第21話「なんていうか、助けにいこう」

「はー……また文無しに」


 がっくりと項垂れたビィト。

 くらーいオーラを纏ったまま宿屋からドンヨリとした雰囲気で這い出してくる。

 たまたま通りかかっただけの、町の人が思わず立ち止まり二度見するほどの辛気くさい顔。


「はぁ……」


 懐に仕舞った財布の中身はゼロではないが、ほとんど子どもの駄賃程度しか残らなかった。


「あははは。しょうがないよ!」


 エミリィはあまり気にした風がない。

 この子はお金に無頓着なのだ。それが良いか悪いかは別にして、ね。


 それにしても困った。

 今日の午前中で最後の準備をしてから、ジェイクたちの救出に向かう予定だったが、変更を余儀なくされる。


 うーむ、これでは予定半ば……。

 確かに一応の物資は揃ったし、目的地の目星もついた。


 だが肝心の──────。


「──装備がこれじゃな……」

 ビィトはボロボロのローブに無手。

 エミリィは、ビィトが例の店で一応買っておいた安い服に着がえている。

 彼女の装備は、その中古屋で買った布製の服に、両親の形見だと言う盗賊七つ道具などの入ったカバン等々。


 どっちも軽装極まりない。

 いや、軽装と言って良いのかさえはばかられる。


 もっとも、いくばくかの銀貨があったところで、満足の行く装備を揃えるのは不可能なのだが……。

 とはいえ、だ。

 それにしたって最低限の装備と言うものがある。


 ビィトなら魔法杖スタッフに魔力補助のできる装飾具。

 エミリィなら頑丈な軽量鎧か最低限胸当てくらいは欲しい。

 武器だって盗賊七つ道具の作業用のナイフではなく、ちゃんとした短剣などがいいだろう。


 さすがに常にスリングショットや、ナイフで戦うのは無理がある。


 というか、この格好では素人以下の装備。


 ……これで「豹の槍パンターランツァ」の救出に行くなどお笑い種である。

 そりゃ、ギルドマスターも期待はしない。ある意味、納得の処遇ではあるのだが……。


 ならばどうしろと言うのか?

 今からギルドで依頼をこなしつつお金を貯めて装備を揃える?

 それとも借金をする?


 ……無理だ。どれもこれも間に合うはずがない。


 遭難した彼らがどんな状況かは知らないが、あのジェイクが「虫の知らせ」を使うほどに追い詰められている。

 常識的に考えて、身動きできなくなったと考えるべきだろう。


 強敵に襲われてから使う様な代物でもないし、

 ましてや道に迷ったなどと言う理由でジェイクが使うはずもない。


 彼なら、どんな強敵でも切り裂くだろうし、

 道に迷っても、一人で切り開くだけの覚悟と強さを持っている。


 ……つまり、負傷して動けなくなったか。

 ──どこかに閉じ込められている公算が高い。


 どちらにしても、あまり時間はないだろう。


 負傷者が生きていられる時間もそう長くはないだろうし、

 閉じ込められているなら物資が心配だ。

 通常、何ヶ月も潜ることがあるダンジョン探索で物資が尽きるなど、よほどのド素人でもない限りあり得ない。


 あり得ないが……、不測事態なら別だ。


 そして、ジェイクが救援を要請するほどの事態。


 閉じ込められても物資があるなら────ジェイクなら何とかしてしまうだろう。


 あれでいて堅実だ。

 無理だと思ったら引き返すくらいの判断力はある。

 ……それが、例え赤字覚悟であっても、だ。


 そうとも、そうなのだ。


 彼が強く、気高く、孤高であっても、Sランクにまで上り詰めているのはその判断力と生存能力の高さにある。


 引き際を知っているし、────なりより単純に強いのだ。


 そのジェイクが遭難。

 ……つまり、よほどの不測事態。

 ビィトですら想像もつかない事態。


 そして、時間は有限。

 彼らを救出できるチャンスは日毎に減っていくだろう。

 だから、悠長に装備を揃えている暇なんてない。


 たとえ、無手であってもいかなくては……。

 エミリィを危険に晒すことになっても、今行かないと一生後悔する気がするんだ。


 そう、

「────無理を承知でいくしかない」


 ビィトの決意を込めた目にエミリィは何の疑問もなく頷く。


「うん。お兄ちゃんがそうするなら一緒にいく!」

 そう言ってトトタ! と数歩進み出るとクルっと振り返り、

「────お兄ちゃんがいれば無理なんてないもんッ」


 そう言って先頭に立って歩き始めるエミリィ。

 その信頼は嬉しい限りだが、買い被りもいい所だ。


 ……でも、ありがとう。


 ビィト一人では成しえないであろうから────。

 ……エミリィがいてくれればなんでも出来そうな気がする。


 本当ならダンジョン『嘆きの谷』を踏破して1日しかたっていない。

 普通ならもっと休むべきなんだろうが……。

 時間がないのだ。


 ビィトの知りえる道を使っても間に合うかどうかの瀬戸際──。

 そう、正規ルートでは間に合わない。


「──……エミリィ。そっちじゃないよ」


 ダンジョン入り口に向かって意気揚々と歩いていくエミリィを呼び止める。


「え?」


 そうとも……。まともな手段で間に合うものか。

 そこでは、ビィト一人では成しえないだろうけど、エミリィがいればできるかもしれない。

 それくらいに危ういけれども、プランはあるのだ。


 そこでは、色んな意味でもエミリィが絶対不可欠……。


「こっちだよ」

 そう言って確信をもってビィトは歩き始める。



 なぜか街の外に向かって────。





「えええ???」



─── あとがき ───


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