第17話「なんてこった、複数いやがる!」
《ギギギギギギギギ……》
《ゴギギギギギギギ……》
不気味な軋み音を立ててうろつくダークスケルトン。
何をしているのか知らないが、うーろうろ……。
それを通路から覗き込むビィト。
骨の埋まった壁から覗くビィトの姿は端から見ればかなりシュールだろう。
だが、暗闇のおかげか、あるいは単にダークスケルトン達が鈍いのか、今のところ勘づかれた様子はない。
どうみても、檻の中の動物のようにあてもなく──さ迷っているだけらしい。
いやな人生だ。
あ、もう終わってるのか?
……それはともかく。
彼らの探知がどうなっているのか知らないが、ビィトの接近に全く気付いているようには見えなかった。
念のため、『灯火』を消して、代わりに部屋の中に『角火』を数発撃ちこんで光源としたのだが、最初は警戒したダークスケルトンが光に集まっていたものの、すぐに興味を失ったらしい。
今は完全に光を無視している。
頭はさほど良くないのだろう。
そこに魔法を撃ちこんだ術士がいるとは考えつかない様だ。
うーむ。ゴブリンですらもう少し賢いと思うが……。
まぁ、こっちとしては好都合。
(そのまま大人しくしてくれれば良いんだけど……)
ビィトが身を潜めているのは、ホールの様になった大部屋の外だ。
朽ち果てた扉の残骸があるも、今は通路もホールも開放状態。
その通路から内部を覗き込んでみればダークスケルトンが複数いたというわけ。
……エミリィはここにもいない。
聴覚を強化しているおかげでダークスケルトンの足音でも聞き取れるのだが、人間の発する音はどこにも聞こえないのだ。
本当にエミリィがここにいるのだろうかと疑いたくもなる。
すくなくとも、ダークスケルトンがうろつくような墓所を、エミリィが一人で奥へ奥へと行くとは考えつかないのだが……。
しかし、ここまで来た以上引き返す道はない。
最悪しらみつぶしに探すことになるだろう。
つまり、ダークスケルトンを避けて通る道はなくなったのだ。
「とはいえ、どうしたものか」
内部のスケルトンは3体。
他にも死角になってはいるも、おそらくもう少し数がいるだろう。
そして、部屋の内部はがらんどうとはいえ、複数の部屋が繋がるホール状となっている。
『角火』に浮かび上がったホール内は左右に一つずつ。そして正面に上に続く階段と、その脇に小部屋らしきもの……計4つの部屋と一つの階段がある。
先を行くなら階段なんだろうけど……。
敵がこう多くちゃな。
「──仕方ない。どうやっても一戦交えるしかないか」
左右の部屋はともかく階段の先へ進んだ場合、ここのスケルトンをやり過して行くのは危険すぎる。
例えば、現在のように先の様子が分からないまま進み、なんらかの不測事態に遭遇して、撤退せなばならないときがあったとする。
その際、ここに放置してきたスケルトンに退路を断たれる可能性があるのだ。
挟み撃ちをするほど頭は回らなさそうだが、偶然で退路を防ぐことも考えられる。
そうとも……。どんな時も常に最悪を想定して動かないと、いざというときに困るのは自分だ。
無駄な戦闘。それは、一見して余計なリスクにも見えるが、ことダンジョンにおいては慎重過ぎるくらいがちょうどいい。
とは言え、……本音では避けて通りたいところ。
一体でも苦戦した相手が、なんと複数もいるのだ。
しかも、アイテムなしでは太刀打ちできないときている。
──こんなところで消耗品を使いたくはないが…………。
(仕方ない、か)
なんといっても……エミリィのためだ。
そっと、
結局のところ対策は思いつかず、今のところできうる対応策は聖水のみ。
他に望みがあるとすれば、神聖魔法くらいなものか?
これでも器用貧乏と言われるビィトだ。
神聖魔法はもちろんのこと、ビィトにも限りではあるが対アンデット魔法として破邪の魔法も、一応使えるのだが……。
──そう……一応。
やはりここは器用貧乏ゆえ、使えるのは下級魔法。
そうとも、神聖魔法も案の定、基本かつ下級の神聖魔法『破邪』のみ。
当然、ダークスケルトン相手にこれでは心許ない……。
それに、仮にもっと高位の神聖魔法が使えたとして、張り切ってぶっぱなしても効くのか?
コイツらは高い魔法耐性と、魔法反射の技まで使ってくる。
敵の能力を冷静に分析すればわかることだが、ビィトの下級魔法を始め、ほとんどの魔法はおそらくダークスケルトンには効かないだろう。
あの瘴気がある限り、少なくとも正面からぶっぱなしても、無意味なことは明白。
いっそ、機会があれば試してみてもいいだろうが、今はその時ではない。
効くか効かないか分からないものを実戦で試す程、愚かではないつもりだ。
だから──とりあえず、やれることをやる。
現状で分かっているのはダークスケルトンの弱点が聖水であることと、奴等自身の
視覚か聴覚かは不明だが、ホールに撃ち込んだ『角火』に反応したことからも視力はある程度持ち合わせているのだろう。
そして、むやみに『角火』を攻撃しないだけの分別もある。
聴覚は不明。
ただ、散々入り口からビィトが大声でエミリィを呼んだにも拘らず反応は乏しかった。
だが、死角から放ったビィトの蹴りに反応して見せたり、自身が《ギギギ》と音を立てて喋る様子から察するにどうにも判断がつかないところもある。
少なくとも、ある程度聴覚もあるのだろう。
でなければ音を立てる必要などない。
現状で判断できるのは、乏しい視力と聴覚──そして、聖水を浴びれば苦しむ程度には痛覚を持ち合わせている事。
つまり、ダークスケルトンは十分ではないもののれっきとした五感があるらしい。
それらを駆使して周囲を探知していると認識していいだろう。
ならばやりようはある。
手持ちに聖水。そして魔法だ。
器用貧乏と呼ばれたビィト──魔法の数だけなら潤沢。
器用貧乏の真骨頂見せてやる!
っていうか、
(……だれが鬼畜ロリコンだ!)
──あのクソ宿屋の連中めー!
器用貧乏も大概だけど、ロリコン呼ばわりは勘弁してくれ。
……器用貧乏のほうが、鬼畜ロリコンよりも遥かにマシだ。
だから、鬼畜ロリコンの汚名をそそいで器用貧乏の名前を取り戻して見せよう。
そうとも、
まずは────……囮!
派手に行くぜ!
キィィイン……────ビィトの右手に魔力が集まり、淡く輝く。
それは、小さな爆発の火種を産んでいる───。
食らえッ!!
…………俺の
──ズドォォオン!!!
ビィトお得意の下級の爆破魔法。
それは狙い違わず部屋の中央で破裂し、一時的にダークスケルトンの注視を促すことができたらしい。
突然起こった爆発と閃光と大音響は、奴らをして引きつけるに十分。
パラパラと骨片が舞う中、撃ち込んでおいた『角火』の中に奴らの姿が浮かび上がる。
わらわら~! と爆心地に駆け付けるダークスケルトンの数……5体!
やっぱり死角にも居やがったか……!
だが、ここまでは予想通り────よし! 五体で全部だな?!
予想外のところから増援が来ないとも限らないので、すぐには行動に移さない。
兵は拙速を貴ぶというが、ビィトは我慢とタイミングを貴ぶ。
そうとも、タイミングが大事。
そうです、タイミングです。タイミングがなければ、なにもできません。
だから、女の子が同じ部屋で際どい恰好でいても我慢できるのです。力説ッ!
当然、お風呂とかも大丈夫────おい! ヘタレとか言うな。
っと……。
遅れてもう一体!?
階段の上から来やがった……やはり、かなりいるな。
くそッ!
来るなら早くこいッ!
密集してくれれば好都合なんだ────!
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