第8話「なんて言うか、パーティー名が決まりました」


 ホカホカと、トマトスープが湯気をたてるなか。


 ──なんで受けないと思ったんですか?

 ──なんで受けられないと思ったんだ?


 ん?

 ん?


「いや、普通受けないだろう? ……手ひどく自分を追い出した元パーティの捜索・救助なんて──」


 あー……。

 そういうことか。


「まぁ……普通かどうかは知りませんけど。──確かに思うところがなくはないです」


 けど、


「──でも、ジェイク達が困っているみたいだし……なにより、あれでも昔馴染みなんです」


 そうだ。

 同郷で幼馴染。


 リスティに至っては家族だ。


 ……例え、おいえはもうなくとも、だ。


「?? そういうものか? ……冒険者で同郷のパーティと言うのは珍しくない。そして、そいつ等でも、一度こじれると普通は元の鞘とはならん」


 ──むしろ、足を引っ張り合う。

 酷い時は殺しもな……。


 そうギルドマスターは言った。


「こ、殺すだなんて……。確かにジェイクは直情的で女癖も悪いし、口が汚いけど……」


 あ、俺も大概言ってるな。

 ……不満がないと言えば嘘になるからね。


「それでも、あいつは常に先頭で戦い、リーダーとして弱きを見せない精悍な男です」

「ふむ……確かに彼はSランクの冒険者だ。皆そうあるべきだな」


 ジェイクだけじゃない。


「リスティも──す、すこし軽率なところはあるけど、明るくて、気配りができて、決しておごらず、自分を一歩引いて見れる賢い子なんです」

 股が緩すぎる気がするけど──。

 ……まぁ、人の色恋に口出すのは無粋と言うもの。

「ふむ、高位の聖職者系統としてはトップクラスの実力者ではあるな」


 そして、リズ。


「リズは無口で一見何を考えているか分からないけど──。素直でひたむきで、強く美しく……とても優しい子なんです」


 あまり彼女と会話らしい会話はしたことがないけれど、


 ……ダンジョン捜索や、冒険の最中では虐げられるビィトに立場が近いのか、さり気なくフォローをしてくれたことをビィトは知っている。


 見張り中に眠り込んでしまったときは、黙って彼女が見張りをしてくれていた。


 食事の準備に追われているときは、彼女が食材の切り込みを手伝ってくれた。


 寒い地域での捜索で、火から離れた位置での歩哨を命じられたビィトが、ひとり震えているとき……寄り添うジェイクとリスティを尻目に、リズが背中合わせに寝てくれた。


 実は甘いものが好きで、たま~に手に入った砂糖や果物なんかでちょっとした軽食やおやつを作ると、あまり表情には出さないけど喜んで食べていたことを知っている。


 既に、彼女の一族は奴隷身分から解放されているというのに、彼女は自らの意思でジェイクに付き従い、陰に日向に彼に尽くしていることを知っている。


 リズの暗殺者としての腕前は一族で最高峰と謳われるほどの物であっても、彼女は鍛錬を欠かさず自らを鍛え続けていることを知っている。


 ビィトはリズをよく知らないけれども──……少しは知っている。


「リズか…………。恐ろしい娘だよ。彼女は、ね」


 ??


 俺は、『豹の槍パンターランツァ』のことなら何でも知っている……。

 知っているさ。なんでも、な。


「俺は、ロクでもない人間で役立たずです。それでも、彼らはSランクに到達するまで……いえ、到達しても、この街で最高の冒険者パーティになっても、俺を仲間として扱ってくれました」


 それがかなり不当なものであったとしても──だ。


「そうか……そういうことか──」


 ジッとビィトを見つめるギルドマスター。その目が何を訴えようとしているのは分からないものの、ビィトは目をそらさず、見返した。


「お前は良い奴だな……。わかった、邪推して済まなかったな。……ビィト・フォルグ、そしてエミリィ・ピルビム。君たちに依頼を出したい」


 ようやく……。


「──Sランクパーティ「豹の槍パンターランツァ」の捜索・救助または、その支援を頼む」

 ここで、ギルドマスターが頭を下げた。


 それを見てビィトは慌てる。


「ちょ、ちょっと頭を上げてください! そんな、……俺にとっては渡りに船なんです!」


 そうだ。

 ジェイク達を捜索することはビィトにとって決定事項。

 あとはその手段だけだったのだ。


 だが、ギルド側から指名依頼を受けたとなると──。


「いや、受けてくれるとは思えなくてな。……普通は、追放されたパーティなんて、滅びちまえってのが人情ってもんだ。だが、お前は違う────それだけで私は驚いているんだよ」


 フと、相好を崩すギルドマスター。


「ありがたいことさ。……では、正式依頼として出す。……ビィトでは後々問題になるからな。悪いがエミリィ。君の名前で契約するがいいかな?」


 そうだ。

 どうあっても現状でビィトの免許は仮免許。再発行するまではただの冒険者見習いだ。


 一方でエミリィはC級とは言え、れっきとした冒険者。ギルドと契約を結ぶことに何ら支障はない。


「──これでよし、あとでサインをくれ。パーティ名はどうする?」


 あー……そう言えばまだ決めてなかった。


「追々でもいいんですか?」

「悪くはないが……書類作成上記入しなきゃならん。そうでないと報酬支払時に揉めることがあるからな」


 なるほど。


「まだ決めかねているなら、暫定的に私が入れておくぞ?」

「あ、あぁ任せます──エミリィもいい?」


 エミリィはコクリと頷く。


「んむ。これで──────よし、と」


 インクを乾かすために、引き出しから乾いた砂を握ると、紙の上でパラパラと落とした。

 そして、余分なインクを砂に吸わせるとフゥー……と息を吐いて捨てる。


「どうだ? 確認しろ」

 緒契約事項……。


 そして、

 パーティー名。






 ────ビィト&エミリィ。



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