◆豹の槍5◆「なんでこんな大変なんだ!」




 「豹の槍パンターランツァ」の活躍に翳りが見え始めている、そんな噂が広がりつつあった……。


 だがそれでも止まらない──。


 現状で、地獄の釜の最深部へ到達する可能性の高いのはやはりSランクパーティの「豹の槍パンターランツァ」なのは、事実だからだ。


 ギルド側でも、彼らの援護要員を積極的に斡旋し、レベルの高いメンバーを紹介していったが、やはりジェイク達と相性の良い人員と言うのは中々難しい。


 ジェイクの求める人材が戦えるポーターなのだからなおのことだ。

 誰が好き好んで大荷物を担いで、ついていくだけ・・・・・・・のメンバーになりたがるものか。


 しかも、Sランクパーティに参入するのだから、そんじょそこらの新人や中堅どころというわけにもいかない。


 ベテラン勢になるとそもそもパーティを組んでいるし、

 ソロの人間に至ってはベテランになるまでソロを貫いているのだ。

 一癖も二癖もあるし、そもそもパーティを組みたがらない。


 難しい人選の中、ジェイク達は対価を支払うことで支援要員専用のパーティを募ることにした。

 クエストという形にしてパーティを募集したのだ。


 今、「豹の槍パンターランツァ」にあるお金を全て輩出しかねない報酬額であったが、先のポーター達が全滅したことにより後金が浮いていた。

 それを報酬にまわしたので、何とかもう一度ダンジョンに挑戦できるくらいの資金があった。


 今度はダンジョンからでるドロップも回収するため、同行するパーティには気を配ったつもりだが…………、


 ──後々それが大失敗であったとジェイクは気付く。


 もっとも、気付いた時にはすでに手遅れであったが……。


 そもそも、ジェイクの様な激しい性格の男が他のパーティと協力関係を築きつつ最深部を目指せるはずなどないのだが────、


 ……それはまだ彼の知らぬところ。


 なんとか、選定のすえ、Aランクの実力者ぞろいのパーティを選定した「豹の槍パンターランツァ」。


 彼らは山の様な荷物と新しい編成で再び挑む。


 それは──ちょうど、その時期と前後して、ビィト達は嘆きの谷にトライし、踏破せんとしていた頃であった。


 ※ ※


 さて、「豹の槍パンターランツァ」であるが、


 幾つかある近道のうち、かなり危険な魔物が生息し罠も多い地点を駆け抜けていた。


 『地獄の釜』というダンジョンは、帰りの魔法陣こそあれ、ショートカットしてくれる魔法陣はない。


 先のポーター全滅時には近くにある『嘆きの谷』のような脇道的なダンジョンを使って一気に帰還した。

 そして、今はこの近道を駆け抜けている。

 魔法陣はないが、近道はいくつか存在していた。──とは言え、そういうところは大抵危険に満ちている。


 ポーターだけの編成時にはとても危なくて使えなかったが、さすがはAランクパーティだ。

 やや遅れ気味ではあるが、しっかりとジェイク達に追従している。


 このルートで行けば先の全滅地点よりも先へ出る。つまり、……かなりショートカットできるということ。


 場合によっては何ヶ月も籠ることになるダンジョンだが、一度攻略した場所であれば早い早い。


 ダンジョン攻略で一番時間がかかるのは、やはり未踏破地区の捜索だろう。


 なにせ地図もなければ知見もないのだ。

 全てが手探り。


 敵の種類も分からないし、安全地帯の存在もわからない。

 見たこともない罠もあれば危険な魔物も出没する。


 それはそれは神経を使うのだ。


「リズ! 速度を緩めろ──連中、遅れ始めている」

「はい」


 襲い掛かってきたガイコツ型の猪を華麗な蹴りで吹き飛ばすと、ソレをブレーキにしてリズは速度を緩める。


「ジェイク……大丈夫なのアイツら?」


 危なげない足取りでジェイクにピッタリと追従していたリスティが、後ろを見る。

 

 Aランクだというそのパーティは山の様な荷物に苦しみ、息も絶え絶えになっている。

 いるが……、なんとか追従している。


 ガタイのいい男だらけだったのだが、さすがに大荷物の上、高速で駆け抜けるのは厳しいようだ。


 一応先導は「豹の槍パンターランツァ」がこなしており、罠にもしっかりとマーカーを設置しているので、脇からの不意打ちさえ気を付ければいいだけだ。


 担いで走るだけの、実に簡単なお仕事です。


「さぁな。……荷物が持てて、自衛ができれば誰でもいい。──高い金払ってるんだ、その分仕事はしてもらう」

「だけどさー……気持ち悪いんだよね。あいつらの目。──私とかリズのことジロジロみてるし……」

「自分を……ですか?」


 リズが意味が分からないと言った様子で自分の体に手を当てる。

 たしかに、豊満というほどではないが、というかほとんど少年か!? といった体形だが……。


 ──リズは美しい。


 切れ長のまつ毛に赤い瞳。やや褐色の肌は艶やかで張りがある。髪は白銀でそれらを合わせて見れば──なるほど、女性というよりも中性的な美しさを感じる。


「アンタ元は良いんだから自覚しなさいよー」

「はぁ……?」


 何のことかわからないといった様子だが、


「くだらないことを言ってる暇があったら警戒でもしてろッ」


 ジェイクに言われてすぐに動き出すリズ。

 前方から迫る魔物を牽制し、罠に次々にマーカーを落としていく。


「ジェイクぅぅ……アンタをちょっとはリズに気ぃ使ってやればぁ?」

「何言ってんだ。ありゃ生粋の暗殺者だぞ──そもそもそんなことに意識なんざ向いてないさ」

「でもね~……こう言っちゃなんだけど、リズはもうその手の御家とは縁が無いんでしょ?」


「知るかッ! ……確かに、俺の家は傾いて、奴の一族とも、本来は関係がなくなってしまった──」


 リズはジェイクの家に代々使える暗殺者の一家だ。


 だが、ジェイクの家が没落して以来、もう主従の関係は霧散していた。支払うべき対価がないのだろう仕方がないだろう。


 しかし、それでもリズの一族はジェイクの家に未だに従っている。

 もちろん金銭的な関係はすでにない。精神的な繋がりだけで彼女ら一族はジェイク達に付き従っているのだ。


 元々は奴隷階級。

 今は没落時に、その身分を開放することを条件に彼女ら自身から金を受け取ってすらいる。


 既に自由の身になっているのだ。リズとその一族は──。


「どうでもいい事さ。俺は俺に従う奴が好きだ──リスティ、分かってるだろうな?」

「え……えぇ。ついていくわ、どこまでも──」


 どちらも元貴族。

 お家再興と名誉のためにダンジョン攻略を目指す。

 『冒険者の頂点』は、ジェイクにとってはただの通過点に過ぎない。


 そこにリズの気持ちが介在する余地等どこにあるというのか……。


 適当に魔物をあしらって、駄弁っているうちにAランクパーティが追い付いてきた。


「ほら、連中が来たぞ。ここを抜けたら回復してやってくれ」

「はーい」

 

 彼らはまた前を向いて走って行く。

 まだ見ぬ最深部へと────。


 だが、この時のジェイクはまだ気付いていない。


 ジェイクにとっての通過点である『冒険者の頂点』は、その他の冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しいもので……。

 彼ら「豹の槍パンターランツァ」が現状握っている、最深部へいたる途上の道は栄光への近道でもあるのだ。


 それをジェイクは知らない。

 そして、蔑ろにしている。


 それがどういうことか──。


 ダンジョン捜索の生命線とでもいうべき物資の大半は、組んだばかりのAランクパーティが全て握っているという状況にジェイクはまだ何の危機感も持っていなかった。


 背後から追いすがるAランクパーティのギラギラした目つきが、リズやリスティに向いていることも、





 ジェイクにはどうでもいいこと・・・・・・・・として処理しているがために……。

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