第3章「なんてこった、仮免許でダンジョン」
第1話「なんてこった、ここは蟻の巣?」
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─── 本編です ───
ダンジョン都市郊外。
荒野の広がるその大地は茫洋としており、僅かばかりの多肉植物と灼熱に耐性のある生物がいるのみ。
緑豊かな土地から来たものには、一見して不毛の大地に見えるだろう。
実際生物層は極端であり、数も多くはない。
時折、蠢くの巨大なムカデやらトカゲ。
それに稀に発生するアンデッドくらいなもの。
そしてそれらを襲っているのが、奴ら────ラージアントだ。
今もフラフラと歩くゾンビを見つけると、背後から食らいつき強靭な顎でその身体を両断してしまった。
大物であれば巣穴に持ち帰ることもあるが、小物であればそのまま食べてしまうらしい。
両断されたゾンビに群がるラージアント。
湿った音がしばらく響いていたかと思えば、あとには汚れた体液のあとが残るのみで骨一つない。
貪欲な蟻のなせる業だろう。
さて、そんな荒野であるが、ビィトは珍しく街道上を歩いていた。
ギラギラと照り付ける太陽が鬱陶しい……。
「ふぅー……どこ行くの?」
額に浮いた汗を拭ったエミリィがビィトに素直な疑問を投げかける。彼女は、またラージアントの巣の討伐に行くのかな? と、そう思っているらしく、
「──依頼受けてないから報酬は貰えないよ?」
エミリィの疑問はもっとも。
ギルドでは後付けの依頼達成は認められていないのだ。
正規の手段で、ちゃんと受注した後でなければならない。
窓口で受付をすませるだけだが、そうして依頼を達成するのが正しい手順である。
「ははは。ラージアントの巣には違いないけどね、今回は
ビィトの言葉にエミリィをして疑問しか沸かない。
依頼でもないのにラージアントの巣に向かう意味は? 旨味は?
「?????」
「……ジェイク達の遭難していると思われる『悪鬼の牙城』なんだけどね、普通は『正規ルート』で行く方法と、『近道』の2つのパターンがあるんだ」
うん。
「──ダンジョン入り口からの正規ルートで行けば比較的モンスターの脅威は少ないけど、時間がかかる」
うん?
「──もう一つは近道なんだけど、……おそらくジェイク達はここを通ったんだと思う。そして、このルートはモンスターの数が半端じゃない上、強力で苦戦が予想されるんだけど、」
エミリィを見つめるビィトは、
「……俺一人なら突破は可能だと思う。だけど、エミリィ──君を守りながらだと少々厳しいんだ」
う、うん…………。
それを聞いてエミリィはシュンとする。
だが、
「──勘違いしないでくれよ? 足手まといって意味じゃないんだ。むしろ逆だよ」
そうとも、ビィト一人なら近道を駆け抜けることはできる。
身体強化を局所に集中してかければ韋駄天の如しだ。
だが、それで?
その後どうする?
ダンジョンは魔術師が一人で挑んでどうにかなる場所ではない。
ビィトは人間だ。
たった一人の、か弱い人間だ。
飯も食えばクソもするし、睡眠もとる必要がある。
さらには罠の探知や敵の接近、後方警戒やら、やることなすこと全てを自分一人でこなさなければならない。
……そんなことは土台無理だ。
最低2人。理想は数人。
交代で休憩を取ったり分業したりと……。
そんな大変な仕事だ。
欲を言うならば、戦闘を考えて前衛後衛と欲しい所だが、ビィトにそんな伝手はなく、
そして組んでくれる奇特な冒険者もいるはずもない。
だから、理想的な戦闘パーティのことはひとまず諦めて、ダンジョンの突破に焦点を置いた。
そう、攻略でも探索でもなく、突破──そして救出だ。
それならば道順さえ知っていれば比較的容易。
戦闘はなるべく避けて目的地を目指すだけでいい。
ただし、強力なモンスターが飽和攻撃を仕掛けてくるような場所はダメだ。
そこでは戦闘は避けられず、2人だけでは何処かで破錠する。
だから、条件としては近道並みに時間をかけずに──そして、強力なモンスターがそれほど沸かずに、2人だけでも突破可能なルートが望ましい。
と、そういった説明を道すがらエミリィにしていく。
「えっと? ……そんないい条件のルートって?」
「──うん、あ、あそこだ。」
そういってビィトの指さす先、街道から脇道が派生しており、荒野に明瞭にわかる踏み跡がある。
繰り返し人が通るものだから、なんとなく道になっているのだろう。
「あれって──」
首を傾げるエミリィ。
彼女の視線の先には、ちょっとした施設が立ち並んでいる。
寝泊りできるほどの小屋が数棟と、堀やらスパイク付きの柵がある。──あるが、奇妙なことに堀は内側にあり、柵は外側でさらにスパイクは内を向いている。
つまり、外に対する対策ではなく、内に向けられたもの。
実に奇妙な施設だ。
そこに迷うことなく近づくビィトは、小屋の前でのんびりとキセルを吹かしている人物に近づいていった。
「ん?」
彼は街の衛兵らしく、ダンジョン都市製の皮鎧に身を包んでいる。
仕事熱心には見えず、主兵装の槍も壁に立てかけられたままだ。
「なんだお前? 冒険者か?」
警戒する風もなく、衛兵はビィトとエミリィを不躾にジロジロと見つつも、荒野を旅するものの格好ではないことに気付く。
それだけで、すぐにダンジョン都市を拠点にしている冒険者であると看破して見せた。
「えぇ。俺はビィト。この子はエミリィ────C級の冒険者です」──俺は仮免許だけど。
「こ、こんにちわ」
ペコリと挨拶する行儀のよいエミリィに、衛兵も相好を崩す。
「あぁ。依頼か、素材採取か何かか?」
「そんなとこです。入っても?」
衛兵は、肩をすくめるも、
「俺にゃ権限はねぇよ────班長ぉぉぉ!」
大声で衛兵が叫ぶと、
「(──ちょっとまってろ!!)」
ズガァッァン! と、地の底から響くような音がしたかと思うと、施設の先にはポッカリとあいた穴から土煙が噴き上がる。
モクモクと立ち上る土煙の中から、ポポィ~! と石くれの様なものが放り出されてくる。
「っぁかぁ!」──ペッペッペ!
濛々と閉ざされた視界の先で、そのベールを透かすように唾を吐きながら一人の男が這い出して来る。
「あーちくしょう。段々増えてやがる」
パンパンと土埃を払うと、男はようやくこちらに気付いた。
「んん? なんだそいつら?」
衛兵と同じ格好をしている所を見ると、やはりダンジョン都市の衛兵なのだろう。
「冒険者だとよ。──中に入れてくれってさ」
同僚の気安さで衛兵と班長が話し始めるも、
「おいおい、兄ちゃんよ~。こんなとこ入ってどうしようってんだ? 中はダンジョンに直結しちまってるんだぜ?」
知ってるさ。
「もちろん聞いてるよ。だから来たんだ」
「はぁ?」
ビィトの目的地────ラージアントの巣穴。
いや、元巣穴といったところか。
「巣の駆除を────いや、巣の封鎖をさせてくれ。報酬はいらない」
「はああああぁ?」
─── あとがき ───
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