第73話「なんかまた会いました」
ビィトは駆けていた。
下級魔法の身体強化すら使って、足を強化し肺も強化し、駆けていた。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!!」
ダンジョン内での連戦に次ぐ連戦。
回復魔法を使っているので身体的には異常などないのだが、地上に出たことで安心感がでたのか、全身を襲う倦怠感に苛まれていた。
「お兄……ちゃん?」
「エミリィおきた!?」
「えっと……?」と、そう言った表情でビィトに抱きしめられながらあたりをキョロキョロするエミリィ。
「ここって、」
「外だ。帰還の転移魔法陣で外に出た──今はギルドに向かっている」
簡潔に事情を説明する。
エミリィならわかってくれると思うが……、無理かな?
それよりも、今は寸時も惜しい。
「ベンさんは?」
「無事だ。まだ魔法陣のある場所で寝ている。あー……地上には一緒に出てるよ」
?? と意味が分からないらしいエミリィ。
……この子は
なぜビィトがベンを置いてギルドに向かっているのか、事情が分からないのだろう。
いや、要領が悪いというより純粋過ぎるのだろう。
この辺の純粋さを、ベンはうまく利用していたのかもしれないが……。
「ベンにドロップ品を撒き上がられる前に換金する────多分、」
「えっと……?」
そうだ、これだけの品があれば十分足りる。
ビィトの身柄を買い戻し、路銀すら稼げるだろう。
「──エミリィ。自由になれるんだよ」
「ッ!」
その言葉に目を見開くエミリィ。
「もう……寝る場所も、食べるものも────どこへいくのも自由になれるんだ」
「ほ、ほんと……?」
エミリィは期待に満ちた眼差しでビィトを見ている。いるが……──その奥には不安も見える。
「うん──大丈夫。任せて」
そう言い切ると、ビィトは冒険者ギルドに飛び込んだ。
スイングドアを体全体で追い開けると勢い良く飛び込む。
外へ出ようとしていた冒険者の一団がビィトの勢いに驚いて尻もちをついている。やにわに抗議を始めたが完全に無視して、ビィトはズンズンと窓口へ行く。
そこにいた受付嬢に────。
…………。
あ、こいつ。
あの嫌味受付嬢の──、
「あら、エミリィじゃない? ……っと、ロリコン貧乏さん」
誰がロリコン貧乏だ!
『器用』抜いたらダメだろうが!
器用貧乏だよ、器用貧乏!!
ロリコン貧乏とか救いが無さすぎるわッ!
って、器用貧乏とか、そういわれるのもなんか嫌だけども──。
「て、テリスさん……も、戻りました」
「あらあら、無事でよかったわ。……エミリィさんはなんだかんだで生還してくれるから安心ね」
ニッコリとエミリィに微笑むテリス。
ビィトはかる~く無視だ。
……なんで俺こんなに嫌われてるの?
「お兄ちゃん……その、」
あ!
「ご、ゴメン」
エミリィを降ろしてやるとモジモジとしてテリスとビィトを交互に見る。
「────で、なにか用? ベンはどうしたの?」
胡乱な目つきでビィトを見上げる受付嬢。
だが、態度如きに屈してはいられない。
「ベンは後からくる。……ドロップ品を巻き上げられては叶わないからな。奴隷の分──先に換金してくれ」
こういう時はちゃんと事情を言った方がいい。
くさっても公的窓口だ。
ベンの悪事を助長することはないだろう。
「────あー、なるほどね。いいわ。(ベン嫌いだし)」ボソッ。
「話が早くて助かるよ」
ホッと胸をなでおろすと、荷物を降ろし開梱していく。
なんだかんだ言ってベンが主張したドロップ品はビィトが懸念したほど多くない。
回収させられたゴブリンのドロップや、ゴールデンスライムのそれは仕方ないにしても、
グールシューターの巣で見つけた装備品のうちお金や貴金属、遺骨、ゴブリンキングやゴールデンスライムからドロップしたものはそのままビィトの持ち物になった。
グールシューターの巣で見つけた冒険者の財布から集めたお金は総勢、金貨3枚、銀貨70枚、銅貨28枚だ。これはベンに見つからずに荷物の中から上手く取り出すことができた。
まずは、そのままの儲けになる。
ここに、冒険者の持ち物らしきものをいくつか。
グールシューターの巣で拾い、隠し持っていたものだ。
それに加えて、ベンに奪われなかった高価そうなネックレスに、装飾の綺麗な剣。あとは荷物に紛れ込ませた宝石やら指輪、マジックアイテムの類だ。
「これは……また──」
少し驚いた様子のテリスは、後ろを振り返ると、
「増員をお願いッ。鑑定員呼んで頂戴」
ほどなくして年配の鑑定員が現れると片眼鏡をはめて冒険者の持ち物なんかを鑑定し始める。
それを尻目に、ビィトの取り分をドンドン置いていく。
ゴブリンキングの部屋で見つけた、ボロボロの装備に、固着した硬貨。これらは引き取ってもらえるかわからないけど、ないよりはましだろう。
あとは、とっておきのドロップ品。
ゴブリンキングからドロップした、
──謎骨の指輪×1
ゴールデンスライムからドロップした、
──ねっとりした黄金のネックレス×1
だ。
その品には、テリスも目を剥いていたが……珍しいものなのだろうか。
まとめて鑑定員に渡している。
しばらく時間がかかりそうだが、ここまで手続きを終えればベンに奪われることはないだろう。
身柄を買い戻す金になるかはまだ分からないが……。やれることはやった。
金貨10枚の身。
銀貨換算で1000枚だ。かなり高額だと分かる。
どうか足りてくれよ……。
「これで全部?」
「あぁ、あとはベンの物ってことになってる…………あッ」
そうだ。大事なものを忘れていた。
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