第16話「なんてこった、一体でこれかよ!」
ダークスケルトン。
知識だけでしか知らないモンスター。
闇の眷族……。ブラックスケルトンがさらに進化した種族で、最強のスケルトンでもある。
アンデットの中でも取り分け不思議で不気味な種族だが、『スケルトン』が生を羨んで化けて出たとする。
そいつが墓所をうろつくも、誰にも相手にされずに何年も放置されると
そいつがさらに
いずれにしても、わかっていることはブラックスケルトンよりも遥かに狂暴で────強い。
実際、それを身に染みて痛感しているのがビィトなのだか……!
くそッ!
(道理で封鎖しているわけだ……!)
このダンジョンでも特異なのだろうか?
まさか封鎖したのがギルドの仕業なわけもない。
どこの誰だか知らないが、こいつ等湧き出さないように封鎖し、ゴーレムを巡回させているのかッ!
そんなに怖いなら埋めとけよ!!
悪趣味な封鎖区画を作るくらいなら、始めッから埋葬しておけばいいものを……。
昔も今も死体を安置したがる連中の気が知れない。
アンデット化して動き出すのがわかりきっているのだから、ちゃんと埋めて自然に還らせればいいものを、なんでわざわざ……。
人間だけ特別だとでも?
自然に還るのを拒絶してどうする!
ダークスケルトンに追い詰められつつも、ビィトはまだ勝機を見いだしている。
今重要なことは────ひとつ!
──エミリィ……無事なんだよな!?
自分の身すら危ういというのに、真っ先にエミリィの事を案じるビィト。
だが、そんな余裕など与えるつもりはないのかジリジリと足先を焼きつつ、空いた手を振り上げるダークスケルトン。
そのままズバッ! とビィトを両断するつもりなのだ。
「ったく、消耗品はあまり使いたくなかったんだけどな……」
しかし、ビィトはそれでも冷静だった。
くさってもSランクパーティで修羅場を潜り抜けてきたビィト。
周囲も本人すらも認めていないものの……彼の実力は本物だ。
そうとも、本物なんだ!
「──これは、ギルドの純正品じゃないぜ? ……俺の行きつけの店特製のバルク品さ──」
だけど、
「効果は折り紙付き、」
そう言って腰に据えた物入から小瓶を取り出すと、
「──まるまる一本使うのはもったいないけど、……強さに敬意を表するよダークスケルトン!」
《ギギギギギギギ……?》
キュポン──軽い音を立てて栓を抜くビィト。
それは、
「アンデッドには聖水──! 常識さッ……喰らえぇぇぇえッ」
シャパ────振り抜くように瓶の中身をぶちまけるビィト。
それは超至近距離でダークスケルトンに降りかかり、物凄い水蒸気を立てる!!
ブシュゥゥウウ!!
《ギギギーーーーーーーーー!!!》
バリバリバリと振りかかった部分を掻きむしり始めるダークスケルトン。
たまらずビィトを解放すると、ガシャーンとその場に崩れ落ち、ジタバタと暴れ始めた。
致命傷というよりも、大やけどを負った生物のような動きだ。
「即死しないとはね……さすがはダークスケルトン……!」
瘴気が抜け落ちた
それは白骨ではなく、やはり黒い色素が沈着した骨だった。
そこに、
「さっきのお返しだ!!」
少し焦げたブーツでもって思いっきり踏み砕くッ。
バリンッ──……!!
『身体強化』を乗せたそれはすさまじい威力をみせ、地面に敷き詰められた大腿骨ごとダークスケルトンを割り砕いた!
《ぎぎぃぃぃ……》
呻き声の様な軋み音を立てて、バラバラバラと崩れていくダークスケルトン。
纏っていた瘴気がすぅー……と一塊になり昆虫のような動きで足元の骨の隙間に逃げていった。
「ふぅ……。一体でこの強さか……これはマズイ」
ただのスケルトンなら何体来ようが倒せるだろうが、ダークスケルトンはまずい……。
なんせ、魔法が効かないばかりか反射してくるという難敵だ。
ビィトにとって相性は最悪。『黄金の池』にいたゴールデンスライム以上に苦戦することは必須だった。
むしろ、エミリィのほうが相性的にはいい気がする。
ダークスケルトンの探知能力がどれほどかは分からないが、さっきのはどう見ても不期遭遇だった。
空き部屋からビィトのいる通路までは数メートルしか離れていないのに、直前までダークスケルトンは気付いていたようには見えなかった。
もし気付いていたなら不意打ちをかけてきただろうし、それ以前に大声を出したり灯を煌々と点しているビィトのもとにワラワラと集まってきてもおかしくはなかったが……今のところその兆候はなかった。
だからと言って安全なわけではないけれど……。
「なにか遠距離から攻撃できれば、あるいは──」
本来ならビィトの魔法で遠距離攻撃が可能なのだが、ダークスケルトンには通用しない。
多少なりとも石礫が当たったところを見ると完全に魔法吸収できるわけではない様だが、かなりの威力減衰が見られる。
……少なくとも。石礫では攻撃できない。
ゴールデンスライムを倒した時のように途中に物理攻撃を挿む必要があるだろう。
しかし、この地形……。骨だけは大量にあるというのに、地面には石ころ一つ落ちていない。
一々骨を壁や地面から引っぺがすのも効率が悪すぎる。
……第一、気味が悪くて触りたくない。
やっぱり極力戦闘は避けた方がいいかな。
聖水にはまだ余裕があるとは言え、無限に使えるわけではない。
それに本来の用途は、ダンジョン深部での
リスティがいないので、結界はこうした道具を頼りにするしかないのが現状。
ビィトはほぼすべての魔法を網羅しているので、一応神官魔法も使えるのだが……。
「自衛する分くらいはもっておかないとな」
荷物から聖水の大瓶を取り出すと、さっき使用した小瓶に移し替えた。
ついでに、小瓶はいつでも使えるように念のため数本を手元に置いておく。
そうこうしているうちにダークスケルトンの残骸からドロップ品が湧き出した。
ポイン♪ と軽い音がこの空間に異常なまでにそぐわない。
「これは……」
黒い骨を削りだしたらしい大型のナイフだ。
さながら、『ダークスケルトンナイフ』と言ったところか。
握りも刃も趣味の悪い骨製。
だが、野蛮な作りのわりに軽い。その上薄っすらと瘴気を纏っているようにも見える。
呪われているかもしれないが、エミリィ用の武器を欲していたビィトとしてはありがたく頂戴することにした。
それを荷物の奥にそっとしまうと先へ進む────。
っと、その前に。
さっきダークスケルトンが現れた部屋を確認しておくことにした。
他の部屋を無造作に確認してダークスケルトンに鉢合わせするのは御免だが、ここなら既に倒した後。
二体目がいるとは思えなかったので覗き込むと、やはり骨だらけの部屋……しかし、部屋の中央には石棺が安置されており蓋が開いている。
まさか、ここからダークスケルトンが?
そっと、棺の中を覗き込むとやはり空っぽだ。
随分前から開いていたらしく、埃がうず高く積もっている。
そして、その埃の中にあったのが──。
「副葬品? ……ボロボロだけど」
古代の戦士の装備だろうか?
ブーツや盾、そして剣が安置されいる。
使えるだろうかと手に取ってみたが──。
「あッ」
ボロりと崩れ落ちる剣。
脆いどころの話ではない。もはや形だけが残った残骸だ。
キィ~ン……♪
しかし、風化しないものもあるらしい。
飾りとして取り付けてあった宝石のような綺麗な石が残骸に落ちてきた。
「宝石かな? ……貰っていくよ」
チラっと背後のダークスケルトンの残骸に断って石を回収するビィト。
他にはろくなものがない。
壺の様なものが足元に有るが……おそらくエンバーミング処理をした時の内臓なんかが入っているんだろう。
他の太古の墓でも似たような物を見かけたことがある。
結局、石だけを回収すると安置所を抜けたビィト。
エミリィは……まだ見つからない。
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