第14話「なんてこった、ヤバい所に来ちゃったぞ」
暗い……。
ビィトが内部に入った瞬間、外の明かりが遮断され、閉ざされて漆黒の空間にいることに気付く。
ここには光を発する魔石はないらしい。
破壊された封鎖板の先から漏れる明かりで薄ぼんやりを周囲が浮かんでいる程度。
視線の先は暗闇に包まれてはいるものの、かなりの広さがあることが窺えた。
どうも、この辺りにあった居住空間とはまた違った場所らしい。
ベッドや椅子等の家具もなさそうだし、そもそも暗すぎる。
それになんだろう……。嗅いだことのある特徴的なカビ臭さ。
柱や壁は白く丸いものでゴツゴツしているのがわかる。
「……エミリィ?」
ここのどこかにエミリィがいる。
ビィトの声がシンと静まり返る漆黒の空間に妙に響いた。
不気味は雰囲気だが、すぐ近くに魔物が潜んでいるような気配はない……。
ないが、
──なんだろう、えらく空気が重いな……。
じっとりと嫌な汗がビィトの背中を伝う。
ダンジョンにあってさらに封鎖された区画。
一体何年……。
いや、何百、何千年もここは人が入らなかったのかもしれない。
それだけ異質な雰囲気を醸し出している場所……。
正直、用事もなければ絶対に近づきたくない。
「エミリィ……? エミリィ!!」
少し大きめの声で呼んでみるが、反応はない。
それどころか、ビィトの声は反響せず、空間に飲み込まれていくかのように、耳がいたくなるような沈黙が返ってくる。
ずいぶんと防音されているようだが……壁の白いゴツゴツが音を吸収しているのかもしれない。
だが、狭さは感じない。
つまり部屋などではないのは明白だった。
派生ダンジョンほどでもないが、ここも相当に広い空間らしい。
そして、このまとわりつく重い空気からも間違いなく魔物がいる……。
それも相当に強い連中だ。
くそ……エミリィが単独で奥へ?
ゴーレムから逃げるだけ、または身を隠すだけなら中のすぐ傍にいるかと思ったのだが……。
「エミリィ────!!」
少し大きめの声を出してみるも返答はない。
まさかな……。
一瞬、内部で息絶えているエミリィの姿を想像してゾッとするビィトだったが、そうであったとしてもエミリィを見捨てていく選択肢はビィトにはない。
例え亡骸であっても見つける気でいるのだ。
いや、それよりももっと単純な話として、もしかしてここにはいないのかもしれないという、淡い期待もあったのだが……。
ゴーレムから逃げるだけなら、奥に行く必要はないのだから、呼んでも聞こえないほどのところに彼女いくとは思えなかったのだ。
だが、念のため周辺を探そうと、灯の魔法を付けようとしたビィトの足が乾いたものに触れた。
それは、カララと寂しげな音をたて──。
ッ!
「これ──……!」
それはボウガンの矢だ。
蟻の巣で手に入れた封鎖部隊の遺品。
そして、エミリィに渡した予備の弾でもある。
「やっぱりここにいるのか……? エミリィ!!」
反響しないものの、声はかなり遠くまで届くだろうに……、それでも反応は帰ってこなかった。
これだけ静かな空間だ。ビィトの声が聞こえないとは思えないが……。
彼女がここに入ったのは間違いないらしい。
くそ……。
「行くしかないか……」
エミリィのように探知能力があるわけではないビィト。
せめてもの補助として五感を強化する。とくに聴覚だ。
嗅覚や触覚よりもこの静かな空間では聴覚が頼りになるはずだ。
『身体強化』を聴覚に局所的に施すと耳を澄ませる。
……すると、かすかに何かが動いている音がした。カラ……カラ……と乾いた足音。エミリィではないのは明白。
恐らく魔物だろう。
正体不明の魔物がいる以上、あまり灯りはつけたくないのが本音。
こんなところで明かりをつければ標的になるだけだ。
もっとも、暗闇に生息しているらしき魔物相手に暗がりに身を潜めることにどれほど意味があるかは知らない。
……仕方ないか、とビィトは『灯火』を使う。
フワフワと浮く魔法の明かりだ。
そこに内部の様子が────……、
「ひぃ!!」
途端にビィトの口から漏れるのは情けない悲鳴!
彼をして余りの驚愕に声を漏らしてしまったのだろう。
なぜなら、目の前には大量の────白骨が……!
壁や柱にあった白いゴツゴツは全て……頭蓋骨。
床だと思っていた足場は、大腿骨がギッシリと敷き詰められた空間。
骨、骨、骨。
周囲は人の白骨で埋もれていた。
それに気付いた途端に嗅覚が強烈なカビ臭さを自覚する。
こ、これは、うぐ────ち、地下墓所!?
ビィトの冒険者の経験はそれなりに豊富だ。
その中でも、ダンジョン都市に来るまでに「
とくに、火葬を嫌う地域では、遺骨や遺骸を、神殿の納骨堂や洞窟、あるいは地下の神殿に安置するのが常識だった。
そこには大量の副葬品とともに、スケルトンやミイラがうようよするアンデッドの天国と化していることが多々ある。
いい加減な埋葬処置をするとそこは二度と使えない墓所に成り果てるのだ。
そうした墓所の整理や盗掘依頼が稀に冒険者ギルドに出されることがある。
盗掘と言っても所有者も分からない太古の墓のことだが……。
そこから産出する品は高価なものが多く、かなりの冒険者が地下墓所の捜索経験はあるだろう。
もっとも、危険が多く、ほとんど彷徨くアンデットの仲間入りをするはめになるのだが、それはまた別の話。
地下墓所はかくも危険な場所なのだ。
そうすると、ここもその類だろうか?
地下墓所と言うのは意外とどこにでもあるもの。
とくに大都市では顕著で、火葬をしない地域の墓所では軒並み大量の人骨がある。
そこでは専門の聖職者が
だが、それにしてもこの数は異常だ!
物言わぬ黒い眼窩が全てビィトを見ているかのように感じられた。
目につくだけでも軽く千体はある。
そして、まだまだ奥に続いており、その全てがこの白骨で覆われているのだ。
「こ、こんなところにエミリィが?」
一人で行くには余りにも不気味な空間。
さらには、魔物の気配もある……。
ゴーレムがうろつく通路にあって、さらに封鎖された区画だ。
おいそれと探検するような場所じゃないとはわかる。
だが行くしかない……。
エミリィがここに一人でいるならなおさらだ。
ゴツゴツとして歩きにくい、……まさに骨組の足場の中ビィトは封鎖区画の墓所へと踏み込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます