第37話「なんか速いの出てきました」
「接近して──しとめる!」
射程が極端に短いのだ。
いや、正確には
だが、それでも、威力は折り紙付きで……こういったノロい敵には絶大な効果を発揮する。
「一体ずつだ!」
あたりには物凄い悪臭がたちこめている。
さっき仕留めた数体からは腐った血液やら臓物が溢れて……もうなんかすごいことになっている。
直に鼻が馬鹿になるのだろうが、今は吐き気を堪えるのに必死だ。
純ダンジョン産のグールならここまでひどい匂いはしないが、ここのグールローマーは正真正銘腐った冒険者達だ。
ゴブリンに食い荒らされて色々少なくなっているが、それでも原型をとどめている。
中には……多分「女」の冒険者もいるようで、まー酷い格好だ。
っと、観察している場合じゃない。
やはりノロい連中なので悪臭さえ我慢すればどうということはない。
次々に大口を開けて迫ってくるが、連携はない。だから一体一体倒すのは問題ない。
一応知恵があるのかと思ったが、とてもそんな雰囲気はない。まだスケルトンロ―マーのほうが賢かったように思う。
だが、好都合だ、と。次々に首ちょんぱして仕留める。
残り数体となった時…………。
「グゥゥオオオオオ!!」
グールの集団から物凄い声が上がる。
その直後、目の前のグールが弾き飛ばされると──。
「ぐ、グールシューター!?」
どす黒い瘴気を纏ったグールが岩屋の奥から走り出てくると、グールをなぎ倒しながら迫ってきた。
──くそ! マズイ……。
慌てて水矢で狙い撃つが、水矢は予備動作が大きいうえ、薙ぎ払わないと致命傷を与えることができない。
辛うじて左手の水矢がグールシューターの腹に当たるも、穴をあけただけで直ぐに躱されてしまった。
そして、大口を置けて迫るグールシューター。その素早さに完全に腰が引けてしまった。
「ぐ!」
想定外の事態に混乱する。混乱した頭では咄嗟に打開策が思いつかない。
偵察して先に発見していれば優先的に石礫や氷塊などで攻撃していたが────近い!? 間に合わない。
「くそぅ!」
そのまま水矢を交差させてぶっ放すが、ヒョイっと交わされてしまった。あとは、
「ガチンコだ!」
魔術師だからって、肉弾戦ができなと思うなよ!
身体強化した状態なら、そこそこの強さの戦士とも渡り合える自信がある。もっとも、身体強化は体を部分的に強化するというビィトならではのやり方で一般的ではない。
そもそも、普通はそんなことはできないと思われているし、やろうとも思わない。
今、局地的に身体強化しているのは聴覚と──脚のみ。
だから、迷わずブチかましてやった。
「おらぁぁ!」
ブンと振り上げた足がグールシューターに突き刺さる。
それは格闘術など習得していないビィトの不格好なものだったが……身体強化した足はビィトを軽々と巨岩の上に飛び上がらせるほどには強力なもの。
それが腐った体に命中するのだ。
強化された足は高速で繰り出されたためグールシューターも回避できなかったようだ。
グルアアアと、大口を上げたまま、腹に直撃するビィトの足に────ボォン! とはじけ飛ぶ。
ガチンと、閉ざされた口を持った頭だけ、ポーンと転がっていくほどに腐った人体は爆発してグッチャグチャに……──。
そして、ベチャァァアア! 盛大に撒き散らされる腐肉の塊。
「うぉええええええええええ……」
オロロロロロロロロロロロロロ────……。
誰も見ていないことを良いことにたっぷりと吐き戻す。
胃の中にはろくなものが入っていないので、ほとんどが胃液だ。
「ひっでぇ匂いだ……」
頭から被って全身腐敗臭が酷い。
思いっきり罵り声を上げたいが……──。敵はまだいる。
「あーーーもう! 腹ったつな!」
あとはもう、感情任せに白兵戦で仕留めていくのみ。
水矢なんて使うものか。ここまで汚れたらあとは同じだ!!
「かかってこいよ! 魔術師だからって、戦えないと思うなよっ」
そうだ……腐っても元「
彼らの期待に応えられなかった自分が悪いのだ。いつまでもメソメソしていられない。
なにより今は守るべき人がいる。
今まではジェイクたちに守られてばかりだったけど、今は違う。
エミリィ……──(そしてベンも)
ビィトが守らなければ、彼女たちは生きて帰れないだろう。
「だからさぁ! お前らみたいなのに手こずるわけにはいかないんだよ!」
格闘技術もないにもない、ただの『身体強化』に任せただけの喧嘩キックだ。
それでも、威力は絶大。グールは雑魚……ビィトに敵うはずもなかった。
──おらおらおらおらおらぁぁっぁ!
ボンッ! ベチャ……! グシャァァア!!
あとには、グッチャグチャに殲滅されたグールローマーの残骸が残るのみ。
あたり一面、腐肉の山だ……──合掌。
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