◆豹の槍4◆「なんで失敗する!」
「ほら行くぞ! って、おい────」
仲間があっさり見捨てられ、さらには引き返す素振りの無いジェイク達を見てポーター達は限界を迎えたようだ。
「いいいいいい、いい加減にしろよ!」
「もう付き合ってらんねぇ!」
「ちゃんと護衛するって契約だろぉ!」
「いやだ! 死にたくねぇよ!」
最初に一人のポーターが走り出した。
最後尾にいたリスティを払いのけ、荷物を投げ捨てて一目散に。
それが呼び水となってポーター達は次々に逃げていく。
「おい! よせッ!」
ジェイクが慌てて呼び止めるも、もう遅い。
勢いよく走っていくがその姿は非常に危うい。
そこかしこにある罠の存在さえ彼らは忘れているようだ──そして、
「ぎゃああ!」
一人が勢いよく罠を踏み抜き、凶悪な大きさの虎バサミに足首を挟まれている。
その直後に横合いから襲ってきたガーゴイルに体を食いちぎられ、ズタズタにされた。
あとには、中身入りの靴だけがその場に残るのみ……。
残りのポーター達もそれで引き返してくればいいものを、今はもうここから逃げることしか頭にないようだ。
だが逃げられるものか。魔物は虎視眈々と機会を狙っているのだ。
くそ! せめて荷物は置いていけよ!
最初の一人は荷物を放棄したが、残りは荷物ごと逃げやがった。
「リズ!」
「はい」
リズを救出に向かわせるも……間に合わないだろうな。
風の如くリズが走り抜けるも、その間に寄ってたかって魔物たちはポーター達をズタズタに食い千切ってしまった。
リズが参戦し、あっという間に蹴散らしてしまったが……。
彼女が遠目にも分かるように大きく首を振っていた。
……全滅したらしい。
「くそぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
今回の遠征も大失敗だ。
ポーターの死はどうでもいいが、支出がキツイ!
「物資もタダじゃねぇんだぞ!!」
残った荷物だけでは深層到達など不可能なのは火を見るよりも明らかだった。
最初に逃げた奴が捨てていった残った荷物を拾いあげると、乱暴にリズに押し付ける。
あとは知らんとばかりに、とジェイクはあっさりと引き上げる決心をした。
「帰るぞ! もう一度再編成する」
「はい」
「ちょ、ちょっと~……全然進めてないじゃない!?」
リズは従順だが、リスティは不満らしい。
キーキーとジェイクを責め立てるが、苛立った彼にはそれは逆効果だろう。
ブルブルと手が震えているのをみて、リズはさり気なく半歩下がる。
それでもなお、リスティはキーキー! と──。
プッツン。
──う、
「うるっせぇぇんだよ! クソアマぁぁああ!!」
「ッッ!」
「黙って聞いてりゃピースカ、キースカ言いやがって! テメェがしっかり護衛しないからあのカスどもが死んだんだろうが!」
リスティの胸倉をつかんで憤怒の表情。
だが、それで黙っているほどリスティも弱くはない。これでもSランクなのだから。
「なによ! アンタが兄さんをクビにしたからこんなことになってるんでしょ!? どうせ、プライドが邪魔して謝れないんでしょ!」
「はぁ!? テメェの兄貴なんざ今は関係ないだろうが!? あのカス一人いたところで何が変わるってんだよ!」
「少なくとも、ゴミみたいなポーター10人よりマシよ! シャワーだって洗濯だって皆やってくれたんだから!」
「そんなもん、一々知るかッ! 器用貧乏は所詮ただの小器用なだけのお荷物だってのは分かってんだろうが!」
ののしり合いも平行線。
リズは全く加わらずに、周辺を警戒するのみ。魔物の気配はあるも、こちらが攻撃圏内に入らない限り襲ってはこないだろう。
……それにしても、大騒ぎし過ぎだが──。
いつまでも止まぬ口喧嘩に、リズはそっと胸に手をあてる。
彼女が知っている状況なら、こうはなっていない。
あの人がいれば……。
「ビィト様……」
リズはポツリと零す。
こういった場面であっても自分が責められることで場をうまくおさめていた──あの青年のことを思い出す。
いや、彼女はずっと思っている。
それは仲間や主従とはまた違う──……。
※ ※
この日「
しかし、同行者10名のポーターは行方不明。
間違いなく死んだ者が8名で、消えたものが2名と報告された。
それらは悪評となり「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます