第15話「なんてこった、こいつは強いぞ!?」
黴の匂い……。
砕けた骨の匂い……。
そして埃。
生物の気配を全く感じないそこはまさに死の空間だった。
壁に埋め込まれた
壁だけでなく柱そして、床……。
むき出しの岩肌を見せる天井だけが唯一、骨の絨毯から免れている。
特に壁の髑髏の不気味さといったら……。
今にも笑い出しそうな気配すら感じる。
もしこれらが急にケタケタと笑いだしたら、ビィトの精神とて病んでしまいそうだ。
その不気味な壁が、ビィトの周囲を舞っている『灯火』の魔法の下、不気味な陰影を作りながら奥へ奥へと誘っていく。
狭い天井。
連続する骨の柱。
そして、数十メートル毎に上へあがる階段が数段。
時折、暗い口を覗かせる空き部屋……。
極めつけは奥から響く足音。
ドクンドクン……と自らの心臓が早鐘のように激しく鳴っている。
その音さえも喧しく聞こえるほどの重苦しい静寂。
カラン、と不意に横の空き部屋から物音がする。
……え。
「──エミリィ?」
暗闇に沈む空き部屋──────そこに、黒い人影の様なものが、
「エミリ────」
ビィトの口が音を失う。
エミリィなどではない!
ぬぅ、とビィトが顕現した魔法の光の中にあらわれたのは黒い人影。
まるで炭でも被ったようなそれは……ユラユラと揺れる瘴気の様なものを纏った人骨だ!
ぶ、
「ブラックスケルトン!!」
そう叫ぶが早いか、ビィトは素早くバックステップ! 合わせて『灯火』の他にも光魔法を連射、それは固定型の光魔法で『角火』と言った。
連続して発射される『角火』が天井や壁に当たり周囲が明るくなる。
そこに浮かび上がったのは、漆黒のスケルトン。
そいつは、確か…………そう、アンデッドの上位種──ブラックスケルトンだ。
奴はバックステップで距離を取ったビィトを追うように、手刀を繰り出す。
目にもとまらぬ速さで繰り出されたソレは、さっきまでビィトがいた空間を鋭く薙いでいた。
こいつは────まずい!!
スケルトンなら、『嘆きの谷』で戦ったスケルトンローマーを思い出すが、こいつはあんな雑魚じゃない!
あれはあれで確かに厄介なアンデッドでもあったが、
こいつは一線を画す!!
特にビィトとの相性は最悪だ!
コイツも、見た目はただのスケルトンだから、侮る冒険者も多いが……、ところがどっこい。
……無茶苦茶強い初見殺しのアンデッドだ────!
なんせ、こいつは────!
「効くわけないけど……! 当たれッ」
石礫!
火球!
アンデッド系に強い火魔法を織り交ぜた探りの一撃。
だが、噂では────。
「ぐ! こいつ、やっぱり魔法が!」
確かに命中したはずの火球は黒い瘴気に当たった瞬間吸収されるかのように消えていく。
さらに石礫に至ってはカツン! と軽い音がしたのみで、あっという間に掻き消えてしまった。
そうだ。
コイツはビィトにとっての天敵。魔法耐性のあるモンスターなのだ!
ただの魔法耐性ではないぞ?
ブラックスケルトンは身にまとった瘴気の衣で魔法を吸収しやがるんだ。
オマケにこいつは並みの冒険者よりも遥かに早い、
《ギギギギギギギギギギ……!》
ビィトの攻撃を吸収したと見るや、まるで笑っているかのように頭骨を軋ませるブラックスケルトン。
どうやって知覚しているのかは知らないが、完全にビィトを捕捉しているらしい。
距離を取りつつ、ジリジリと下がるビィトに猛然とダッシュ! あっという間に距離を詰めてきた──!
黒い人骨が迫りくる様子! スゲー恐怖だ!!
「くそぉ!」
なんとか身をかわしたビィトの脇を駆け抜け大振りの一撃を白骨の壁に叩き込む!
カシャァァアン! と乾いた音を立てて砕け散る白骨。
さらに骨が埋め込まれている堅い壁ですら、手刀だけで深々と削り取ってしまった。
こ、こいつ──素手でも十分に強い!
一撃でも貰えばビィトの防具無しの身体など両断されてしまうだろう。
だけど、
「舐めるな!」
ビィトは知っている。
知識だけでなく、一度ならず何度かブラックスケルトンとは交戦したことがある。
……ジェイク達が、ね。
こいつは太古の墓なんかに沸くスケルトンの一種。
人々に忘れられたような地では、こいつが普通のスケルトンに取って代わっているのだ。
当然ながら、「
高位の神聖魔法や聖水がようやく効く程度。
その他に弱点らしい弱点はない。
ないが────。
「骨に違いはない!!」
『身体強化』────脚力増強!!
「らぁぁっぁ!!」
ブラックスケルトンの一撃を躱したことにより、奴には隙が生じていた。
その一撃で仕留めるつもりだったのだろう。
大振りのスイングで壁を切り裂いた後のブラックスケルトンは無防備な背中を曝していた。
そこに強化したビィトの蹴りが炸裂する。
格闘の基礎も何もないただの喧嘩キック。
だが、威力は折り紙付きだ!
筋肉も皮膚もないスケルトンは、やはり防御力が薄いという欠点がある。
だから、ひ弱な魔術師の蹴りでも十分に通用する。──ビィトがひ弱かどうかはこの際ッ──。
バシ!
「な!!」
だが、勝利を確信したビィトの蹴りはあっさりと受け止められる。
ば……ばかな!?
ブラックスケルトンに、こんな動き──!!
まるでビィトを
「いづ! ぐぅぅ……。こ、コイツ!」
表情筋もないというのに、まるでニィィと笑うような気配を感じさせるほどの人間臭さ。
さらには、掴んだ手の先から、ポッ……と火が灯る。
「あち! な、ま……魔法!?」
ブラックスケルトンが魔法!? そんなバカな!
スケルトン種であってもリッチやレイス、スケルトンメイジやスケルトンソーサラーなどは魔法を使う。
だが、そういった連中は一様に魔法使い丸出しの格好をしているし、なにより肉弾戦を挑んでくることなどない。
しかし、今目の前でビィの足を焼かんとしてるのは肉弾戦もこなし、魔法すら────……あ!
「こいつ……魔法を反射しているのか!」
しまった、魔法を吸収するブラックスケルトンなんかじゃない!!!!
こいつは────────……ダークスケルトン!!
スケルトン最上位種じゃないか!!
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