第35話「なんか殲滅しました2」
──やるしかないか……。
ポゥと魔法を左手に点すとすぐに発射できるように顕現させる。
その魔法はユラユラと揺らめいているが音はしない。
浮かべているのは石礫の小さな渦。
一見すれば小型の竜巻が手の上に踊っているように見えるだろうが、これはタダの
物理特化のこの魔法は、堅く脆い目標にうってつけだ。例えば人体や──骨。
そして、なにより音がしない。無味無臭で環境に与える影響もない。
風や水の魔法の様に温度を下げることもなければ、火の様に温度上げることもない。静かに物陰から発射すれば命中するまで気付かないだろう。
「(動くなよー……)」
そーっと岩の陰から手に浮かべた石礫と手を突き出し、合わせて顔も。
目の前にいたスケルトンローマーはどこを見ているのか分からないが、近くのビィトに気付いた様子はない。
行けるか!?
狙いを付けると、発射軌道を読んで射出準備。
複数個浮かんでいる石礫の魔力を送り込むと、ターゲットに向け────
ギギギギギギギギ!!
突然目の前の骨が軋み音を上げる。
真っ黒な眼下に青い炎がともり、敵意が膨らむ。
……! 気付かれた!?
……く!!!
──発射ぁぁ!!
ズパン! と飛んでいく石礫が連続して戦士系のスケルトンローマーの命中する。
カパ、パッカーンと、頭蓋骨と頸椎が砕け散り
そしてそのまま崩れ落ちるスケルトンローマーの音が派手に響く。
骨がバラバラと崩れると同時に、奴が構えていた斧がガランガラーンと喧しい音を立てる。
流石にここまで派手な音を立てて気付かれないはずもない。
ウロウロしていたスケルトンローマー5体がいち早く動き、崩れた骨の周囲にあつまり周囲を警戒している。その間にビィトは位置を離れて次の狙撃地点へ移動する。
一度の狙撃できれば楽だったのだろうが……そううまくいくはずもない。
次は上っ!
『身体強化』を及ぼした脚力を駆使して飛び上がり巨岩の上に登る。
そこは見渡すばかり巨岩の広がる丘の上で、随分先まで見通せた。
しかし、今は景色を見ている場合ではない。
ヒュンと、耳元を何かが掠めた。
「な、なんだ!」
カァンと甲高い音を立てて岩で弾けたのはボロボロの矢が。
「く……
ヒュン、ヒュンと立て続けに飛び込んでいく矢。
腕もかなりの物らしく、ビィトを狙って離さない。幸いなことは持っている武装がボロボロで遠距離の狙撃に向いておらず威力にも乏しいことだろうか。
「まずはお前だ!」
バレてしまった以上、一方的に攻撃させてもらう。
流石にここまで届く武器を持っているのはそう多くない。この場所では一体の弓使いがいるだけだ。
ヒュパ!! 狙いを着けて発射すると、複数の石礫が奴を砕いていく。
流石に距離が開きすぎたので一度目の様に顔だけを狙撃と言うわけにもいかないが──。それでも奴は穴だらけになりバッターンを倒れると骨をバラバラにしてピクリとも動かなくなった。
次ィ!
流石にここまで派手に動けばバレないはずがない。
アンデッドとはいえ元は冒険者。それなりに知能があるのだろう。数名がしっかりとフォローしつつ岩に近づいてきた。
そのままでは登れないのも折込み済みらしく、互いにタワーを組んで軽装のスケルトンローマーを上部へ差し向けてきた。
「コカカカカカカカカ」
ケタケタと笑いながら、ナイフを装備したスケルトンローマーが岩場に顔を出す────怖っ!
「だけど……無防備なのは変わらないよ」
発射!!
パパパッパパン!
連続して放つ石礫はスリングショットを優に上回る威力で骨面を穴だらけにいていく。
ガラガラとそいつが崩れると、下でタワーを組んでいたスケルトンローマー達も巻き添えを食って崩れ落ちる。
盛大にバラバラとなった連中のうち半数近くが元の骨に戻り動かなくなる。
こうなればこっちのもの。岩場の端から順繰りに狙撃していくだけだ。
骨だらけで一見すれば、どれが生きているのか分からないが観察していればモゾモゾと動いている頭部が見える。それを狙うわけだ。
往生際悪く盾で防ごうと構えているが──
「俺の石礫を舐めるなよ!」
ビィトの石礫は下級魔法ではあるが、それを繰り返し鍛えているので熟練度だけは高い。
普通ならすぐに上級魔法を目指すのだが、下級しかつかえないのだから選択肢がなかった。だがお陰で下級魔法としてはかなりの高威力。そこにさらに工夫を重ねている。
本来なら握りこぶし程度の石礫を魔力で圧縮しガッチガチに固めてある。
土系の上級魔法なら巨大な隕石をふらせる「
もちろん、火球や氷塊も同様に工夫している。
それがため、雑魚程度のモンスターならなんとか対抗できるわけだ。
────発射!
──発射!
発射!
眼下でモゾモゾと動いているスケルトンローマー達を次々に撃ち砕いていく。
動かなくなった個体も念入りに頭部や頸椎を破壊していった。こいつらは
実際、そういった個体もたらしく、撃ち抜いた傍からバタバタと暴れていた。
そうして、ビィトは反撃の無いことを良いことに一方的に殲滅した。
魔力消費もほぼないんじゃないだろうか。
使い慣れた下級魔法。
使い慣れたお箸で食事をするようなモノ。疲れなど全く感じなかった。
「よっと!」
岩場から飛び降りると、散らばった骨に手を合わせて冥福を祈る。そうしておいてからドロップ品と装備を漁ることにした。これをベンに見られでもしたら強奪されそうだが、リュックの底の方に隠せる程度の物なら問題なさそうだ。
まずは、頭蓋骨の収集。この一つ一つが冒険者たちだったと思うと切なさよりも恐怖を感じる。
よく見ればゴブリンの歯形が付いていたり、何か硬いもので骨を削ったような跡がある。……生きたまま食われたというのは本当の話かもしれない。そりゃ……恨みも旨味あることだろうさ──化けて出るくらいには。
さすがに頭蓋骨全部をリュックには回収できないので、下顎だけを回収。これでもギルドは金を出してくれるだろうか。まぁいいか。
あとは装備品でも特に持ち主が分かりそうなものも合わせて回収。
ボロボロのナイフや矢筒、ネックレスや腕輪なんかには名前が刻まれている。お金を持っていてくれれば嬉しいのがだが、ゴブリンに取られたか、財布ごと腐り果てたか……。
少しばかり膨らんだリュックを背にこの場を後にした。
残るはバラバラになった骨の山が残るのみ────合掌。
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