第23話「なんか依頼をうけました」

 ビィトが呆然としている間にも世間は動いている。

 ご多分に漏れず、冒険者ギルドも日々の糧を得るため、冒険者でごった返していた。

 一見、混みあってみえるが、動き始めれば早いものでサクサクと人がけていく。


 ギルドの開店時間は結構適当だ。


 早朝開店! とはうたっているものの、別に時計や魔道具で計測しているわけでもなし。


 早朝担当の責任者(ギルドマスターに限らない)が出勤してきて───初めて開店できるのだ。


 今日はあまり早起きでない者が早朝の当番だったのだろう。まぁよくあること。


 冒険者の面々も慣れたもので、意外に大人しく列に従っている。

 そのうちに何人かか暇をもて余して周囲を窺っている際に、ビィト達一行を目に止める。

 よくも悪くと目立つビィト達だ。


「げ! ベンだぜ」「新しい奴隷…って器用貧乏じゃねぇか」「あ、例のガキも居やがる!」「手を出すなよ……証拠はないんだ」


 と、あっという間にヒソヒソと広がる噂話。

 同じ列に並んでいた、すぐ目の前の冒険者も早々に距離をとる。


 これは仕方なきこと……ベンもビィトも───エミリィも、色んな意味で有名人だった。


 それが良い方向ではないのは明白なのだが、ベンは気にした風もなくギルドの窓口に進むと、下卑た笑いを隠すことなく、受付嬢の体を嘗め回す様に見た後、受注する。


 ギルド受付壌を相手に大した胆力だと思う。


 ビィトはと言えば、

 ベンの相手をしている受付嬢が、先日ライセンスのことで泣きついた人物───テリスだと気付いてしまい。

 コソコソと隠れるように死角に移動した。


 昨日もそうだし、どうもこの受付壌はビィトにキツイ。

 もしかすると、大抵の人間に対してなのかもしれないが、それでも好き好んで相対したいとは思わない。


 もっとも、バッチリ見られて蔑んだ目を向けられたうえ、

 隠れる場所を求めてエミリィの背後に回り込んだりしているから、

 まー、みっともないったらありゃしない。


 デカい荷物に元Sランク。注目を浴びない方が無理と言うもの。


 嘲笑と侮蔑に満ちた空気は実に居心地が悪かった。

 早く出たいと思い始めた頃には、

「へっへっへ……今日はついてる───」

 ニヤニヤと機嫌よさげに笑うベンは、依頼書クエストをビィトとエミリィに見せた。


「ゴールドスライムの素材採取?」


 難易度はA。かなりの高度依頼ハイランククエスト……正気か?


 件のモンスターである、

 ゴールドスライムは液体生物───スライムの亜種だ。


 理由は不明だが、ダンジョン内に湧き出る金貨や金塊を取り込み肥大化した魔物のことである。

 そのままではただの金を含んだ魔物だが、ダンジョン由来の砂金や金貨を含んだせいか滅法めっぽう、魔法攻撃に強い。


 ちょっとやそっとの攻撃魔法などものともせず、逆に金貨を持った冒険者を好んで襲うこともあるという。

 とは言え、所詮はスライム。

 ちゃんとした対策をとれば倒せない相手ではない。むしろ純粋な強さで言えばCランク程度の冒険者でも十分に狩れるほど。

 それをAランクにしているのは、たんに生息数の少なさ故だ。


 それがためにその素材は希少で、高価だ。

 おまけにドロップ品も大量の金貨などを落とすことがあるという。


 それを聞いてビィトの喉がゴクリとなる。


 ビィトが仕留めてドロップ品を得れば、自分を買い戻すことができるかもしれないと───


「ギルドの連中。生息地域を発見したらしいんだが、階層が階層なもんだから手をこまねいてやがる」

 へへへ…早い者勝ちなのによ、とベンは鼻息荒くも自信満々だ。

 だが、ビィトはこれまでの経験から一つ疑問が湧いていた。


「何で誰も受注していないんだ?」


 そうだ。そんなうまい話なら我先にと飛びつくのが冒険者だ。

 依頼料も莫大で、ドロップ品に素材も美味しい獲物とくれば手を出さないはずがない。


「あん? そりゃお前…」


 依頼書に添付されている地図をトントンと示す。

 そこは───……








「嘆きの谷…」


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