◆豹の槍2◆「なんでうまくいかない!」
所詮はジェイクにとって、
リスティとの関係も、リズの忠義もタダの添えモノ程度にしか考えていない。
没落した家名を取り戻すこと……それだけが望み。
今一度、成り上がるためには、誰も達成したことのない偉業を成す。
そう────ただ、それだけが目的だ。
Sランクだか何だか知らないが、冒険者なんかで終わる気など……ジェイクには
「早くしろ! リズ!」
使えない従者に苛立ちを隠さないジェイクは、早々にうまくいかなくなったダンジョン攻略。
その体たらくに、すでに苛立ちを募らせ、それがピークに達しかけていた。
いつもはその不満のはけ口たるビィトがいたのだが、それもなく……。
全ては従者のリズに向かっている。
だが、元々奴隷であったリズに当たり散らしてもジェイクの気は晴れない。
死屍累々とモンスターの死体を量産しながらも、いまいち
それもこれも、リズの動きの鈍さのせいだ。
ほんの少しいつもより荷物が多いだけ。ビィトが抜けた分の荷物を背負ったくらいで大袈裟な…………。
ヨロヨロと歩くリズを見ていると、さらに殴打したくなるがさすがにこれ以上は──と、堪える。
とはいえ、それすらもジェイクからすれば、苛立ちを募らせる原因になった。
ダンジョンから出たあとは、たっぷりと可愛がってやる!
そう、心に決めると散発的に襲い来るモンスターを切り裂いていった。
だが、敵の動きも活発でさすがにジェイクも捌き切れなくなりはじめた。
「(くそぉ! 手数が足りない!)」
起き上がったリズがフラフラになりながらもトラップを探知しつつ、安全なルートを選定しているが、どうも敵に動きを読まれている感じがする。
巧みに、モンスターどもにトラップのある地域に誘い込まれているような気がするのだ。
それすらも、モンスターを殲滅すれば問題とならないのだが…………。
いつもなら、ジェイクの脇を固めているはずのリズが荷運びとトラップ探知で消耗しきっているせいで前衛火力が足りず。
敵の圧力に対する負担がジェイクに押し掛ける。
あと一手……いや、二手欲しい。
せめて──────!
「きゃあ! ジェイクぅぅ!」
それになりより──。
頼りにならない仲間が邪魔だッ!!!
くっそぉ! リスティめ──!
「ビィ────」
グゥッ……! こういう時はビィトが妹を支援していたのだが……。
思わず、妹を援護しろと怒鳴りそうになって口をつぐむ。
仕方なく、
ダンジョンの横道から襲い掛かってきた巨大な鬼──オーガチーフだ。
手下のやや小型の、カラフルオーガを引き連れている。文字通りカラフルな連中で赤青黄色と揃っている。
「邪魔をぉぉぉぉするなぁ!」
うらぁぁぁぁ!!!
一歩目の踏み込みで、赤い奴の首を撥ね──返す刀で青い奴。
そして二歩目を踏み込み刺突し眉間を砕くと、そのまま剣をねじって頭蓋を割り──頭頂から剣を抜き出すと、振り上げたそれを腰を落としつつ振り下ろす──!
最後の一刀はオーガチーフの腹を掻っ捌き、内臓をぶちまけさせる。
その様子に、膝をついたオーガチーフのぶっ太い首を目掛けて横薙ぎに一閃────ポーンと奴の首を斬り飛ばす。
その動作が全て秒の間に行われる。
まさに凄腕……。
そして、納刀すると、遅れてオーガどもの血が噴き出した。
「あ、ありがと──」
感激して礼を言うリスティだが、ジェイクはその言葉を受けても全く心が動かなかった。
むしろ苛立ちに神経を逆なでされる気分だ。
「あぁ(くそ……足手まといだな──護衛の居ない神官職ってのは──!)」
口の端を歪めて不機嫌さを隠すこともない。
ビィトめ……。ちゃんと仕事していたならそう言え!
今になって、ビィト不在の不便さをまざまざと思い知るジェイク。
荷運びだけでなく、後方職の護衛に、火力補助──なによりリズの負担を軽減していたことが大きいらしい。
消耗し、動きの鈍いリズの役立たずなことと言ったら──!
「くそぉ!!」
「ど、どうしたの?」
リスティにはわからないらしい。
まぁ所詮は抱き心地のいいだけの頭の悪い昔馴染みだ……俺の高尚な考えなど理解できないだろうと。
こんな時でも、なんだかんだでビィトは役に立っていたのだ。
以前は、雑務や護衛に警戒などと──仲間の様子に心を砕かれずにダンジョン攻略だけを考えることができた。
それもこれも……ビィトがその一切を引き受けていたからだろう。
(くそぉ……やはり、3人では無理があるのか!)
ジェイクは、決してビィトの不在が原因だとは認めたくはなかった。
そのため、なんとしてでも今回の遠征を成功させ金を得たら────新しい仲間を募集しようと、最低でも
その間にも、オロオロするリスティとフラフラのリズに頭を抱えざるを得なかったのだが……。
この日。「
しかし、素材の質も悪く、──討伐したモンスターの個体も水増しがあるのではないかと思われるほど、怪しい成果であったという。
冒険者なんてくだらないと思いつつも、
それが、しょうもない金稼ぎだけのクエストの達成が怪しいなど──そう思われていることすら腹立たしいものだった。
「くそぉ!! どいつもこいつも舐めやがって──!」
人目を憚ることなく、怒声をあげるジェイクは、
だが、
その背中はどこか無理をしているようにも見えた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます