第11話「なんて言うか、怪しい店で買いました」


 カラララン♪


「らっしゃい……」

 覇気のない挨拶で迎えてくれたのは、酷く小さくボロイ商店だった。

 露天よりマシと言った程度の店構えだが、所狭しと置かれた商品? のせいで、足の踏み場もない。


「久しぶり」


 ビィトは慣れた様子でヒョイヒョイと店の中を歩いていくと、カウンターで暇そうにしているオッサンの前に立った。


「おめぇ……生きてたのか」

 全く動じた様子もなく、カウンターに肘をついてビィトを迎えた。

「お陰様で──」

「ん? なんだそのちっこいのは? ……拾ったのか?」


 拾った…………? って、エミリィのことか!?


 おいこら、

 犬みたいに言うなよッ!


「違うッつの。この子はエミリィ。……新しい仲間さ」

「は、初めまして」


 ペコォと頭を下げるエミリィ。その拍子にビィトの貸していたローブがバサリと落ちる。

 すっごい格好が、明け透けに……。


「……あー……。そういう趣味だったか? ま、詳しいことは聞か」「やめい!」


 また凄い誤解をされそうだ。

 こういうのは放っとくと、すーぐ広まる。


「だ、ダンジョンで色々あったんだよ! 服失くしたりして……、しょうがないからこれを代わりに──」


「ダンジョンで服を失くして、ビキニアーマーを着せる状況が全く想像つかん。ま、いいー、おりゃ面倒なのは嫌いなんでな、でー……用事はなんだ?」


 う、うーむ。果てしなく凄い誤解をされてそうだが、……言うことは言った。


「買取を頼む。あと、探索用物資を融通してくれないか?」

「ほ。羽振りがいいな? ちょっとまえにギルドのライセンスを失効したと聞いたが……」


 ほぉら、この手の噂はすぐ広まる。


 今度は、ビィトがちっこい子に際どい格好させてるーとか言われるんだ……。うう、死にたくなってきた。


「まだ失効中だよ。その話も随分前だって……」

 いかにも適当そうなオッサン店主は凄まじく興味がなさそうに、

「そーかい? ま、どーでもいい」

「お、おう……で、だ。これの買い取りを頼む」


 ガシャンと、ポーション類の詰まったズダ袋をそのまま渡す。


「え? お兄ちゃん?」

「いいんだ」


 ニっと笑うビィトに、エミリィは驚いている。


「ほ。ギルド特性の正規品か、……程度もいい」

 ガチャガチャと中身を並べていく店主。


「ほぉ? ギルドがこれをくれたのか?」

「支給品だってさ。前金のしょぼい依頼でね……不足分がこれだとさ」


 肩を竦めるビィト。その様子はギルドマスターに見せた物とは違っていた。


「お兄ちゃん?」

 訝し気に感じたのか、エミリィが視線を寄越す。だが、それに曖昧に笑って誤魔化すビィト。


「ほぅ? 奮発したみたいだが……なるほど、在庫一掃品だなこりゃ──程度はいいが、製造してから、大分時間はたってるな」

 ポーションなどの瓶に張られているラベルから、作られた日を確認した店主は、小バカにしたように笑う。


「ビィト──お前舐められてるな?」

「あぁ、分かってるよ。……だけど、仕方がない」

「ふん……ギルドも人を見る目がねぇな。……ほれ、こんくらいでどうだ?」


 指を何本か立てる店主に、


「もうちょっと勉強してくれよ」

「ぬかせ、……探索物資に上乗せしてやるから妥協しな」


 棚に並べてある薬品や保存食を指さす。


「いいだろう。不足分は払うから、最低でも二週間分。俺とエミリィと──ほかに3人分を頼む」

「3人? ……まぁいい、細かいことはどうでもいい」


 そう言ってドン! ドン! と次々に商品を並べていく。


「一応ポーションも頼む。……バルク品でいいから」

「その言い方やめろってんだろ。ほら、物は良いはずだぜ」


 カチャンと、瓶に入ったポーションをいくつか取り出す。

 見た目はそうかわらないが、瓶の規格が違う。


「え? ポーション売って、ポーション買うの??」

 エミリィが目を丸くしている。

「なんでぇ? ビィトおめぇ。素人と組んでんのか?」

「エミリィは素人じゃないよ。ちょっと、色々あってね……。これでも、若くして彼女はC級さ」


 ポンとエミリィの肩に手をそえると、

 その言葉に驚く店主。


「ほ!? そりゃすごい……見くびってすまなかったな、嬢ちゃん。詫びにちょっと色付けてやるかな」


 そういって保存食をドスンとひとつ出してくれる。

 油紙と、防水用に蝋を引いた布で縛られているそれは一梱包で一週間分。


 重さは……結構ある。


「あとは、ワインとビール……嗜好品もいくつか頼む。それに甘いものがあればいいな」

「ウチは菓子屋じゃねぇぞ。……氷砂糖とハチミツ。干菓子くらいだ」

「充分。ありがとうよ」

「商売だっつの……ほかには?」


 食料を確保したビィトは背嚢に収めていく。


「毛布を二組、あとは細々とした消耗品を──」

「待て待て待て待て! おめぇ、そりゃ冒険者一式か!?」


 毛布を注文する段階になって店主は初めて気づく。


「お前……素人もビックリなくらい何も持ってないじゃないかッ」


 さすがに呆れた声を出す店主。

 ビィトにしても少々バツが悪い。


「あー……色々あって、身ぐるみ全部失ったんだよ。ちょっとした日用品くらいしかないんだ」

 タオルに、背嚢……服。それだけ。


「呆れたな……強盗にでもあったのか? まぁいい」

 あっさりと考えることを放棄した店主は、ビィト用に冒険者一式を準備してくれた。

 どこもこれも使い古した感があるが、まぁ贅沢は言わない。


「あと、石鹸をくれないか?」

「石鹸? お前が────あー、嬢ちゃん用か。いいぜ、オマケしてやる」


 木箱に入った良い香りのする石鹸を一つ。

 ……結構高そうだが、──悪いな。


「こんなもんか? まだあるか?」

 カウンターに山と積まれた品を一つずつ丁寧に背嚢に収めつつ、

「ああ、大丈夫だ。いくらになった?」


 店主はなにやら、木の板のような数珠の様な……妙な代物でパチパチし始めると、


「買取を差っ引けば、締めて────……銀貨20枚と銅貨88枚だな」

 それを聞いてビィトは革袋から銀貨を21枚取り出す。


「ほ! 銀貨もピカピカだな。鋳造したてか──鑑定いらずで助かるぜ」


 小さなハンマーを取り出すと、チンチン♪ と一枚一枚軽く叩くだけに留めて、お釣りの銅貨12枚をくれた。





「助かったよ。また来る」

「おう、死ぬなよ」

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