第61話「なんか、ブッさしました」

 ──エミリィに触るなぁぁ!!


 エミリィに迫る凶刃を見るに、一瞬で体中の血が沸騰したように信じた。


 あとは、もう──。

 何も考えずに反射的に魔法を発射!


 無意識に放っていたのは、

 ───石礫!


 一瞬で生み出された石礫の弾丸を射出!


 高速で飛び込んだそれは、ゴブリンキングの無防備な脇腹に突き刺さった。

 

 案外簡単に命中するもので、

 貫通こそしないものの、腹部には大ダメージだろう。


 ゴブリンキングが、トトトン……と横にたたらを踏み、ガクリと膝をつく。


 口からはタラーっと血が一筋。


 あれ?

 なんだ? いけるの────ぐッ!


 ビィトが初弾の命中にあっけにとられて油断していたら、ドンッ! とゴブリンキングが横っ飛びに急接近。


 身体から血を噴き出しながらも、勢いは衰えない!


「ぐおッ!」


 思わぬ動きにビィトの体が硬直する。

 ゴブリンのタフさを失念していたようだ。


 一気に欲望の対象から、

 敵認定されたビィトは、一瞬で間合いを詰められてしまい、あのダンビラに貫かれんとする。


「ッッ!」


 身体を逸らしてなんとか、初撃を躱すがゴブリンキングは跳躍から着地、その勢いで更にもう一撃。


 今度は近い!


 ────躱せないッ!


「お兄ちゃん!」

 ドンと、体が吹っ飛ばされる感覚。


 見ればエミリィがベンを抱えたままビィトを突き飛ばしていた。

 そのままゴロゴロと転がりゴブリンキングの攻撃圏外から逃れるも、かわりにエミリィとベンが!


 ガシャ~ン! と部屋の隅の白骨の中に突っ込むビィトは、思わず目をつぶる。


 二度までも逃げられたことに激高し、代わりにその怒りをエミリィにぶつけようというのだ。


 振り上げたダンビラがエミリィに迫る。


 ま、間に合わない────。 


 魔法は一瞬で練り上げることができる。

 そして、発射も容易だ。




 だが、その一瞬がない────────。




「エ」


 ミ


 リ


 ィ


 



 彼女が、し──。



 ──────。



「うしろからぁぁぁ……」


 ここで意外な人物の声が、妙にハッキリも聞こえた。

 一秒を何万分の一にも細分化したようなスローモーションの、ような時の中で────。


 その声は確かに、ハッキリと……。


 は?

 え?


 ベ……。


 ベン?


 うしろって…………え、け、ケ──!?




「──やられる気分を味わえやッ、ごらぁぁっぁぁ!」




 完全にノーマークだったベン。

 エミリィに支えられていたものの、ビィトを突き飛ばした拍子に地面に伏せっていた。


 ゴブリンキングも無力と判断して無防備な背中を見せていたが────。


 まさかここで、──ベン。


 まさかの、──ベン!


 地面に落ちていた大腿骨を拾うと、起き上がりざまに──────ゴブリンキングの〇〇〇〇にブッス~~~ン! と突き刺した。


 エミリィの頭をカチ割らんとしていたダンビラが、ゴブリンキングの動きに合わせてビョ~ンとスッとんでいく。

 ゴブリンキングは背後を押さえて、まるで電気が奔ったかのように体を逸らせると────。



《阿゛亜ーーーーーーーーーーーッッ!!!》



 そのまま、2メートルくらいジャンプ。

 白い尻尾大腿骨をはやしたような状態で天井にゴツンッ!


 そのまま落下し、尻もちををついて──────また深く刺さる。



《はぁ覇ァァ亜゛ア゛ーーーーーーーーーーン♡》


 

 そのまま、白い尻尾大腿骨は消えた……。

 ……深淵の黒い穴へと──。


 ズシーン……。


 ブクブクと泡を吹いて倒れるゴブリンキング。

 ちょっと顔が満足そうなのが微妙にイラっとくる。


 だが……まさかの勝利。


「ぐ、ぐひひひ……な、舐めやがって──……」

 フラフラのベン。足がガクガクで相当、腰にダメージがあるらしい。


「──────だ、大丈夫かベン!」


 ビィトもなんとか起き上がり、放心状態のエミリィを背後に庇いつつベンに手を差し出す。


「う、うううううるせぇ! テメェらおせぇぞ!」


 うしろのあたりを隠しつつベンは唸る。


「今日のこと誰かに喋ったら、ぶっ殺すからな! いいな、これは命令だ!」


 はっきりと命令と口にしたことで、呪印が作動したらしく鈍痛と軽い熱をビィトに伝えてきた。


 なるほど……明確な命令とはこうなるのか。


「あぁ、しゃべらないよ……(しゃべれるかよ! 誰得なんだ、こんな話題が!)」


 ベンがゴブリンキングに○られました────。

 うん、酒がまずくなる。


「くそう……くそぅ……!」

 ベンはさめざめと泣き、拳を地面にバンバンと叩きつけている。


 中々の奇襲攻撃を見せたA級冒険者にしては、その背中は余りにも小さく見えた……。


 どうしていいか分からず悩んでいると、

 エミリィがヒョッコリとビィトの背後から顔を出し、そっとベンに毛布を掛けてやる。


 そして、いい子いい子と頭を撫でると…………、


 ベンの奴……────エミリィに抱き着いて、わんわん泣き出した。




 ああ、うん……。

 ────どうすればいいんだよこの状況ッ!







 クッサい洞窟の奥で──────ビィトは一人頭を抱えていた。

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