★第56話★「なんかさらわれました」
焦点の定まらない視界のまま、ビィトはエミリィを救わんと手を差し伸べるが、スッ転んだベンの一撃は実に強力で、すぐに起き上がれそうにない。
エミリィもぐったりして動けず、ベンだけはエミリィをゴブリンキングに差し出して逃げ出そうとしている。
しているが……。
違う。
違うぞ、ベン。
そいつはゴブリンキング。
ゴブリン中のゴブリンで、とてもレアな個体。
普通のゴブリンなら「女」を目当てに冒険者を襲い、パーティから攫って行くこともあるだろう。
それも、戦闘そっちのけで……。
奴らは欲望に忠実だ。
殺すよりも、生きた女を犯したい。弄びたい。
そんな浅ましい連中だ。
その欲望を叶えるためなら手段を選ばない。
犯し、喰らい、楽しむために、なるべく生きたまま新鮮なうちに捕らえたい……。
なるほど、ベンの行動が
道義的にはどうかと思うが、きっとベンの思惑通り、彼を無視してエミリィを攫っただろう。
そう、普通のゴブリンなら、ば。
だが、
ビィトは知っている。
これでも知識を重んじる魔術師の端くれだ。
「
その知識の引き出しに、ちゃんとゴブリンキングのそれもあった。
その知識によれば、
ゴブリンの集落でのし上がってキングになった個体は、なぜか同種を生み出さない。
ゴブリンキングからゴブリンキングが大量に生まれてもおかしくはないはずなのに、一つのゴブリンのコロニーに対して、ゴブリンキングはただ一人。
そう、ただ一人だけ特殊個体として存在している。
なぜか……。
ゴブリンを研究していたという偉いさんの研究成果にこうある。
ゴブリンキングは──────、
…………。
「へへ、すまねぇなエミリィ。悪く思うな、よ──って、ん? あ、あれ?」
ガシリッ、とゴブリンキングに首根っこを掴まれるベン。
ベン。
ベン、ベンベンベンベン──ベぇン……。
──ゴブリンキングは、女に興味がない。
ニィぃぃと、満面の笑みを浮かべたゴブリンキングが、ベンをお姫様抱っこする──…………、
「ちょ、え? お? あ? あれ?」
「馬鹿野郎、ベン──────! ゴブリンキングは、」
そう、ゴブリンキングは──、
「一周回って男が好きなんだよ!!!」
……とても業が深い生物。それがゴブリンキング。
「ま、マジ卍────?」
それがベンの最後? の言葉だった。
あっという間に連れ去られるベン。
ものすごい速度で走り去ったゴブリンキングと、哀れなベン…………。
ほんの少しの時間の後、ようやくビィトとエミリィが、起き上がれる頃に…………、
「あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーッッ」
とても、野太い悲鳴が響いたとか響かなかったとか…………。
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