第49話「なんか来ました」
サラサラサラサラ……。
ドドドドドドドド……。
地面と壁を伝う静かな水流と、壁の中を流れる勢いのある水音。
まったくもって聴覚が用をなさない。
どこにそんな勢いのある水が流れているのか疑問だが、激しい水が確かに流れているのだ。
「くっそ、冷えるな!」
そう言ってベンはグビグビと酒を飲んでいる。
「余り酒を飲むなよ。……集中力が落ちるぞ」
一応注意しておくが、この禿デブが聞くとは思えない。
「やかましい。その分、テメェらが気合入れて働け!」
クソ……いい気なもんだよ。
ビィトは背中の大きな荷物を担ぎなおしながら、前方を行くエミリィを見る。
彼女は慎重に周囲を警戒しながら進んでいる。
この先は敵のテリトリーなのだ。しかも、ゴブリン……。先に遭遇したクリムゾンゴブリンより狂暴な種だと想定される。
なぜなら、ダンジョンの奥地のほうが敵が強力になる傾向があるからだ。
「エミリィ……異状はない?」
「うん……気配は──何となくあるけど……遠いね。熱源も見えないよ」
振り返ったエミリィの姿は、隊列中央のベンの背中が邪魔で半分しか見えない。
陣形は地形の狭さもあるため、やはり単縦陣にせざるを得なかった。
都合、
索敵兼前衛にエミリィ。
指揮役にベン。
「了解……気を付けてね」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
ベン越しにやり取りをしているものだから、ベンがうんざりしている気配もよくわかった。
「ガキどうしで乳繰り合いやがって……うぜぇったらねぇぜ───器用貧乏、ガキはもう抱いたのか?」
「なっ!」「ええ!?」
ベンの唐突な言葉にビィトもエミリィも素っ頓狂な声を上げてしまう。
「何を馬鹿な事を!」「そそそそそ、そんな事!」
……エミリィちゃん。君はキョドり過ぎ───。
「へ……昨日、岩屋の中でイチャついてただろうが、あーむず痒いったらなかったぜ」
他人の乳繰り合いを見てる時ほど体中が痒くなるものはないぜ。とベンがからかう様にいう。
……というか、どこかのタイミングで目を覚ましたらしいベンに、ビィトとエミリィがくっ付いていたところを見られたのだろう。
「そそ、そ、そんなんじゃないよ」
ビィトは意味がないと知りつつも否定して見せる。とはいえ……エミリィに好意を抱いてしまっているのは──事実。
可愛いとも思うし……その、うん。
ただ、ベンの言う様な
「奴隷どうしが何してようが、
「へ?」「え?」
ベンならもっとドギツイことを言うと思ったのだが……。
「なんでぇ? 意外か? 俺が邪魔するとでも?」
ま、まぁそりゃ……。
「バァカ……。自分の女ならいざ知らず、奴隷が何をしてようが俺が一々口だすわけねぇだろ。それに……このガキは戦闘奴隷だよ。おまけに、まだまだガキだしな」
ペロンとエミリィの尻を撫でるベン。
「おい!」
思わず注意するビィトだが、エミリィは一瞬身を固くするだけで抵抗はしなかった。
「ま、もうちっとデカくなったらわからんぜ、へへへ。尻も胸もそこそこ育ってるしな」
ゲヘヘヘヘと厭らしい笑いをするベン。
要するに、ただ──まだまだエミリィが幼過ぎるから手を出していないというだけらしい。
それもどこまで信頼できるか……。少なくともセクハラまがいのことをしようとするだけには、女として意識しているのだろう。
「よせ! エミリィは俺の奴隷だぞ!」
「馬鹿野郎。俺のものは俺のもの。お前の物は俺のものだっつの……それが奴隷契約ってもんよ」
……く!
こ、こいつ……───。
エミリィが成長したら手を出す気満々の発言と、人の奴隷であってもお構いなしのそれを聞いて頭に血が上るのを感じた。
思わず感情的になり、後ろからベンを殴り飛ばしたくなったが───、
「ぁ!!!!」
エミリィの声に、体が一瞬で反応した!
「どこだ!」
さっと、火球と氷塊を射出する構えをとる。このタイミングだ──敵以外にあり得ない。
「わからな───え? 嘘…………う、上ぇぇ!!」
な!?
ここが谷である以上、当然のことだが岩壁があり、それが上にずっと続いているのは当たり前のこと。
だが、この
そう……勝手に同じ条件だと思っていたが───そんなわけがない!
最初はこの狭い谷間の道をゴブリンが来るものと思っていたが───ちがう!
ここを住処にしているんだ。
「ベン、伏せてろ!」
上……!
上?
…………。
上って!どこのぉぉ!?
「ぅぅ……右前方、上の方!」
いや、
わからないよエミリィ!
それらしいところをあたりを付けて見上げるが……。
「ダメ! いっぱいいる!!!」
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