第11話「なんてこった、爆発しすぎだろッ」

 ────ふっとべやぁぁぁぁああ!!



 ポイっと投げたスクロールが蟻の巣と『石工の墓場』の接合付近に落ちて、すぐゴーレムの身体に隠れて見えなくなる。


 60秒から、6秒に細工済みだ。


 それが当然だろ??


 ……悠長に待っていられるかッ。

 ちょっとの爆発くらいなら耐えて見せる!


 防御魔法──発動!!


 はぁぁぁあああ!!!!

 防御魔法────『風の盾ウィンドシールド』『水衣ウォータークローク』!!


 下級魔法の風の盾を発動し、爆風を逸らす。

 そして、火炎から身を護るため水で全身を薄く覆った。


 もともと、遠距離からの矢を逸らすくらいしか効果のない風の盾だが、それは全身を覆った場合だ。

 ビィトは改良と魔力を大幅に加えて風の盾に指向性をもたせた。

 おかげで一方向からの魔法攻撃にボウガンの狙撃も防ぐことができる。


 もっとも、持続性はさほどないのだが……。


 そして、『水衣』は満遍なく全身を水の膜で覆う魔法だが、本来ならちょっとした火を短時間防ぐくらいのもの。

 それも完全ではないが、これも同じく改良している。

 具体的には魔力を増して膜を厚くするとともに多重掛けし、水の膜の層を複合化している。


 おかげでかなりの火炎量であっても防ぐことができた。


 ただ、どれもこれも実戦で使うには制約が多い上、防御魔法は下級であればあるほど持続時間が短い。

 ビィトの魔力をもってしても、時間を延ばすことは魔法そのものが下級であるため限界があった。


 だが、こと瞬間的な防御力なら、そんじょそこらの上級魔法に遜色しない────はず。 


 これならすぐに────────ズドォォォォオオオオオン!!



「ぐぁ!!」



 いきなり起こった大爆発!

 ビィトの使う小爆破など目じゃないくらいに強烈で、爆心地付近のゴーレムが一瞬で蒸発し、残りは爆風でなぎ倒される。

 

 爆心地にほど近いビィトもゴーレムで減衰されたとはいえモロに爆風を浴びてしまった。


 『風の盾』のお陰でかなりの減衰ができたものの、足場にしていたゴーレムごとぶっ飛んでしまった。


 あ、あれ??

 ろ、6秒じゃない……滅茶苦茶短かったぞ!


 いくらビィトが魔術師とは言え、人が組んだ魔法をそう簡単に弄れる筈もなし。

 そもそもが上級魔法等の組み合わせで、ビィトのように下級魔法しか使えないものには荷が重すぎたのだろう。


 普段なら絶対にやらないミスだ。


 浮遊感を感じた頃には、通路の高い天井付近までぶっ飛ばされていた。


 ぐ……!


 爆炎も爆風も防げたものの……これはマズイ!

 単純に落下というのはダメージが大きく……防ぐ手段はないのだ!


 え、エミリィは!?


 自分がピンチだというのにエミリィの安否を心配するビィト。

 大爆破のお陰か、せいか……ゴーレムの半数ほどがなぎ倒されている。


 それもドミノ倒しの様にだ。


 だが、爆風が届いた範囲は限定されている。

 エミリィの正面には影響が薄かったらしく、ゴーレムが未だ彼女をつけ狙っていた。


「エミリィぃぃぃぃぃい!!」


「お兄ちゃん!?」


 爆音を受けて耳を覆っていたエミリィが驚いている。

 バラバラと降り注ぐ破片に混じり、ビィトが・・・・巻き上がっている・・・・・・・・のだ。


 天井に打ち付けられんばかりに高々と……!


 くそ! カッコ悪い!

 っていうか、……し、死ぬ?!


 ダンジョンの壁は崩れ落ち、ゴーレムがぶっ飛ばされたことで蟻の巣の封鎖は成功……だが、かわりに間抜けなビィトが吹っ飛ばされてしまった。



 だが……!

 まだまだ!! こんなものがピンチなものか!



 俺がこのくらいで諦めるわけないだろうが!!


 うおおおおおおおお!!!

 落下くらい……方向修正してやる!


「ぐぅ!」

 ゴーレムの身体ごと、爆風で巻き上がったビィトは、そのゴーレムを足場にして跳躍。

 身体強化を足に最大に掛けると勢いよく飛んだ。


 そうとも────下ではなく、さらに上に!


 そのまま天井に向かって跳躍すると、クルっと体を丸めると、今度は天井に向かって着地する。

 落下と違い天井に向かってなら、すでに勢いは止まっているので叩きつけられる心配はない。

 もう少し爆破力が強かったり天井が低ければそのまま叩きつけられて内臓破裂からの圧迫死もあり得ただろう。


 こればかりは運が良かった……。


「らぁ!!」


 ダンッッ────……天井に束の間着地すると、跳躍の勢いをぐぐぐ……と天井に押し付ける様にして、しばらく硬直。


 だが、重力がビィトを引っ張り始める頃には、再び跳躍ッ!


 そのまま地上に向かって飛び降りるビィト。


 だがもちろん地上に降りたところで優しくキャッチしてくれるはずもなし────。


「届くか……!?」


 ビィトの目指した場所は────溜め池タイドプールだ。


 届け……!!


 降り注ぐゴーレムの破片が邪魔だ……!

 背負っている荷物が邪魔だ……!

 纏っている魔法が邪魔だ……!


 全部──邪魔だ!!!


 空中で荷物を放棄し、さらには魔法を解除!

 そして、周囲に散乱しビィトの進路を妨害するゴーレムの破片を強引にかき分けるように進み、大き目の破片は蹴り退かすと落下に任せて溜め池を目指す!


 猫の額の様に狭い溜め池だ……!

 だが、届く────。


 いや……足りない!?


 多分……角度的にあと数十cm届かない! くそぉぉぉおお!!


「エミリィ! 俺を撃ってくれッッッ」 

「えぇ!?」


 かなり離れた位置にいるというのにビィトの声は良く響いた。

 そして、エミリィは驚愕に目を見開くも、目の前のゴーレムを狙撃しようとしていたベアリング弾をビィトに向ける。

 

 一瞬、躊躇していたらしいが、こと戦闘中においてビィトの指示が間違っていたことはない。



 だから、撃つ!



 目線だけで、「いいの?!」と、彼女へそう言っていたが、ビィトは力強く頷く────ドシュン!!!


 物凄い速度を打ち出されるベアリング弾。

 それを受け止めるように、ビィトは石礫を発動すると、高圧で縮し盾の様にかざす!


 ──キィィィィイイインンン!!


 高速で空気を切り裂きながら飛翔する弾丸ッッ!


 それをぉぉぉおおお!

 ここで受け止める────バキィィィィイイン!!


 物凄い衝撃を受けて発動していた石礫が霧散した。

 エミリィのスリングショットはビィトの石礫並みの威力らしい。


「がぁっぁあ!」


 ジーーーーーーンと手のしびれを感じた頃にはビィトの体ごと横殴りを受けた様に吹っ飛ぶ────めちゃくちゃ痛い!!


 だが、

「げふ……届いた────!」


 ドッパァァァァァアアン!!

 

 一瞬で視界が淡く濁る。

 そして、全身を貫く寒気────!


 水は恐ろしいまでに冷え切っていた。

 さらに、透明度が高いがゆえによくわかる……! 目の前が真っ赤になっているじゃないか。


 これは……。


「ガブガブボ……! (どこか負傷した?!)」


 もがくたびにユラユラと赤い血が煙のように漂っていた。

 量からみてもそれほどではなさそうだが……。


「ブハッ!!」


 なんとか水面に顔を出すと改めて下を覗き込む。


(ふ……深い!)


 ゾッとするほどの暗さがそこにはあった。

 透明度が高いだけに恐ろしく見通しが効く。

 その上で底が見えない程……。


 水がなければどこまで落ちる事やら。


「エミリィ! エミリィぃぃぃい!」


 なんとか危機は脱したものの、ビィトの相棒エミリィの姿は見えない。

 溜め池は深く、水面から縁までもかなりの高さがあった。


 これは……一人では簡単に上がれないぞ!


 幸いにも猫の額並みに狭い溜め池なので、手足を突っ張れば上がれそうだが……。それは酷く骨が折れる作業だ。


 オマケに、

「ゴーレムめ……!」


 ズシン、ズシン……!


 生き残りのゴーレムがビィトに気付いて穴を覗き込んでいやがる。

 あそこからじゃ届かないだろうが……。


「じょ、冗談じゃねぇぞ!!」


 別名『石工』なんて言われるくらい、石切りの得意なストーンゴーレム。

 やつらは、御多分に漏れずどこからともなく石を切り出して手に持っていやがるのだが……。




 おいおい、まさか。

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