第64話「なんか黄金の池につきました」
狭い
ベンたっての希望で緩やかな単縦陣だ。
エミリィ、ビィト、ベンの順。
もっとも、エミリィとビィトは肩が触れんばかりの距離を寄り添って歩く。
チラチラとベンの様子を伺うエミリィ。
…………だから、触れてやるなって──。
「(エミリィ……、そっとしといてやりなよ)」
ベンを心配しているらしいエミリィにコソッと耳打ち。
「(う、うん。わかった……ベンさん大丈夫かな?)」
ちょっと心配顔のエミリィに、ビィトをして若干の苛立ちを感じる。
酷い目に合いつつも、エミリィが心配している事実に、だ。
──なんだかんだ言って付き合いも長いのだろう。
チラッと聞いた話では、ベンの扱いが奴隷生活の中ではマシな部類だったというのだから……。
多少なりとも信頼されているベンにも嫉妬のような感情すらある。
(くそ……何を考えているんだ、俺は──)
「なにをくっちゃべってやがる!」
さっさと行けッ!
そう言ってベンは急かしてくるが……ぶっちゃけベンの歩みにあわせているのだ。文句を言われる筋合いはない。
ベンがキングのナニでアレされるより以前の歩速でいけば、あっという間にベンを置いてきぼりにしてしまう。
「だったら、もう少し速く歩けって……」
「ぐ、むぅ────た、体調が悪いんだッ! 黙って仕事しろぉぉ!!」
体調って……ケツの具合だろうが。
まぁいいや。ほっとこう。
ちくしょう……ちくしょう──と、うしろでブツブツとベンが呟いているが完全に無視してビィトとエミリィは先を進む。
最初警戒していたものの、この道にはトラップの類は一切なかった。
もちろん、それで即座に警戒を解くことはないものの、エミリィ曰くトラップの気配はないという。
ちょっとした地形の違和感や匂い、音などでなんとなくわかるんだそうだ。
それによればこの道は安全────。
おそらく罠を仕掛けるゴブリンがここに入り込まないのだろう。
縄張り意識なのだろうか?
「あ、お兄ちゃん! 見て──」
キュッと服を掴まれて前方を指さすエミリィ。
見通したビィトには何も見えなかったが、優れた感覚を持つエミリィには何か見えているらしい。
エミリィの声色が、危険を察知したという
──なんだろう?
と、疑問に思う間もなく歩を進めるビィトにもそれが見えてきた。
「明るい──……」
「綺麗ぇ──……」
「いてぇ──……」
…………。
うん。
さて、ビィトの目に飛び込んできたのは、谷の最奥でちょっとした洞窟状になっているもの。
その中だ。
そこからコンコンと湧き出る水は、この谷を流れる川──その本流のそれなのだろう。
小さな流れではあるが、真っすぐと流れて側溝を通りビィト達の背後へ流れていく。
それは鬼の巣の伏流と合流して谷の入り口付近まで流れていく。
きっとアリゲーターフィッシュがいた川につながっているのだろう。
脇にある側溝状に流れる小さな水流をよくよく見れば、キラキラと輝くものが見える。
砂金だろうか?
明らかに光の反射でない輝きがそこにあった。
もっとも、拾い集める気にはならない。
粒も小さいし、そんなことに時間をかける余裕もない。
あのベンですらスルーだ。
よくわからないけど、量が少なすぎてさほど価値がないのかもしれない。
「先に進もう」
「うん!」
今のところ危険はないが、少なくとも黄金の池にはゴールデンスライムがいることが分かっている。
ギルドの魔道具による監視によって観測しているらしいので、それは間違いない。
事前情報では、さほど強力な魔物ではないといわれているので、危険は少ないだろうが……油断しないに越したことはなかった。
そして、ついにたどり着いた黄金の池────。
「ふわぁぁぁぁぁ……」
エミリィが目を輝かせている。
キラキラと輝く池。
水は透き通っており、底まで見えた。結構浅い……。
水深は深い所でも5mくらいだろうか?
池の底がびっしりと黄金に輝いている。
「お、おぉぉ──すげぇぜ」
ベンも少し調子を取り戻してきたのか、ビィト達の脇からヒョコっと池を覗き込む。
そこに移った、エミリィの可愛らしい容姿と、ビィト自身の見慣れた顔────そして、ブフッ!!
禿デブ親父の南国踊り子風────……!
「ぐ……な、なんて格好だよッ!」
畜生と叫んでベンが半泣きで後ろに下がる。
ん?
ここは、黄金の池がある谷の最奥部で、池そのものはちょっとした洞窟になっているここにあった。
谷の最奥は真っ直ぐに切り立った崖になっており、この洞窟以外に分岐はない。
洞窟内部はドーム状になっており、ど真ん中にデ~ンと光が輝く池がある。
その周囲を覆うように、か細い通路のような道があるだけだ。
そして、今ビィト達はその中にいるわけだが──。
件のゴールデンスライムはどこに………………?
ッ!
「ベン!? うしろだ!」
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