第9話「なんて言うか、色々貰いました」


「まんまやん!」「わぁ♪」


 全く異なる反応を見せるビィトとエミリィ。


 ギルドマスターの捻りのないネーミングセンスにガックリとくるビィトに比して、キラキラとした目で嬉しそうなエミリィ。


 ……えええ? それでいいのかね君ぃ!?

 

 エミリィの反応に若干引きつつも、

「ま、まぁエミリィが気に入ってるなら……取りあえずそれでいこうか」

「うん!」


 エミリィのセンスもギルドマスター並みらしい。

 いや、この場合ビィトがおかしいのか?


 …………むむむむむ。


 眉間に皺を寄せて考え込むビィト。

 その二人の様子を興味なさそうにみていたギルドマスターは、

「それでいいか? じゃあ、正式に依頼を出す。……必要な情報もな」


 そう言って、補足事項としていくつかの情報を提示してくれた。


 豹の槍パンターランツァの遭難した推定位置。

 推定状況。

 直前まで組んでいたパーティの概要。

 残り物資の数。


 そして、彼ら自身の情報────。


「ジェイク、リスティ………………リズ」


 渡された質の悪い紙。そこに記載された情報を追っていき、彼等の名前に目を止めると──ソッと手でなぞった。


「お兄ちゃん?」

 心配そうな声色に気付いたビィトはエミリィを伺う。

 あ、

「なんでもないよ……」


 自分がよほど酷い顔をしていたのだろう。

 エミリィの気遣う顔に逆に申し訳なくなった。


「う、うん」


 エミリィもそれで納得するほど愚かでもないが、踏み込み過ぎないという気配りくらいできる。

 それ以上はビィトを追及することなく、ひいてくれた。


「その情報は持っていっていい。あと、これだ」


 ジャリンと重めの皮袋をテーブルにおくギルドマスター。


「それは?」

「支度金だ。……前金とでも思ってくれ」


 目礼してから中身を改めるビィト。


 ひーふーみー……。

 銀貨50枚。


「凄い……!」

 エミリィは銀貨の量に目を輝かせている。

 だが、それとは異なりビィトの目は冷ややかになっていた。


 しかし、唇をひき結んだだけで黙して語らず。


「もっと準備してやりたいんだがな……色々手持ちが、な」

 ボリボリと頭を掻きつつギルドマスターはバツが悪そうだ。

「あとは窓口で地図とポーションを受け取ってくれ、必要分は出せると思う」


「いえ、情報があればそれで十分なくらいです」

 ビィトはは深く頭を下げて、銀貨を懐にしまった。


「すまん。『豹の槍パンターランツァ』を救ってやってくれ! お前しか頼れんのだ」


 ギルドマスターも深々と頭を下げてきた。


 それを見届けると、ビィトはクエスト受注にエミリィのサインでもって答えた。


「ええ、できることをやってみます……ありがとうございます」


 クエストを間違いなく受けたことを確認すると、ビィトは部屋退出する。

 エミリィは慌ててカップに残ったトマトスープを飲み干すが、それを見たギルドマスターはポットごとエミリィに渡してくれた。


「あ、ありがとうございます!!」


 パァっと、顔を綻ばせたエミリィに、ギルドマスターも苦笑をもって返す。


「気をつけてな」

「はい!」


「いくよ、エミリィ」

「うん!!」


 ポットを大事そうに抱えたエミリィがビィトに続く。


 ざわざわとした喧騒の中に戻ると、背後の部屋では疲れた顔のギルドマスターが天井をボゥっと見上げていた。


「よかったね!」

 部屋を出たところでエミリィがビィトに笑顔を向ける。

 そう、

 ビィトが欲しがっていた「豹の槍パンターランツァ」の情報が向こうから来たのだ。


 オマケに支給物資まであるという。

 地図、ポーション類等。


 それらの物資よりも、なによりもビィトが欲しかったのは情報だ。

 手渡された紙をじっと見ていると、

「他にもいくつかのパーティを既に送り出しているが、一番見込みがありそうなのがビィト──。おまえだ」


 え?


「彼らが遭難した場所は『悪鬼の牙城』だ。地獄の釜の派生ダンジョンの一つだが、以前「豹の槍パンターランツァ」からもたらされた情報が正しいなら──深部への近道だと言う事だな?」

 部屋からギルドマスターが語りかける。


 そう……地獄の釜はそれそのものがダンジョンであるのだが、その途中途中派生ダンジョンを持っている。

 それらは独立していたり、複雑に絡み合っていたりで、よくわからない構造になっているのだ。


 そのウチの一つが『嘆きの谷』であったり、今話題に上った『悪鬼の牙城』だったりする。


 文字通り牙城で、ダンジョン内にも関わらず暗く深い不気味な空が広がる空間──そこにモンスターが蔓延る牙城があるのだ。


 そして、そこを貫ければダンジョン『地獄の釜』の深部の近くたどり着ける。


 もっとも、そこが深部である保障もないのだが……。


 とはいえ、近道には違いない。

 実にその距離にして、かつて「豹の槍パンターランツァ」がビィト達と潜った最深部まで三日程度にまで短縮できる距離だと言うから驚きだ。


 本当に深部にトライするなら飛び込んででも行くべき場所……なのだが。

 並居るモンスターの数は半端ではない。


「場所の特定は虫の知らせの情報でしかないが……あの様子からすればタダ事ではない。もしかすると……」

 最悪の結末を想像してギルドマスターは口を苦々しく歪める。


「大丈夫ですよ。ジェイク達がそんなに簡単にくたばる筈がありません」


 だといいのだが……と。

 提供された情報を見れば決して楽観視できる状態ではなかった。


 荷運びポーター代わりに使っていたAランクのパーティに至っては情報どころか生死すら不明だ。


「それに、……偶然ですが、幸先は悪くなさそうです──」

 ビィトからすればジェイク達の遭難場所は軽々にたどる付ける場所ではなかった。


 時間も、実力も────たりない。


 だが、…………。


「そうか、何か考えがあるんだな? ……細かい所は任せる」


 それだけ言うと、ギルドマスターは扉をしめてしまった。

 酷く疲れた顔だけをして───。

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