第30話「なんてこった、殲滅した!2」
《ギギギギ、ギギギィーーー!》
怒っているのか、援軍に喜んでいるのかダークスケルトンキングがユラユラと体を激しく揺さぶっている。
心なしか骨の軋み音も大きい。
「ち……さすがにファントム系はそう簡単にはいかないよな──!」
「──お兄……ゃ?」
エミリィ?!
背中でモゾモゾと動く気配。
荷物のように固定しているエミリィがいよいよ覚醒しつつあるらしい。
本当なら喜ばしい事だが、今は間が悪い。連中を仕留めるか────ここから脱出してからにしてくれ!
「エミリィ……少しだけ待ってて!」
意識があることは朗報。
だが、今はマズイんだ。……せめて戦闘がひと段落してからでないと──!
《ロオオオオオオオオオオ!!》
《ィィィィエエエエエッェェエエ!》
ち……うるせぇんだよ!
すぐには襲い掛からずにフワフワとビィトの周囲を取り囲み続々と集まり始めたダークファントム。
一斉に取りつき、命を吸い取るつもりだろう。
こいつらの攻撃はなんだっけ?
……ファントム系だとするなら、おそらくドレイン攻撃か、物理による斬撃がある。
他にも、
一体、一体では大した量も吸い取れず、実際に攻撃を受けて死ぬまでには相当な量を時間をかけて吸われない限り問題ないのだが……。
負傷し、弱っているときや睡眠時に攻撃を受けるとそのまま命を吸いつくされ死に至るという。
もっとも、今のビィトなら負傷もなければ寝ているわけでもない。
ダークファントムと言えど、ドレインする量はそう変わりはないだろう。
いや。
……だから集結しているのだ。
一斉に取りつき、物量をもって生命力を吸いつくす。
一体では問題ないドレイン攻撃も、数が集まれば脅威となる。
「──だけど、それじゃいいカモだぞ!」
ビィトはそこまで狙いつつ、すぐには仕掛けなかった。
ダークファントムがビィトを囲み、一カ所に集結するときを虎視眈々と狙っていたのだ。
「『
ポツリと呟き、荷物から聖水の瓶を取り出す。
「こっちならどうだ!」
大き目の『水矢』を生成。そこに聖水の中身を注ぐ。
それをそのまま発射するかに見せて、
「凍らせて──打ち上げる!」
聖水入りの大型『水矢』────からのぉぉ~『氷塊』!!
ピキキキ……。
あっという間にオークの頭程度の大きさになった氷塊。それを生成すると、それをダークファントムの群れの中心……つまり今はビィトの真上を狙って掲げる。
「ダンジョン都市、特注品の聖水だ! アイスで味わえぇぇぇぇッ!!」
──発射ぁぁあ!
ヒュン!──と打ちあがった氷塊。
それだけではダークファントムに何の痛痒も与えないだろう。
だが、
「────か~ら~のぉぉぉ……」
棍棒の先端にボッと火が灯る。
これは────??
「蒸気サウナだ!」
火球────────発射ぁ!!
ボンッ!!
狙い違わず打ち上げた氷塊に火球が命中する。
その瞬間に、ビィトが魔力を籠めて熟練度最大で練り上げた火球は、凄まじい高温の塊となって氷塊を溶かす。
いや、溶かす段階を飛び越えて、固体を一気に蒸気へと変化させる昇華現象だ!
ブシュゥゥゥゥゥゥウウウ!!──と爆発したかのように猛烈に小さな水の粒へと────しかも聖水入りとなったそれが集結していたダークファントムの群れで弾けた。
ロオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
ドロォォ……。
あっという間に溶けていくダークファントム。
蒸気となったそれは、聖水をぶっかける以上に効果があるらしい。
「うぉ! スゲェ効いてる!?」
気体化したことで聖水の効果が万遍なくダークファントムを覆っているのだろうか?
そのまま、ほぼすべてのダークファントムがボトボトと地面に落ちてくる。
もはや無事な個体は一体もいない……。
「はは! 正規品じゃない、モグリの聖水だってのにスゲェ威力だ」
もちろん聖水だけの威力ではないのだが……。
ブスブス……と浄化の煙を上げつつ溶け落ちていくダークファントム。ビィトが残る個体にトドメとして、ゼロ距離で神聖魔法をブチかます頃には上空を遷移していたダークファントムは殲滅されていた。
空中にいるのは、いまやダークスケルトンキングただ一匹だけ……。
奴の配下は────全滅した。
「思ったより呆気なかったな?」
棍棒をくるりと手の中で
ニン──と口の端を歪めると、
「さぁ、邪魔者は消えた……。見逃してくれるなら放っておくけど……どうする?」
──えぇおい?
ダークスケルトンキングさんよ。
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