第57話「なんか追跡しました」
ベぇぇぇぇぇぇぇぇぇン!!
──ぇぇぇぇぇぇン!
────ぇぇン……
ビィトの叫びが鬼の巣を流れる水音に飲み込まれていく。
「ダメだ……! 連れていかれてしまった」
態勢を立て直したビィトは、
ようやく動けるようになったエミリィと合流。
「ベぇぇぇぇぇン!!」
何度もベンを呼ぶが、返答はない。
すぐ近くにはいないらしい。
…………。
い、生きてる──よな?
少しだけベンを案じるビィト。
だが、
ベンも心配だが、実を言えば自分たちも充分危険だった。
動けない間にグレーターゴブリンに襲われる可能性もあったのだ。
たまたまとはいえ、襲われなくて本当に良かった。
……これは──運が良かったのか?
幻影魔法で一時的に動きを止めたとはいえ、グレーターゴブリンの一団はまだ健在のはず。
「エミリィ! こっちに!」
「う、うん」
エミリィと背中合わせになり、周囲を警戒する。
個々で戦うより二人で共同したほうがいいのは誰でもわかる話。
今のところは敵の兆候はないが……。
どうする?
ベンを置いて行くのがいいのだろうか。
正直な気持ちは、この際置いて置こう。
「ベぇぇぇぇぇン!!」
ビィトは再度ベンを呼ぶも、返答はない。
やはり、
どこか遠くに連れ去られたのか、しゃべれないか──そのどちらかだろう。
この場合だと、どちらとも判断がつかない。
エミリィはまだ少し頭がふらついているようだが、手にはしっかりとスリングショットを握りしめている。
「うぅ……気持ち悪い……」
相当強く頭を打ったのだろう。その後にも、ベンに放り投げられたのが良くなかったようだ。
エミリィは額を切り、その可愛らしい顔を血で汚していた。
「血が……! エミリィ動かないで」
ビィトは、彼女のケガの具合を軽く確認すると、下級魔法の「
下級魔法とは言えビィ──以下略。
「ありがとう……」
力なく答えるエミリィ。
怪我の程度は大したことなくとも、普段から貧しい食生活のエミリィからすれば、多少とは言え血を失うのは辛いことなのだろう。
それに額から出る血は結構な量が出るものだ。
「気にしないで。それより──」
顔が汚れている事に気付いたビィトは、お得意の「ビィトシャワー」で彼女の顔を洗い流してやった。
「わっぷ──ぷるるるるる……」
犬のように顔を振ってさと洗い流すエミリィ。もう慣れたものだ。
「気持ちいー」
ほうと少し血の気が戻ったようにうっとりとするエミリィ。不覚にも、すごく可愛いかった。
「よ、よかった──そ、それより」
「うん……!」
のんびりともしていられない。
なんとか動けるまでになったことを確認すると、ビィト達はゴブリンキングが去った方向を確認する。
「こっちだったよね?」
「うん──大丈夫。匂いは少し残ってるから、」
「追えるよ?」とエミリィはいう。その顔はベンを救出に行くことに微塵も疑いを持っていなかった。
……見捨てようなんて考えないんだな。
ビィトは自分の中にあった浅ましい考えに驚く。
実を言うと、ベンが攫われた時、このまま放置しようかとも……考えていた。
というか、そうしたい……。
正直な気持ちはそれだ。
でも、気になることは奴隷契約のこと。
ベンが死んだ場合どうなるのだろうか。契約時にそういった細かい所を確認していなかった。
まったく……本当に自分が
「………………。──わかった。エミリィ、先導してくれ」
うん! エミリィは爽やかな笑顔でビィトに微笑みかける。
酷い目に遭い──あわされてきたと言うのに、エミリィは躊躇なくベンを助けに行こうという。
まったく脱帽ものだ。
「こっち────」
タタタと軽く急いだ様子のエミリィ。
ベンのことを心配しているのか、グレーターゴブリンの追撃を気にしているのかどちらかは分からないが、
「それにしてもお兄ちゃん凄いね!」
「ん? 何が?」
ベンを攫われたことか?
「幻影魔法って言ってたけど、……あれって、攻撃魔法?」
「?? ──いや、タダの目くらましだよ」
それを聞いてビックリした顔のエミリィ。
「ええ!? でも、────ゴブリンの目、全部焼けちゃってるよ?」
そう言って、エミリィが指さすのは目を押さえて転げ回っているグレーターゴブリンだ。
「う、おぉおお。え?」
そんな強力な魔法じゃないはずだけど……ここのゴブリンは本当に魔法防御が弱いらしい。
まさか、幻影魔法の目くらましで、目が潰れるなんて……普通ではありえない。
「多分、ここのゴブリンは魔法防御力が低いんだよ……」
「ええ? そ、そう……かな?」
肩を並べて走りつつ、二人は話す。もちろん足には滑り止めの布を巻いている。転ぶのは二度とごめんだ。
「うー……うん。お兄ちゃんはどうしてそんなに──」
「し、静かに! 多分あそこだ」
エミリィがなにか言おうといていたが、それを無理やり抑える。
ビィト達はベンの匂いを、エミリィのスキルを使って追っているのだが、そのうちに谷の小径、その分岐の一つに入り込んでしまった。
そこは更に狭く暗く……じめじめとしている。おまけに無数の横穴があった。
その横穴の一つに火がついており、入り口の周りには様々な品々が無造作に放置されている。
まるで、ごみ溜めのような雑多な様子だ。
ゴミ溜めでないなら、スラム街の阿片窟の入り口か。
雑多な品──。
人やゴブリンの頭蓋骨にあばら骨。それに冒険者の装備や残骸が散らばっている。
さらには、内部で火が灯っているらしく明かりが漏れていた。
「エミリィ? あそこであってる?」
「あ、あそこだけど──」
鼻を押さえたエミリィ。
「どうしたの?」
「ひ、酷い匂い……その、なんだろう。この匂い──……」
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