第38話「なんか探索しました」
あまりにもひどい臭気に、頭がおかしくなりそうだった。
一応、
ビィトの火球は下級魔法だが、熟練度の向上と──魔力の注入により高温化している。
他にこんなことをする人がいるのかは知らないが、火球と言えども魔力を多く注げばそれだけ威力があがる。
大きさだけは、下級魔法の域をでないためやはり火球なのだが、その中身は下級魔法のそれとは比較にならない。
ただ、いくら火球が高温でもさらに上位の魔法で
利点は、あり触れ過ぎていて使い勝手がいいことと、その分使い続けてきたためいくらでも連射できるくらいだろうか。
実際、今もボン、ボン! と地面に向けて放ち死体を焼いている。
滲み出た腐汁やら油なんかがデロデロになって凄い……。
なんとか燃え始めたのを尻目に、岩屋を調査する。
あのグールシューターが潜んでいた場所だ。
魔力の灯をポンと、浮かべると内部に飛ばす。
念のため、火球と石礫を連続して撃ち込んでみた。
ガキュン、ガキュン! と物凄い反響が響き渡るが、何かが飛び出してくる気配はない。
灯の
すくなくもとグールが潜んでいたくらいなのだからトラップの類はないだろう。あっても既にグールが起動させているに違いない。
「先に調査しておくか……」
外では盛大に燃え始めたグールの死体。
さすがにのこ状態で二人を連れてくるわけにはいかないだろう。
時間はあまりないが、さっさと調査して危険がないか確認しておこう。
ザッザッザ……。
乾いた土の上に、グールシューターらしき足跡が点々と残っている。
その後は真っ直ぐに奥へと伸びているが、そう深いわけでもなさそうだ。
かすかに腐臭が漂っているが、外に比べれば随分とましな方だ。
グールシューターは、肉や脂肪分が少ないせいかグールや、とりわけグールローマーに比べて腐敗臭はマシらしい。
これなら風魔法で換気すれば中で過ごしても問題ないだろう。
流石にソロソロ睡眠をとらなければならない。
一日二日と行動できないことはないが、万全を期すためには、こまめに休息をとることが必要だ。
戦う時に疲労していては話にならないということ。
「うん、問題ないな──……ん?」
岩屋の奥。
グールシューターの寝床だろうか。
たくさんの人骨の残骸の他に……元の持ち主らしい装備がたくさん積まれている。
グールローマーらにも知性はあるというが、グールシューターはさらに知性があったのかもしれない。
この装備品は丁寧に集積されており、ゴミの様に捨てられている人骨とは扱いが違った。
仲間のグールのものでもないなら、ここを訪れて……この地でグールシューターに仕留められた冒険者の持ち物だろう。
外をうろつく連中はゴブリンに食われた慣れの果てだとしたら……それ以外の生存者はここでグールの餌になるという事か。
嘆きの谷とはよく言ったものだ。
いったい何人の冒険者がここで朽ち果てていったのか──……。
「ドロップ品は権利を主張できるんだったな」
どうせ見つかれば問答無用で奪われるのだから、隠せそうなものは先に回収しておこう。
荷物をひっくり返されればバレるかもしれないが、汚れた衣類などに隠しておけば案外騙しとおせるかもしれない。
そう思って、山となった装備品を簡単に見ていく。
全部隠し通せるのは無理だと分かる。
あとでベンに持って帰るように指示されるのは目に見えていた。
だから、隠すものと……ベンが没収しやすいものとに分けておく。それ以外はベンの総取りだ。
それなりに高価そうなネックレスはこれ見よがしに首に下げておく。
あとは綺麗な装飾の剣をベルト付きで……剣は使えないのでベンへの土産みたいなものだ。
代わりに指輪や──……。
「お……金貨!?」
冒険者の持ち物だったのだろう。
銀貨や金貨の詰まった革袋が無造作に積まれていた。
さすがにこれ全部持ち出すわけにはいかないので、探し切れなかった風を装うために、装備品の中ほどに突っ込んでおく。
その前に金貨を数枚失敬して隠すことも忘れない。
あとは指輪や宝石の類だ。それらは高価で隠し持つのに適している。
誰の持ち物か知らないけど、食われて奪われた冒険者には同情する。
ギルドも銀行の役目をしてくれるがセキュリティが万全とは言い難いし、なにより手数料が割高だ。
それをケチって荷物として財産を持ち歩く冒険者は多い。
貨幣で持ち歩くと膨大な量になるので、指輪や宝石などの換金性の高い品を購入して身に着ける冒険者は珍しくない。
それゆえ、その冒険者を狙った冒険者狩りなんてのも横行したりする。
一応ギルドの規定では禁止されているのだが、ダンジョン内で起こることに関与できるはずもない。
「こんなものか……ありがとう」
骨の山に手を合わせて感謝する。
また戻ってくる。その時に彼らの名前が分かるものはきちんと回収しよう。そう心に決めた。
勿論外で荼毘に付しているグールローマーとて同じだ。
いつまでも行方不明のままではあまりにも可哀想だ。
例え一部だけでも地上へ連れ帰ってやるべきだろう。
そう考えて、風魔法を起こして換気しつつ岩屋を後にした。
外では未だに死体がくすぶり、物凄い悪臭がたちこめている。
そのままでは熱くて触れられない炭化死体だらけだが、ここにベン達を連れて戻る頃には火も収まっているだろう。
再び合掌すると、その場を後にしたビィト。
「……疲れた──合流しよう」
さすがに、索敵と戦闘と探索を同時にこなすのは骨が折れる。
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