第18話「なんてこった、まとめて叩き潰すッ」

 爆破孔にジリジリと集まるダークスケルトン。

 今が一番密集している。チャンスは今しかないが……!


 まだ、隠れている奴。

 遅れてくる奴。

 足の遅い奴……。


 そんな奴がノロノロとやって来る可能性はある。

 そいつを逃すと面倒なんだ!


 だけど、これ以上待てるか……?


 そうだ……。微妙な時間なんだ。

 微妙過ぎる時間────あまり時間をかけすぎると奴らはすぐに興味を失う。

 さっき、部屋に『角火』を撃ち込んだ時もそうだった。


 だから、階段から6体目が爆心地に来た時が時間的にもタイムリミット……!

 それ以上が来たときは一端諦めるしかないだろう。


 連続で魔法を撃ち込んだならば、発射地点を特定されて囮の意味がない。

 今でこそ奇襲で囮を撃ち込んだから奴らは爆心地を調査に来ているのだ。


 ジリジリと時間が経つ中、ようやく6体目がそろぞに揃うッ!

 そして、すでに最初に調査に来た個体が興味を失いまたウロウロを始めようとした──ここが限界!!


 そうさ、ビィトの狙いはこれ────『嘆きの谷』でエミリィがとった手段から発想を得たもの。

 敵の頭上に毒をばら撒く!


 毒とは言ったが……これすなわちアンデッドには、

「聖水シャワーだ!!」


 ブンッ────。


 物陰から投げられた聖水の小瓶。

 その動きに、いち早くダークスケルトンが反応する。


《ギ!》

《ギギギギ……》


 ヌラリと動き始めたその鼻先に──。


「ぶっとべ!!」


 おらぁぁぁっぁ!!


 的が小さい上、不安定な明かりの中の狙撃──。

 だが当てるッ。


 得意の────石礫!!


 ビィトがぶっぱなしたのは、大きな石塊だった。

 いつものように、高圧縮の小型弾ではない。


 通常の下級魔法の石礫──いや、それ以上に大きめの石礫だ!


 原理は簡単。

 高圧縮とは逆に、密度を薄くし体積を増やす。

 魔力の調整と熟練度があれば、そう難しいものではない。


 そう。これがビィトの技術!

 熟練度を上げれば下級魔法の範囲なら大抵のことができるのがビィトの強みだ!


 もっとも、端から巨岩を生み出せる上級魔法などとは比べ物にならないのだが……。


 ともかく、その大型石礫を放り投げた聖水の小瓶に向かって発射する。

 念のため、二発三発と!!


 魔法の発動の気配にダークスケルトンどもがせせら笑ったような気配を感じたビィトだが、その口には屈辱の歪みなどなく、むしろしてやったりという不敵な笑みが浮かんでいた。


 大型で高速の石礫は空中の聖水の小瓶を打ち砕くと中身を盛大に周囲にぶちまけた!


 ──パリィン!


 何年、何千年ここにいたのか知らないが、ろくに刺激もなく──また痛覚なんていう感覚は忘れて久しいだろう。

 それが突如訪れるのだ。


 不死の肉体が聖なる水の浄化作用をもって、冥府へ帰れと骨を焼く!!



 ジュワァァァァァァア!!



《ギギギーーーーーーーーー!!》

《ギーーーーーーーーギギギ!!》


 思わぬ攻撃に6体全てのダークスケルトンがのた打ち回る。

 余すとこなく満遍なく降り注いだようだ。


 雑魚のスケルトンなら少量でも浄化できてしまうが、さすがは長年こじらせたスケルトンの上位種。

 少々骨が焼けて瘴気が剥げた程度で済んでいる。

 

 だが、それはビィトにとって重要ではなかった。

 聖水で焼き殺す気など毛頭なく……もとより、こうするつもり。そうとも、────……「うぉぉぉおおおお!!」と叫び、突進してのガチンコだ!!


 『身体強化』『身体強化』『身体強化』!!


 手、足、肺────!!


 息切れなどするものか!

 休むことなく、ラッシュを浴びせてやる!


 そうとも、先の戦いでダークスケルトンとは言え所詮は骨。防御力がザルであることはわかった。

 もし、ビィトに蹴り砕くこともできない程の頑丈な骨であったならば、この区画を捜索することはビィトには不可能となる。

 だが幸いにも、ダークスケルトンは攻撃力と魔法防御力こそ最上位クラスであったが、防御をさほどでもないと露呈した。


 だから行く!

 

 魔術師に白兵戦ができないなんて誰が決めた?

 ……器用貧乏はなんでもやるんだよ!!


 掃除・洗濯・料理に風呂焚き、裁縫・塗装に修理、修繕! そして、輸送・運搬、警戒・不寝番に…………、時には近接戦闘もな!!


 どれもこれも得意じゃないけど、────できないわけじゃないッッ!!


 物陰から飛び出したビィトは一気に肉薄する。


 ジタバタと地面でのた打ち回るダークスケルトンの一体に素早く近づくと軽く跳躍ッ。


「おらぁぁ!!」


 踵落とし気味に強烈な一撃を頭蓋骨に叩き込む。

 カシャァァ! と乾いた音……骨を砕く独特の嫌なそれが響き、あっという間に一体を無力化。


 続けてもう一体! さらに跳躍────両足を揃えてのスタンプ!!


 バリリ……! 肋骨と下顎を割り砕き、返す刀で蹴り抜くと残った頭蓋骨が空中で四散する。


 残り四体!


 未だじたばたと暴れているダークスケルトンどもは事態すらよく理解できていないらしい。

 それが彼らにとっての痛覚という縛りだ。


 なまじ不死身なだけに、それらと無縁だったのだろう。

 ゆえに立ち直れない。


 ガシャン! さらに一体、そしてもう一体!!


 立て続けに踏み抜いて4体を無力化。

 あと二体!


《グギギギギギギギギ……!》


 そこでようやく起き上がり始めた一体。だが、遅い!


 ちょうどいい感じに半身を起こしていたので、思いっきり振りかぶった蹴りをブチかましてやる。

 格闘の基本も何も知らないド素人の蹴りだが、局所的に掛けたビィトの『身体強化』を帯びた蹴りは強力の一言!


 ガッシャァァァァァン!!


 バラバラと砕け散った上半身の中に、頭蓋骨だけがポコーンを空中に舞い上がるも、それをキャッチすると、


「見合いでもやってろぉぉぉぉお!!」


 最後の一体に向け思いっきり叩き込む。


《ウギギギギギギ──!!》

《ギギギギギギギ!!!!》


 何を言っているか分からないものの、首だけになったダークスケルトンと、最後の一体がまるで抗議の声でも上げるかのようにビィトに向かって軋み音を鳴らしていたが────。


 パッカーーーーン!!


 両者ともに、強化された握力で地面に叩きつけられ粉々に砕ける。



 これで6体!!



 あっという間にダークスケルトンをほふって見せたビィト。

 しかし、油断せずに残心の姿勢を決める────いや、そんな隙はない。

 残心どころか、脱兎のごとく無様に元の物陰に飛び込んで様子を窺う始末。


 ドクドクドク、と心臓が高速で鳴り響く。

 興奮と緊張のあまり口から内臓が飛び出そうだが、堪えてジッと先の戦闘場所に目を向ける。


 今は一人なのだ……。


 戦闘中には、どうしても視野狭窄になって周囲の環境が分からなくなる。


 だから、一度身を潜めるのだ。

 わけがわからなくなったときは、一度身を隠す。鉄則だ。


 ……そのまま、静かに息を潜めて、呼吸を整えると状況の変化を確認する。



 ふー……。

 ふーーー……。



 戦闘の騒々しさが嘘のように、シンと静まり返る墓所。

 と、そこに──ポイン♪ ……場違いなくらいに陽気なドロップ音が鳴り響き、6体のダークスケルトンからドロップ品が飛び出す。


 だが、まだだ……。


 今の騒音を聞きつけて増援が来る可能性は十分にある。


 死角になっているホール外の四部屋にも敵はいるかもしれない……。


 もちろん階段の先からも──。



 ふーーー……。

 ふー……。



 徐々に落ち着く呼吸。

 激しい運動により乱れたというより、戦闘の興奮により神経が過敏になっているのだ。


 だが、それもこの不気味な墓所で息を潜めていると、まるで体温が低下していくように、興奮もすぐに収まってくる。


 その後は解脱状態のように、一種の気だるさが襲い来るのだが、それを無理やり抑え込むとそっと物陰から姿を出した。


 耳を澄ませてみても幸い近くにはいないようだ。

 もともと生息? 数がそれほど高くないのかもしれない。


「エミリィ……どこなんだ?」


 ここに至るまでエミリィの痕跡は入り口付近で見かけたボウガンの矢だけ。それ以外は影も形もない。


 ダークスケルトンがうろつく中を彼女が本当に奥まで行ったのだろうか?


 ここに来るまでに、戦闘を避けようと物陰を見過ごしてきたが……エミリィなら小柄な体格と盗賊シーフ由来のスキルを活かして潜伏しているのではないだろうか?

 

 その時に何らかの事情で声を出せなかったり、あるいは気を失っているか……。


 だが、死んででもいない限り何らかの生体反応はあるはずなのだ、

 いや死んでいたとしても……その痕跡はある。

 血や臓物の匂いがするはずなのだ……。


 だが、それがない。


(……行けるとこまで行くしかないか)


 そう結論付けるしかないビィト。

 それでも、出来る事ならこんなところは迂回してでも先に進みたかった。


 倒せるとは言え、消耗品を使用してようやくの話。

 聖水とて無限にあるわけでもなし、こちらから奇襲を仕掛けて初めて倒せる強敵……。


 ダークスケルトンの墓所。


 ダンジョン攻略を目指すなら絶対避けるべき場所だろう。

 攻略に必要でないならなおさらだ。


「だけど、……俺には必要なんだ」


 そう、エミリィ────。

 エミリィ・ピルビム。


 彼女は必要なんだ。

 仲間として……女の子としてももちろんだ。


「無事でいてくれよ」


 残り少ない聖水の小瓶を物入の上から触れつつ、ビィトは再び捜索にでる。





 ホールの残りの部屋……そして、階段の先へと──。

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