜いたまま、ダークスケルトンキングを追うように着地し、そのまま追撃に移る。
「一発で終わらせるかぁぁぁ!」
石櫃の残骸の中、ヨロヨロと起き上がるダークスケルトンキング。
ただのスケルトンなら、さっきの衝撃だけでバラバラになっているだろうが……。なるほど、さすがにスケルトン最上位種の亜種なだけはある。
……強い!
「だけど──────」
所詮は骨ぇぇぇえ!!
「
追撃!
倒れた奴の脳天に棍棒を叩き込む!
だが、まだまだ防御魔法は有効に展開中らしい。
バシィン! と膜が顕現し、ビィトの一撃を弾き返す。
なるほど……落下の衝撃もあれで防げたのか。
頑丈な防御魔法らしいが……。
だが、それもいつまで
──
…………なんたって、俺を怒らせたんだからな!
……えぇ!? ダークスケルトンキングよぉぉ!
そぉら、次々いくぞ。
まずは……。
すぅぅぅ────、
「そのチンケなガラス魔法が破れるまでぶん殴ってやるぅあぁぁあ!!」
棍棒を振り上げたビィト。
そして半身を起こしているダークスケルトンキング……。
そこに────、
「死ねッ!」
打撃ぃぃ!!
ガッキーーーン!!
殴りつけた先で防御魔法が「効かん!」と言わんばかりにビィトの一撃を止めて見せる。
顕現した防御魔法はよくよく見れば薄い膜に魔法陣が見えていた。インパクトごとに魔法陣が浮かび上がり一撃を防いでいるのだ。
…………それがどうした!
──はぁぁぁぁぁあ!!
もう一丁ぉぉぉ!!
打撃! 打撃! 打撃!!
ガキーン、ガキーン、ガキーン!!
──と連続して撃ちおろす。しかし、打撃の度に防御魔法が顕現しその悉くを防ぐ。防ぐが……。
だが、
ビィトは止めない。諦めない。容赦しない!!
うらぁぁぁあ!
「──まだ、一発もぶち込んでないぞ!! もう
打撃ッッ!!
ガキぃぃン────……。
「ちッ……!」
邪魔臭い防御魔法め!!
ミシミシと音を立ててめり込んでいく棍棒に、ついに床に押さえつけられてしまったダークスケルトンキングが焦ったような骨の軋み音を立てる。
《ギギギギィーーーー!?》
今さら──!
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」
正面から、────ぶち破ってやるぅぅぁあ!!
《ギギギギギギイイイイ!》
「死ね────!」
死ね!!
死ね死ね死ね!!
ガキン、ガキンガキン!!
「まだまだぁ!」
死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!
ガキ、ガキガンガンガンガンガキン!!
ビィトの強化された筋力と元からのそれが相まって一撃一撃が凄まじく重い。
徐々に体が押された床に押し付けられていくダークスケルトンキング。
奴の頭の上では未だ雷雲が渦巻いているが、今はそれよりも防御にかかりっきりらしい。
そりゃそうだ。防御魔法を手放したが最後────ビィトの会心の一撃が降り注ぐのだ。
もちろん、エミリィごとビィトを仕留めんとして、破れかぶれで電撃魔法を発動させる危険もあったが……、まだは魔法防御は破られていない。
そうである以上、魔法に護られている限りは、そう簡単にポリシーは棄てまい。
事情は知らねど、どうしてもエミリィを殺したくないらしい。
そのため、ビィトはエミリィを盾にしているようなものだが……、それを最初から狙っていたわけではない。
ダークスケルトンキングが勝手に躊躇っているだけだ。
ふん。
…………ならば乗ってやるまでだ!
そのチンケな
そして、死ぬまでぶん殴ってやる。
そう決めたビィトが腕が壊れんばかりに棍棒を叩きつける。その速度は徐々に早さを増し、腕がブレて見えるほどだ。
「てめぇ……!──アンデッド風情がエミリィに手を出してタダで済むと思ってんのかぁぁぁああ!!」
この子は、俺の──────!!
おおおおおおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!──渾身の一撃だ!
ガッキィィィィィイイン!!────ピシ……。
棍棒を叩きつけまくったおかげか、ダークスケルトンの魔法防御にも、遂に亀裂が走る。
それを見て、攻め時と見たビィトはさらにラッシュを高速化していく。
チャンスを見つけたら、逃さず、すかさず、欠かさず、しっかり掴むのだ!!
ヒビができたならもう一息!
──だーかーらー!!!
「お前が、死ぬまで、ブッ叩くッッッ!!」
──うぉおおおらぁぁぁああ!!!
打撃!
打撃!
打撃!! 打撃! 打撃、打撃。
打撃! 打撃! 打撃! 打撃、打撃、打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃────打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打撃!!
「まだまだぁぁぁあ!!」
打撃、打撃、打撃打撃打撃打打打打打打ダダダダダダダダダダダダダダ!!
ピシ……!
ピキキキィ!
ついに、
《ギギギ……!?》
防御魔法が……、
ビキィ────!
《ギ……!》
破れる?!
ビキ────パリ……。
顕現した防御魔法が健在であることを示す、インパクトごとにあらわれる薄い膜とそれを構成する魔法陣に明らかな亀裂と欠損が現れた。
それを見たダークスケルトンキングが今さらながら焦ったような骨軋み声をあげるも────もう遅い!!
防御魔法が無敵じゃないことは知ってるんだよぉぉおお!!! 俺も腐っても魔術師だっつの!
「終わりだぁぁ!」
──トドメぇぇぇえ!
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