第10話「なんてこった、エミリィ待ってて!」
──いわんこっちゃない!
ゾルリと動き出したゴーレムの列に、ビィトの足場もつられて動き出す。
やはり人間の気配につられていたのだろう。
その対象が目の前に来たのだ。そりゃ追いかけるわな。
「ひッ!」
「くそ! 無節操なゴーレムめ……!」
大人しく蟻の巣に囚われていればいいものを、活きのいい獲物が現れれば、これだ。
エミリィに向かってスクラムを組んだような状態でズンズンと進み始めるゴーレム。
さらには通路の奥からもオカワリが来る始末。
どこから沸いてくるか知らないが、その数は脅威だ!
「今行く! エミリィ──はぐれないように待ってて」
今からゴーレムの頭に飛び乗ってビィトに合流するのは無理だろう。
ぎっちりと詰まっていたからこそ、無防備に頭の上を歩いていられたが、その状態が解除されれば──もう無理だ。
さっきまで詰まっていたゴーレムだが、散り始めればビィトの足場とて危うい。
群れの端。
エミリィにほど近い連中は、既に群れではなく個々で動き始めているらしい。
「く──足場が! エミリィ、い、今行く! は、反撃できるなら、早く!」
エミリィはここで初めて焦りの表情を見せる。
ビィトがすぐについてくると思っていたのか、通路の先とビィトの方を交互に見ていた。
先に進んで逃げるか、ビィトの合流を待つか判断がつかないのだろう。
ビィトとしては早く彼女のもとにいきたいのだが、言葉と心とは裏腹に滑稽なくらい進まない。
動き出したゴーレムの頭の上は酷く不安定で、ビィトは足場のゴーレムの群れが散り始めたせいで、今や立っているのも危ういほどだ。
そのうえこの数だ!
ぎっちりだったゴーレムたちが徐々にエミリィに向かってばらけ始める。
「く、う、動くなよ!」
だが、エミリィの期待に反してビィトの身体能力はそれほど高くはない。
『身体強化』の魔法を使えば局所を強化することができるが、所詮は魔術師……
ゆえに、動き出したゴーレムの群れの上を軽快に走ることなどできない。
それに加えて深部へ潜るための大荷物が余計にビィトの動きを阻害していた。
山の様な荷物は狭い所を抜けるときにも苦労したが、ここではそれ以上だ。
エミリィの能力を最大限に引き出すために彼女の荷物は最小限にしたのだが、それがまずかったのかもしれない。
お陰でエミリィが突出することになってしまった。
いや、荷物のせいばかりではない、か。
なんだかんだいっても、ビィトとエミリィのパーティ歴は新しいもの。
二人の連携が取れているのかと言われてみると……とても、とても。
ましてや、以心伝心というわけにはいかない。
今もそうだ。
ビィトが先に行ってと言ったが、それは遥か先にという意味ではない。
ホンの少し先で、安全確認をしつつ進んでという──ニュアンスだったのだか……。
どうにも上手く伝わっていなかったらしい。
結果、二人の行動速度を考えずにエミリィは先走ってしまった。
ベンと行動していた時はなんだかんだ言って、一応のリーダーとしての彼がいたため、核心として動いていたのだが、いざ二人になってみるとお互いが個性を出し過ぎているらしい。
ビィトがもっと手綱を握ればいいのだが、リーダーという器ではないと自覚しているだけに、的確な指示を出すのに躊躇いがあるのだ。
そのため、それぞれ動きたいように動いてしまっている。
いや、最初はそれでいいと思っていた。
だが、それで上手くいくはずなどなかった。
悔しいが連携不足と指示伝達のミスが招いた事態だ。
ここでベンの指揮が良かったなどとは言えないものの……!
くそ、ちゃんと指示を出すべきだった!
──そう後悔するも、もう遅い。
エミリィはゴーレムの群れの先。
ビィトはゴーレムの群れの只中だ!
どっちも危険な状態には変わりはない。
「エミリィ! い、今行くから、待ってて!」
いや、待つのは正しいのか?!
ビィトはあとどれくらいでエミリィの下へ?
ゴーレムの上をこれ以上走れるのか?!
様々な疑問、問題点、逡巡が頭を駆け巡る。
あああああああああああああ!
もう、どうすりゃいいんだ?!
もはや、ゴーレムは完全にスクラムを解いており、それぞれがズンズン! と足音高く歩き出している。
ビィトに至っては一体のゴーレムの頭の上にのっているだけで、いつそいつに攻撃されるか分からない。
ビィトがいる場所は密集した中でも、最も密度が濃い場所だったので、まだゴーレムたちの間隙は狭く、手足が好きに動かせる状態ではなかった。
だが、それもいつまでもつか……。
群れの端では、エミリィを標的と定めた連中から順次バラけ始めている。
「クソ!」
グラグラと揺れる足場。
視線の先ではエミリィがスリングショットを手に反撃しているが、数がそもそも違い過ぎる!
一体や二体ならエミリィなら簡単に撃退できるだろうが……いまやこの通路にひしめき合っているゴーレム全部が敵なのだ。
エミリィ手持ちのベアリング弾もそう多いわけでじゃない。
弾丸節約のためにゴーレムの破片を打ち出そうにも、ダンジョンモンスターの風化は早く、早々に砂になる。
そのうえ、そもそも悠長に破片を拾う隙など与えてくれない様だ。
「お、お兄ちゃん!」
立て続けに3体。
進行方向からきた新規のゴーレムも一体と、思わぬ善戦をみせるエミリィだが、ゴーレムの圧力はそれ以上だ。
今すぐにでも助けに行きたいが、
「くそ! まとめてぶっとばしてやる!!」
こんな足場ではまともに戦えない。
それくらいなら、ばらけ始めたゴーレムの隙間を走り抜けたほうがいい!
ビィトは封鎖用のスクロールを取り出すと、封鎖と殲滅を兼ねてセッティングを開始する。
さっと、スクロールの封をほどけば中を検める。
「小爆破────いや、大爆破の魔法か……! それと遅延の時間魔法との複合……高度だな」
これくらいなら、魔力が微量でもある人間なら誰でも扱える。
起動式はスクロールの右端にある蝋を削り取ればいいらしい。
魔力阻害の蝋を溶かして封をしているだけで、それさえ剥がせば使用者の魔力を感知し、大爆破の魔法が発動する。
ただし、それでは使用者が巻き込まれるので、遅延の時間魔法が施されている。
時間にしておよそ60秒だが……悠長すぎる!
「エミリィ! もう少し耐えて!」
「う、うん!! だ、だけど──」
もう限界だろう……。それは分かる。分かるけど、もう少しだけ!
自分のドンくささが嫌になる。
こうした足場でももう少しまともに動ける様にならないとな……。
「邪魔なんだよ──おまえらぁぁぁぁ!!」
蝋を削り取り、スクロールを起動。ついでに、時間魔法に細工を施す。
60秒なんて待ってられるか!
ふっとべやぁぁぁぁぁああ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます