第5話「なんてこった、荷物を回収したよ」
休憩を終えたビィト達は一気に下層へ向かって降りていく。
蟻の巣のどの部分がダンジョン『地獄の釜』が繋がっているのか現状では分からないものの、エミリィの探知ではかなり下の方でゴーレムの反応が溜まっているらしい。
巣穴でいえば女王アリがいるであろう場所。
そこが繋がったとは考えにくいが、大抵の場合──ラージアントは、地下へ地下へと掘り進める習性がある。
女王蟻をより安全な場所へ隠すためだが、そのためにもラージアントが新規に工事する場所と女王アリの部屋は比較的近くにあることが多い。
ならば目的地であるダンジョンとの連結部分は、やはり新規工事箇所が該当するだろう。
つまり、女王蟻の部屋からほど近いと思われる。
ならば、女王アリの部屋を目指しても間違いではないはずだ。
つまり、最深部へ向かうのが正解──。
このまま奥へ奥へと進むのだ。
それにしても同情する気には微塵もなれないけども……。
安全のために掘り進めて、逆に不完全にしているのだから、ラージアントも不憫なものだ。
その不憫なラージアントの巣に新たに巣くっているゴーレムを駆逐していき、ビィト達は危なげなく進み、比較的広い場所に出る。
恐らくここが女王アリの部屋か、その近隣の護衛達がいたであろう部屋だろう。
しかし、以前潜った蟻の巣を想像しているとその違いに驚くことだろう。
この巣の中は、あれに比べて内部は随分と変わり果てていた……。
うわぁ…………。
「なんて数だ」
驚愕というよりも、呆れたと言った様子でビィトは部屋の中をみる。
そこにはありとあらゆる隙間に体を押し込んだゴーレムがミッチリと詰まっていた。
見ていてちょっと気持ち悪いくらいに……。
「うわぁ……凄い」
エミリィも若干引きぎみだ。
……うん、同感。
ゴーレムたちはビィト達に気付いているらしく一斉に顔を向けている。あの特徴的な赤い目が爛々と光り、ビィト達を睨み付けているのだが……。
「コイツら、詰まって動けないのか?」
余りにも密集しているものだから、互いに互いが邪魔をして動けずにいるようだ。
そこに、さらに更にと地獄の釜側から新規のゴーレムが湧き出すので日々密集度合いは増す一方。
端の方では磨り潰される奴がいてもおかしくはない。
これだけ密集していると、今では首より上は動かせないのではないだろうか。
「うーーん……このままほっといてもここは封鎖できていたみたいだね」
ここから這い出すのは最早ゴーレムどもには無理だろう。
地上にでてきた個体は、もっと前────ここがこんなふうに詰まるより以前に蟻の巣を徘徊していた個体なのかもしれない。
よくよく見れば小型のゴーレムより少し大きめの中型ゴーレムも混ざっているが、そいつに至ってはこの部屋以外に行けるとこなどないし、絶対に通路は通れないだろう。
なんで出てきたんだよ? と言いたくもなる。
そして、そんな奴らが無理やり『地獄の釜;から湧き出してきたがために、この巣穴では渋滞が起きているのだ。
「でも、このままじゃ先に進めないよ?」
……そうだよね。
「わかった。ここは強行突破しよう──エミリィ。入り口は分かる?」
ぎっしりとゴーレムで埋まった部屋には入らず、まずは入り口で様子を窺うビィト。
下手に手を出して倒してしまうと、それが呼び水となって連中動き出しかねない。
せっかく詰まっているんだ。
そのままでいていただこう。
「ん────……空気の流れが違うとこがある……。右の少し奥。壁に穴があるよ!」
目をつぶって五感とスキルを使ってエミリィが壁の穴を探り当てる。
ビィトにはさっぱりわからなかったが、エミリィには明白だったらしい。
あっという間に地獄の釜への裏口を発見するとビィトに教えてくれる。
彼女の指さす先……。
なるほど。密集したゴーレムが少し盛り上がり、密集度が濃くなっている。
つまり、あそこだけ新規のゴーレム沸きが多いということか……。
「あと、お兄ちゃん。ほら────あれ!」
エミリィが指し示す先。
ミッチリと詰まったゴーレムの足元には、バラバラになった人骨が散らばっている。
何度もゴーレムに踏まれたのだろうか。
ほとんどペチャンコになっているが、装備の
だが、死体のそれではなく……。
「上の衛兵が言っていた、例の爆破用の
数名分の死体がまとまった場所。ゴーレムの足の隙間から辛うじて見える位置には肩掛け鞄の残骸が見える。
そこには、羊皮紙から作られたと見える大きめのスクロールが鞄の隙間から顔を見せていた。
「でも、ゴーレムを倒さないと回収できないな……。どうしたものか」
ビィトは思案する。
別にゴーレムを恐れているわけではない。こんな雑魚、脅威にもならないが……問題は数だ。
この蟻の巣の狭い部屋に一体何体のゴーレムがいるのやら。
ミッチリと詰まった連中に石礫を順繰りにぶち込んでいくのはそれほど面倒なことではないが、せっかく自分たちの体で蟻の巣を封鎖してくれているのだ。
何もビィトからその均衡を崩すことはない。
このまま詰まって貰って放置するほうが、上で番をしている衛兵たちの負担を減らすことになる。
さすがに殲滅するのは骨が折れるし、時間もかかる。
だから、ビィトとしてはこのまま放置して地獄の釜へ抜けてしまいたかった。
「しょうがない……回収は諦めて先に進もう。向こうから俺の魔法で塞げば同じことさ」
そうとも、ビィトの魔法でも多少時間はかかるかもしれないが、連射すれば壁の穴くらいは崩すことができる。
「うーん…………。あ、ちょっと待って!」
そういうが早いか、エミリィは鞄の中から折り畳みの鉤付き棒を取り出すと組み立て始めた。
先の『嘆きの谷』攻略のとき、ゴブリンの罠地帯での安全確認に使っていたアレだ。
それで手繰り寄せようというのだろうか?
いや、それにしても距離があり過ぎる。
蟻の巣の大部屋は狭いがそれなりの規模があり、そこがゴーレムでぎっちり。
目的の裏道を行くにはゴーレムたちの頭の上を行くしかないだろう。
「エミリィ、流石に届かないよ……って」
──なにあれ?
「えへへ……これ、結構便利なんだよ?」
見ててね、そう言ってエミリィは鉤棒を伸ばすと根元をクルクルと回す。
するとスルスルと鉤棒が伸びていくではないか。
おお!
……地味にすごいな、これ。
「凄い道具だね。折り畳みで、伸縮機能付きなんて……」
そう、伸縮機能を付けたり、折り畳みができるものはそれなりにある。市場をみれば結構な数があるものだ。
だが、どちらもできるというのは中々ないものだ。
複合機能をもたせると、どうしても構造が複雑すぎて、故障の原因になったり、脆くなったりと、そもそも機能しないことがあるためなのだが……。
エミリィの道具は使い込まれていても全く機能に阻害はないらしい。
難なく鉤棒を延長すると、その先端に遺品の肩掛け鞄の紐を引っかけた。
「とれた!」
そのまま、ゴーレムたちの足をすり抜ける様に鞄を引き摺って行く。
途中でスクロールが引っかかったりしたが、元々紙であるため引っ張ることにさほど支障はない。
それよりも────。
「ゴーレムたちがスッゴイ見てる……」
ゴーレムは無言のモンスターだ。
思考力があるのかは知らないが、人間と見れば襲い掛かるくらいには敵意の塊である。
そいつらがミッチリぎっしりと詰まって一歩も動けないところを、ビィト達が鼻先で作業中なのだ。
感情があるのか、どうかはわからないが……怒りを感じなくもない。
そのためか、せめてもの攻撃としてあの赤い目を爛々と光らせて睨んでくる。
「大人しくしててくれよ……」
通路入り口でゴソゴソしているビィト達としては中々にシュールな光景だった。
「大丈夫だよ。ハイ取れた!」
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