第2章「なんて言うか、助けにいこうと思う」
第1話「なんて言うか、離れていても仲間は仲間──」
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─── 本編です ───
ぜいぜいと息を切らせて飛び込んできた兵士。
第一声のあとは膝に手をつき、今にも倒れそうだ。
よほど急いできたのが分かるが……。
「お、落ち着いてください」
コップに水をいれ、兵士に差し出すテリス。
礼を言う気力もないのか、受け取ったコップを一息であけると、
「プフゥ! ……レアアイテム『虫の知らせ』が反応した!」
レアアイテム『虫の知らせ』。
ダンジョン深部に生息する虫型モンスターが稀に落とす使い捨てアイテムのことだ。
トンボのような虫が結晶化したもので、首と羽を別にして使用する。
一般的には虫の首を連絡したい場所に設置し、残った体の方の羽をむしる等して使用する。すると、ダンジョンに限らずどこであっても、頭が光って──その色や強さで、使用者までの距離や場所、さらには緊急度などが分かる一品だ。
ダンジョン『地獄の釜』では一般的に緊急事態を知らせるために使用している。
その内で反応があったのは、ジェイクたちがダンジョンに潜る前にダンジョン管理施設に設置していったものらしい。
とはいえ、それも随分昔のことだ。
ビィトがまだ「
それが今、まさに反応したという……。
「ど、どういうことだ……」
フラリと近づいたビィトに怪訝な顔をする兵士は、
「あ……お前────たしか「
この街では有名に過ぎるSランクパーティ。
人と冒険者に溢れていようとも、覚えられている顔も当然あるのだ。
その中でも、ダンジョン深部トライに最も成功している「
言ってみれば、この街一の冒険者と言っても過言ではないだろう。
……その評判に陰りが出てきても──だ。
とは言え、中でも地味でイマイチ活躍の目立たなかったビィトを知るものは以外と少ない。なんせ、端からみれば、お零れの栄光状態だった。
ゆえに、知る人ぞ知るSランク要員だが……この兵士は知っていたらしい。いや、そんなことよりも、
「な、なにがあったんだ? り……リスティは!? リズに、ジェイクは!?」
突然掴みかかったビィトに兵士は汗を撒き散らしながらガックンガックンと揺さぶられる。
「ちょ、やめ! うげぇぇぇぇ……」
オロロロロロロロロロロロロロ──。
全力疾走でギルドに危機を伝えに来た兵士はついに限界を迎える。
ひぃぃぃ!
うわぁぁぁ!
ぎゃああ!
そこかしこで悲鳴があがるもビィトは気にしない。
「いいから早く話せ!!」
ちょ、やめ……。
オロロロロロロロロロロロロロロ……。
「ええ加減にせい!!」
スパーンとビィトの頭を叩いて止めさせたのはテリス。
いい音がしてようやくビィトも惨状に気付く。
「あたた……。す、すいません」
「気持ちは分からなくもないけどねー……まったく、エミリィさんも気を付けなさいよ。こういう男はすぐ視野狭窄になるんだから──って臭ッ!」
周囲に漂うゲロ臭。
ビィトも下半身が兵士の吐いたそれでドロドロだ。
「お、お兄ちゃん……お、落ち着こ?」
──ね?
そう言ってエミリィに見上げられるとビィトもグウの音も出なくなる。
「わ、わかったよ……」
うん、わかればよろしい、とか言って何故かテリスが胸を張る。……おぉ、おっきい。
「どこ見てんのよ? ──さて、マスターが奥で待ってるわ。報告して頂戴」
「は、はい! さほど情報はありませんが……」
語尾を濁しながら、兵士は周囲を取り囲む冒険者の視線に居心地が悪そうだ。
「──ま、まってくれ! 俺も!!」
テリスに案内されて奥へと消えていく兵士に、ビィトは思わず話しかけた。しかし、
「……なんで仮免許をギルドマスターへの報告の場に呼ばなきゃならないのよ?」
ジロリと睨み返すテリスの目は酷く冷たかった。
「い、いや……そ、そりゃ。そうだけど……」
思わず納得しかけるビィトだが、
「だ、だけど! ジェイクもリスティも……リズも仲間なんだ!」
「──元、でしょ。向こうはアンタのことなんか塵程も気にしてなかったわよ」
ぐ!
「そ、それは……でも、そんなことは関係ない!!」
「あるわよ。……もういいかしら? 繰り言に付き合ってる暇はないの」
そうだ。
それほどにSランクパーティの欠落は痛い。
彼らが持ち帰る、ダンジョン深部からの素材に情報は街の財源を担っていると言ってもいい。
地上では手に入らない類の素材はもとより、ダンジョン産のアイテムなどの貴重なお宝などは、それを求めて商人が集まるほどのダンジョン都市の要とも言えるもの。
そしてそれらを持ち帰る冒険者は貴重な存在で──最深部に近づきつつある「
未だに「
そのパーティが欠けようとしているのだ。
なんとしてでも救出したいと思うのも道理だろう。
なにより、彼らの持ちかえる情報が貴重で、後に続くパーティの生命線でもあるのだ。
「
彼らが持ち帰った情報を元にダンジョン内の地図を作ったり、安全地帯や封印扉を取り付けたりしている。
言ってみれば、「
そのパーティが緊急事態を知らせてきたという。
本来ならビィトもその貴重な情報源であるはずなのだが……。
目立った活躍のないビィトはギルド内でも冷遇されていた。
実際にビィトがどれほど活躍していたかは別にして、……ギルドも実績主義だ。
結局、数がものをいう社会なので、誰がどれほど魔物を倒したか──あるいは罠を突破し、傷を癒したか……そういった数に尽きる。
洗濯したり、飯を作ったり、荷物を山ほど運んだりなどは実績になるはずがない。
また、いくら雑魚の死体を積み上げても……ボス一体分には程遠いのだ。
そういった意味ではビィトの実力など、分不相応な位置にいると思われていたのだろう。
バターンと閉ざされてしまったギルド奥の扉をジッと見つけるしかできない。
そのことに不甲斐なさを感じつつも、どこか諦めたような心境のビィト。
「お兄ちゃん?」
「……弱いって、こんなにも悔しい事なんだな」
目に涙を浮かべたビィトはキツク手を握りしめていた。
あれほど、心無い対応をされてパーティを追い出されたとはいえ、ビィト自身は「
もちろん腹立たしいことも、ムカつくこともあった……だけど、
少なくとも、ここまでビィトがこれたのは間違いなく彼らのお陰なのだ。
下級魔法しか使えないビィトをSランクにまで押し上げてくれた「
恩も義理もあると思っている。
ビィト!
兄さん!
ビィト様……。
三人が三人とも、昔のようにビィトを呼んでくれている気がした。
助けを求めている気がした。
もちろん気のせいだとは分かっているけど!!
「……待っててくれ! 絶対助けに行くから」
「お兄ちゃん……」
かつてのパーティに思いを馳せるビィトにエミリィが少し寂しげな顔をしていたことにビィトは気付いていなかった。
─── あとがき ───
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