第24話「なんかダンジョンに潜ることになりました」


 ゾロゾロゾロ……


 列をなしてダンジョンに続く入り口に殺到していく冒険者たち。

 その雑踏は、まるで安売り商店に向かう買い物客のようだ。


 しかし、そんな生易しい場所であるはずがなく、

 その先には最強最悪のダンジョン『地獄の釜』があるのだ。


 だが一獲千金を夢見て、

 己の技を磨きに磨いてきた冒険者からすれば、「最強最悪」な~んていう脅し文句なんぞ「箔付け」程度にしか捉えられていない。

 今日も今日とて、どこかで死者が出るのは分かりつつも、ダンジョンを護る衛兵はと言えば、

 感情らしい感情を見せずに、冒険者を整理しながら死地へと送り込んでいく。


 とてもやる気があるようには見えず、

 その顔は事務的そのもの。


 はたから見ていてもわかる。冒険者の顔など覚えても無駄だと言わんばかりだ。

 まーそれはそうだろう……今日、冒険者の顔を覚えても、

 ───明日は帰ってこない。な~んてのは日常茶飯事だ。


 だから、

 街に利益のために、我は、ただただ…命知らずを死地へと送り出す作業員であれ───と決めているらしい。


 とはいえ、彼らも人間。


 まったく冒険者に関心がないかと言えば───そうではない。


「おいっ! さっき入っていったの「豹の槍パンターランツァ」の連中だよな?」

「おう。相変わらずの美人コンビ。羨ましいねー」


「───リズたん、ハァハァ」


「そうか? なんか物足りない気がして素通りさせちまったよ」

 ポリポリと頭を掻きながら衛兵はダンジョンの先を覗き込む。

 生暖かい空気が溢れるそこからは、微かに人外の叫び声と、冒険者らしき絶叫が聞こえる。


 おーくわばらくわばら……


「そりゃ、あれだ……ほら、あの足手まといの───」

「ん? 器用貧乏か?」

「そう、そいつだよ! ───なんでもクビにされたらしいぜ」

「っかー…そろそろだと思っていたけど、やっぱりか! ってことはジェイクの野郎が女の子を独り占めかー」


「───リズたん! ハァハァ」


「へへへ、ちげぇねー。奴隷のアサシン一人だけじゃ満足できないってな」

「いやいや、あの聖職者ともヨロシクやってるってもっばらの噂だぜ」


 ゲハハハハハ! と下卑た笑いを上げる衛兵の前に、


 ず~ん、立ち塞がる大男、

「冒険者パーティ「奴隷の輪スレイブニール」だ。通るぜ」

 ぬぅ、っと現れたのは、禿げた中年の冒険者。

 そいつが衛兵の前に立つ。


「うぉ───……べ、ベンか!?」

「ゲ…………って。おいおい、もう奴隷の補充終わったのかよ」


「リズたんー!! ハァハァ」


「「うるせぇ!」」


 そう、ベンもなんだかんだ言ってここいらではとても有名だ。

 事務的な対応をしている衛兵をして顔を覚えるほどには……


 もっとも、

 パーティとはいえ──ベンのそれは毎回メンバーが変わる。

 だが、逆にそれが異様でもあり、畏怖のそれでもあった。


「んだぁ? てめぇらに関係ないだろうが」

 ほら退けよ。と───、衛兵を無造作に押し退けると、ベンは先頭に立ってズンズンと進んでいく。

 その後を、暗~い顔をした二人の奴隷が付いていった。


 一人は───


「え? あれって……き、器用貧乏?」

 衛兵の呟きを聞きつけたビィトが顔をあげて見返してくるが、その目には覇気がない。

 その後ろに従うのは、簡素な装備を身に着けた小汚い少女。


 何を言うでもなく、ビィトは鎖を曳かれて馬のように様にベンについていくしかできない……

 しかして、その姿を衛兵は茫然と見送るだけだった。


 …………


 ……


「なにがどうなってんだ?」

「さぁぁっぱり?」


「リズたそ───」「「うるっせぇ!!」」






 街での噂もすぐにここに伝わってくるのだろうが、今日……今、この瞬間には、ビィトの処遇はまだ衛兵には知れていなかった。


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