第51話「なんか励まされました」

 む、無理だ──!


 ……こ、こんな大群っ、エミリィ、ベンと────俺だけで対処できるわけが!?


 器用貧乏と言われた自分の存在を急に強く感じる。


 クリムゾンゴブリンの時は運が良かっただけ──。


 廃品の丘にいたアンデッドだってそう。

 奴らは動きが遅いし、バカだ……。


 だけど──、

 こいつらは……グレーターゴブリンは違う。


 こいつれはゴブリンの上位種で、所詮は仮免許の俺がとても太刀打ちできるような敵じゃない!


 そんなのに敵うはずが……。

 だって俺は役立たずで……仲間からも追い出された、見せかけだけのSランク……。


 「豹の槍パンターランツァ」にいた時は、

 ジェイクの剣戟が敵を蹴散らし、彼の隙をリズが埋め───リスティが援護魔法で強力に補佐サポートする……それがスタイルだった。


 俺の役目?


 俺は…………コソコソと下級魔法を撃つだけ。下級魔法が効くかどうかも分からず……頑張っているフリ・・・・・・・・をしていただけ──。


 こ、こんなとき、

 ……ど、どうすれば。


「おい!!」


 !!??


「どーすんだよ、器用貧乏!」

 ベンが切羽詰まった声でビィトに迫る。


 ……うるさい、ベン!

(くそ、悩む暇もない……)

 ないけど、

 そもそも俺に──なにができる?


「聞いてんのか! おい!」


「お兄ちゃん!」


「おいっ、何ボサッと突っ立ってる! どうすりゃいい!?」


(ああーーーーーー!!)


 そんなこと、奴隷に聞くなよっ!


 くそっ、

「ベン! 後と上は俺が応戦する! お前はエミリィと前の敵を牽制してくれ───無理に倒さなくてもいい」

 ──というか倒せないだろう。


 ベンの腕前はお察しだ。

 スケルトンローマーに手こずっているような状態でグレーターゴブリンに敵うはずもない。それなら、よほどエミリィのほうが頼りになる。

 だから、ベンの火力はアテにしない……死なないようにだけしてくれ。


「ちっ! テメェがモタモタしてるからだぞ!」

 ベンが忌々しそうにビィトを罵るが、奴隷に責任があるってのか、ばか野郎!


 …………。


 いや、そんなことよりもここをどう切り抜けるかだ。


 掴みで30体。

 総数不明…………!


 この数を、倒し切るのは────無理……。


 やはり、逃げることを視野に入れなければ。

 そのためにも、まずはゴブリンの第一波をしのぐ必要がある。

 まずはそこ、それが一番肝心だ。


 あわてて逃げるのは、たぶん悪手──!


「くそ! 器用貧乏……さっさとしろ! おら、ガキッ! 食われたくなかった俺を護れ」

「は、はい!」


(く、いい年したオッサンが子供を盾にして……!)


 そう思ったものの、現状ではこれが取れる唯一の策。

 攻撃力と言う面では、ベンもエミリィも火力が足りない。

 もちろんビィトも、だ。


 でも、だからって──俺に後ろの敵を殲滅して、さらにエミリィ達を援護するなんて芸当…………できるか?


 む、無理に決まってる。


「おい? おい! おいぃ!!」

 ベンの呼び声が聞こえる。


 だけど、俺は──。


 ……ヒタヒタと壁を伝って近づくグレーターゴブリン。

 見ていた分かったのは、奴らが壁に張り付くには両手を必要とするらしい。おそらくトカゲのようなものだろう。

 両手がつかえないので、壁からの攻撃はないと思っていいはず。


 観察してみれば、

 透明な体表に青い毒液が付きボンヤリと輪郭が映り出ていた。

 

 その恐ろしげな風貌と、

 ツン──と臭う奴らの体臭に……、足がすくみ始める。


 大見栄切って殿しんがりを務めたのは良いけど──、

 俺にできるのか?


 だ、だって、こいつらに魔法が聞く保証なんてないし──それに……、俺は器用貧乏! いつもジェイク達の足手まといの──。


「ウジウジ考えてんじゃねぇ! 器用貧乏!」


 く……!


「いいから撃て、打て、討てぇぇぇっぇ!!」

 ────うてぇぇぇっぇぇ!!!



「っっ!」



 なんでもいい! こいつらを纏めてぶっ飛ばせるような──……! 魔法を、ま、魔法──。


 下級魔法を……?

 下級……、


 か……、


 まとめて吹っ飛ばす下級魔法なんて……──。

「迷わないでお兄ちゃん!」


 ───エミリィ?


「い、いつものお兄ちゃんなら──負けない!」


 っっ!!!


 いつもの俺。

 いつもの──、


 はは、そうだ。

 いつだってそうだったじゃないか。


 今さら──! 魔法に迷ってどうする!

「──器用貧乏のビィトか……だけどな、下級魔法なら──」


 不器用に、ニッとエミリィに笑いかけると、彼女はとろけるような笑顔を向けてくれる。


 ありがとう、エミリィ──。


「さっさとしろ!」

 うっせぇ、ベン。


「俺の下級魔法はさ……派手さはないけど──」


《ギィィィィ》

《グルルルル》


 静かに包囲し──そして、包囲完成……。ってとこかな?


 ここにきてようやくゴブリンが騒ぎ始める。


 

「──慣れてくればいくらでも、そういくらでも……」


 ビョン! ビョン! と壁に張り付いていたゴブリンがワラワラと集まり始めた。

 いくつかの個体は未だ壁に張り付いているが……上を制しているとう無言の牽制なのだろう。

 ビィトは無数に視線を感じていた。いつもなら足がすくむそれ──。


 だが、すでにビィトは覚悟を決めていた。

 下級魔法で闘うという──、それを。


(そうさ、慣れてくればいくらでも──)

「──下級魔法が使えるのさ。こんな風に、な!!!」


 ギィエエエエ! と間近に迫った個体がビィトに標的を定めて雪崩れ込んでくる。


 だけど、ビィトは冷静に────息を吸う。


(すぅぅぅぅぅぅうう──……)


 小爆破!!!! ──ボォンン!!

 飛びかかってきた一匹をカウンター気味に爆破!


「───からのー!」


 小爆破……二連装! ──ボォンッ! ボォン!


 と、次に先頭に突出してきた2匹の個体──それぞれの頭部に爆破魔法を炸裂。

 それは頭部に命中し、皮膚が抉れたような気がするが、それくらいでくたばるような奴ではないらしい。


 だが、ダメージが通れば奴らのスキルもキャンセルされるのか、透明な体がブルリと揺れて姿を見せる。


 ……黒い表皮にゴツゴツと生えた角。体は通常のゴブリンよりも2周り大きく……小男のようだ。


 そして、顔。


 なんっっって、狂暴な顔だよ……。

 爆発でめくれ上がった表皮のため、余計に恐ろし気に見える風貌。

 それは、つり上がった眼と乱杭歯でまさに……鬼だ。


「ずいぶん硬いな……! だけど、──何発耐えれるかな!」


 俺の下級魔法は──……!







「息が長いぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る