第53話「なんか退けました」
──ベン! いいから集中しろっ!
…………。
って俺もか!?
エミリィのチッパ──……ゲフンゲフン! に気を奪われている隙にグレーターゴブリンが間近に迫っていた。
こいつらは自身のスキルである、同化スキルを最大限に生かすために……どうやら素手かつ全裸でいるらしい。
一見、どこの変態かと思ったが、
おそらく武器を使えば──そこだけプカプカと武器や防具が宙に浮いて見えてしまい、
だから、ビィトの眼前に迫ったソイツもまた素手であった。
しかしそれでも脅威は健在。毒液の付着した体の輪郭からも、凶悪な拳が握り込まれているのが見て取れた。
ぐ……──。
いつの間にこんなに接近された!?
ち、近い。
この距離での爆破魔法は無理だ! 近すぎる──!?
しょせん魔術師にすぎないビィト。その防御力が紙だ。一応、身体強化を使って急所などの局部は補強しているが、それだけでグレーターゴブリンの一撃を耐えきる自信はない。
くそ──火球を………………いや、これじゃ攻撃の勢いを殺せないか!
殴りのモーションに入ったゴブリンを止めるには、強烈なマンストップ効果を生み出す魔法が必要だ。
たとえば「小爆破」の様な魔法だが、これでは近過ぎて自身も巻き込まれる可能性があった。
やはり、石礫──!
と行きたいところだか、
石礫は貫通力があるが、一撃で倒せない。ましてや、奴の拳はそのままの勢いでビィトにめり込むだろう。
だったら──、
「こうだ!」
先の、廃品の丘でグールシューターに不意打ちを喰らったときに反撃した場面を思い出す。
あの時のように、足には──その局部に特化した「身体強化」を既に施してあるのだ。
だからそいつで、蹴りを見舞ってやった。
「おらぁぁあああ!!」
ズガンッ! ッ……………………ボンッッ!
咄嗟に放ったため、勢いをつけすぎ、体ごと蹴り抜いたそれは思った以上の威力で…………なんと、奴の上半身が爆散した。
ブチかましておいてなんだが、自分が一番ビックリした。
驚くほどの威力。なんか、軸足のほうも地面が抉れるほどの衝撃だ。
「う、うそ。お、お兄ちゃん?」「あ、おいおい……!」
バラバラーと吹っ飛んだ奴の肉と骨片が背後にいた連中も巻き込んでいる。
「えっ?(……マジ?)」
ボソッとこぼしたセリフは、誰にも聞かれなかったが、
「お、おいおい……! 器用貧乏、お前何やった?」
そういえば、局所的に身体を強化するという、ビィトなりに工夫した身体強化についてベン達には詳しく話してなかったな。
クリムゾンゴブリンの集落から逃げるときに、肺を強化して見せたくらいか?
まぁ、説明している暇もないけど……。
「只の初歩中の初歩の──「身体強化」だよ」
しかし、説明する暇もない。
続けざまに、隙を付いて殴り掛かってきたグレーターゴブリン。
だから、同じようにそいつの頭にも、蹴り見舞う。
くらえ! とばかりに、抜いたままの足を踵落とし気味にブチかましてやった。
それが思った以上に強烈だったらしく────脳天に直撃した足は、奴の頭を杭打ちのように叩き込む。
おかげで、肩骨を砕いて沈んだ頭部は……さらに、頭を首から下へと沈み込ませて行き───……衝撃だけで背骨を順次ベキベキに砕いていった。
あとには
流石にこれにはグレーターゴブリンも……ベンも、エミリィも──ビィトもビックリ。
動きを止めたゴブリン達をみて、
…………。
「う……あ、おぁ!! や、やれ、やっちめぇ──器用貧乏っっ! 殲滅しろぉぉぉお」
ベンがいち早く反応し、ビィトに殲滅を命じる。
「(偉そうにっ?)無理言うなよ! これだけの数だ──……全部倒すなんてできるか」
それに……、こいつは──こいつらは妙に動きがいい。この数のグレーターゴブリンが連携をとりつつ攻撃なんて……ありえない。
これは、もしかするとリーダーがいるのか?
ビィトをして、そうかもしないと思わせる何か。一見して無秩序に見えるが…………こいつらは統率されている。
群れには、やはりリーダーが…………。
「ウダウダ言ってないで突っ込めや!」
ベンがビィトを背後から蹴り飛ばす。
思わずたたらを踏み前方へ進み出たビィトの目の前にグレーターゴブリンの血まみれの個体。すでにこの辺の連中は全身血まみれなので、姿が良く見える。
「何すんだベン! って、うわぁぁあああ!」
ズルっと滑ってゴブリンの集団に転がり込んでしまうビィト。
…………あれ程足場が悪いことを警戒していたのに、このザマ。
よく見れば滑りどめに巻いていた布が、何処かにスッとんでいったらしい。
……そりゃ、あんな派手にケリをぶっ放せばそうなるというもの。
そして今──ビィトは目の前にどころか、周囲をゴブリンに囲まれている有様と言うわけだ。
立ち込めるゴブリンの体臭に胸がムカついてきた。
「ふざっけんな! このぉぉぉ!」
ビィトを踏み殺さんと周囲からグレーターゴブリンが飛び掛かってくるので、それをイヤイヤするように、足をばたつかせて払っていく。
その度に、奴らの腕やら足が折れ曲がり耳障りな悲鳴が響き渡った。スッ転んだ姿勢では踏ん張りがきかないとはいえ、足それだけでもかなりの威力が出せるようだ。
「俺に近づくなぁあ!」
ブンブンと足を振り回すだけで奴らは近づけないらしい。その隙に体勢を立て直そうとするが──……。
突如、
「グルルゥアアアアアアアアアアアア!!!!!」
と、大音響が谷に響き渡る。
ビリビリと空気が震えるのがビィトにもわかった。
その途端、倒れたビィトを執拗に攻撃していたグレーターゴブリンが動きを止めて背後を振り返っている。
「な、なんだぁぁ!?」
「お、お兄ちゃん! 今のうちに──」
ベンがキョロキョロとしている隙に、エミリィがビィトに駆け寄り肩を貸してくれた。
「くそ……ベンの奴!」
下手をすれば死んでいたぞ!
しかし、抗議の声を上げる前に、急速にゴブリン達の動きが活発化する。
ザザザザザザと、潮が引くように距離を取り始めたかと思うと……、
「な、なんだ? 逃げてく──ぞ」
ベンも訝し気に首を傾げている。
それもそうだろう。距離を取っただけでなくグレーターゴブリン達はあっという間に姿をくらませてしまった。
「今の声は……」
声のした方を見つめるも、暗い谷間の道があるだけで何者が潜んでいるか判別がつかない。
肩を貸してくれるエミリィに、
「エミリィは……見えた?」
コクンと頷く彼女に、
「凄く……大きいやつ」
ブルブルと震える彼女は、おそらくグレーターゴブリンのリーダーを優れた感覚で知覚してしまったのだろう。
「やっぱりか、間違いない…………」
奴は──……、
ゴブリンキングだ。
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