第21話「なんてこった、凄い大群だ!」
エミリィ────!!
ビィトは頭に血が上っていることに気付かないまま、荷物に据えていたダークスケルトンの棍棒を抜き放つ。
呪いがかかっているかもしれないという懸念はどこへやら。
がっしり握りしめると、躊躇わずに装備する。
だって仕方ないだろ!?
ダークスケルトンは魔法が効かない。──魔法が効かないなら、ぶん殴ってやる!
そう短絡的に考えたビィトは一気に階段を上り切る。
目の間にどんな光景が広がっているかも気にせず、ビィトは走り抜ける。
階段が長く続くも、その先に広がる光景など予想もせずにただただ前へ!
さっきまでの慎重さなどどこへやら。
不期遭遇がどうした────!
遭遇したが最後、出合頭にぶん殴って粉々にしてやらぁぁぁ!
ビキキ……!
体中に筋肉が軋む。
それは魔法による強化の影響。
出し惜しみする気などまったくなく──そして、下級魔法ならいくらでも使える。
だから、やる。
躊躇わない。
足に『身体強化』を、
腕に『身体強化』を、
肺に──、
肩に──、
……いや、もはや全身に満遍なく『身体強化』を施し、普段の何倍もの力と勢いでビィトは階段を駆け上がった。
「エミリィ!!」
足だけでなく膝、腿──筋肉と骨格の全てに……余りにも力を籠めているものだから、バリバリと床の骨がことごとく割り砕かれていく──。
そうして、物凄い勢いのまま階段を駆け抜けたビィトは、目の前に広がった空間を一瞬で俯瞰する。
……広い。
ビィトの目の前に広がった光景は、どこかの街のメイン通りのような場所。
目前には、さほど長くないが、まっすぐ伸びる太い通り。
通りの中央には噴水らしきもの。
……そして通りの両側には天井に接するように、3階建程度のアパートメントのような建物があった。
通りの先には、今しがたビィトが出てきたように、階層を分かつ入り口の様なものがある。
だが、そこは階段ではなく、墓所の最深部を思わせる風格の納骨堂らしい。
一見してボス部屋を思われるそこだが、頑丈な扉で閉ざされているらしい。
それ以外にはこの通りにはアパートメントを除いて建物はない。
そして、この階層もまた────大量の白骨で覆われていた。
何千の規模ではない。恐らく万単位の骨。
通りの地面は大腿骨。
そして、それ以上にゴミのように散乱している名もなき人々の骨。
整理整頓などない……。まさに散乱だ。
噴水にはドロリとした液体が溜まっているが、流れはなく沈んでいるいくつもの白骨が恨めし気に水面を睨み付けている。
アパートメントには骨やら何やらでできた手すりに、窓枠、そして狭い部屋。
通りに面した渡り廊下状のベランダには、大勢のダークスケルトンがうろついており、一見して…………死者たちの街にも見える。
だが、ここはそんな御大層なものではないだろう。
階下の墓所が安室だとしたら、ここは待機所。
もしくは整頓しきれなかった骨の廃棄場所と言ったところ。
さっきまでの階層では綺麗に整頓されていた白骨が無造作に放置。
壁に埋め込まれているモノもあるが、ここはそれ以上に、ただただ捨ててあるだけにしか見えない骨が無数にある。
それが、物凄い数の規模となりさながら骨の絨毯となっている。
そのおかげで、アンデッド化したあわれなスケルトンどもが大量発生。
彼らは、石棺にも入れずうろつく有様。
なるほど、ここは一種のダークスケルトンの溜り場になっているのだ。
そして、ダークスケルトンだけではない。
不気味な存在が空を舞っているじゃないか……。
そいつは、所在無げにうろつく大量のダークスケルトンの頭上と、この通りに
この階層での新種だ。
数は少ないものの、不気味極まりない。
それらを俯瞰したうえで、余りの数に一瞬怯みそうになるビィト。だが、階段途中で拾ったエミリィの鞄をギュッと握りしめると意を決する。
彼女はこの先にいると──……この墓所の構造から考えても、彼女がいそうな場所は、もう奥の扉の先としか考えられない。
先までの墓所とは違い、多少なりとも明るいのが救いと言えば救い……。
しかし、明かりを提供するのはフワフワと舞っているアンデッド。
そいつは、上半身だけの白骨死体が青白い火の中浮かんでいるモンスター。
メラメラと燃えながらフラフラと空中を浮いているゴースト型の魔物──「ファントム」だ。
いや……ただの「ファントム」ではない。
ダークスケルトン同様に、長年放置され、
資料でしか見たことはないが、高位の神聖魔法くらいでしか浄化できない魔物の一種。
性格は獰猛で狡猾────。
そして強い。倒せない……。
だが──!!
「それがどうしたぁぁぁあああ!!」
まだ発見されていないというのに、わざわざ自分の存在を誇示するビィト。
当然のことながら通りにいたダークスケルトンもダークファントムも一斉に気付く。
ダークスケルトンの数はかなりの数……。だが、幸いにもダークファントムは少ない。
それなら戦い方はある。
そう考えつつ、ビィトは階段を駆け上がった勢いのままダンッと踏み出す。
そして、疾駆────。
その頃には、ダークスケルトンどもがゾロゾロと通りに集結し、入り口に突っ立つビィト目掛けて殺到し始めた。
その数は、見るのも数えるのも嫌になるほど。
あの一体でも厄介なダークスケルトンが大群で!!
だが、ビィトは慌てず冷静に、……そしてエミリィを思うあまりの激情で、普段なら考えられないくらい大胆な作戦にでる。
まずは、荷物入れから「封鎖用のスクロール」を取り出すと、疾駆しながら器用に封を解いて起動させる。
60秒のそれを遅延することなく起動。
そいつを石礫に乗せて発射!
──ボガァァン!
右側のアパートメントと天井付近にぶち込んだ。
威力に乏しいものの、大型で体積の少ないスカスカの石礫に乗ってすっ飛んでいくスクロール。
それが目的地付近に着弾したのを確認すると、右手に棍棒を構え左手には魔法を発動ッッ!
さぁ準備はできた!
骨ッ子どもめ…………。
「来いッ!!」
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