◆第22話◆「なんか叩かれました」

 ───リスティ……


 振り返った先には、高ランク装備で身を固めた「豹の槍パンターランツァ」の面々がいた。

 ジェイクに、リズもいる。


 彼らは声を掛けるリスティに好意的な雰囲気ではなかったが、殊更こちらにつっかかる様な真似はしてこなかった。


 ジェイクだけは、ビィトの首輪に気付いて薄く笑っていたが、わざわざ言及するようなことはしないようだ。

 それどころか関わり合いになりたくないような雰囲気さえ醸し出している。


 一応は幼馴染だと言うのに……


 先日のことは不満の爆発などの勢いもあったのだろうが……それだけじゃないのか?


「呆れましたね……フォルグ家のものが奴隷落ちとは───」

 当然、目立つ首輪だ。

 リスティが気づかないはずもない。


「成り行きだよ……」


 目を逸らすビィトを見て、ワザとらしくため息を付くリスティは、

「心配して損をしました。……奴隷に落ちるような兄───フォルグ家のものとして恥知らずもいいところ。今後は見かけても一切声をかけないでください」

 それだけ一方的に言うと、ふん! と顔を逸らしてジェイク達の元へ戻る。

 自分で話しかけてきてあの通りだ。


「お兄ちゃん…?」

 

 リスティの剣幕に驚いたのか、エミリィが心配そうにビィトを見上げてくる。

「なんでもないよ……───あ、」

 そこで、合流したリスティ達を見てビィトは気付く。


「リスティ! まさか、もう潜るのか!?」


 Sランク故、優遇されている優先通行権。

 ダンジョンへ潜るためや、依頼クエスト受注のため並ぶ冒険者を尻目に悠々とダンジョンへ向かう「豹の槍パンターランツァ」を見て、思わず声を掛ける。


「そうですけど、なにか?」

 …文句でもあるのか? と暗に目を訴えるようにしてリスティが睨む。


「ビィト……いい加減にしろ。もう、お前とはたもとを分かったんだ…話しかけるな!」


 ジェイクは取り付く島もないと言った有様。ひどく嫌われたものだ……


「その子は………?」


 行くぞ! と威勢よくジェイクは置物のように突っ立つ元奴隷の暗殺者──リズを引っ張っていくが、リスティはエミリィに気付くとピタリと足を止める。


「……仲間だ。───そんなことより!」

「そんなこと?」

 

 ピクリと顔を引きらせたリスティは、綺麗な顔を歪めてツカツカと詰め寄ると、


 ───パァン!


「恥を知りなさい! 兄さんっ」

 それだけ言うと、さっさと行ってしまう。

 その道すがらエミリィに物凄い目を向けていた。

「ひぃ!」

 怯えるエミリィに、

 ポカンとしたビィト。


 二人は二の句も告げられぬまま、見送るしかなかったのだが……


「あ、しまった! リスティ…! ───ぐぇ」

 後を追って走り出そうとしたビィトの首輪がキツク絞られる。

「どこ行こうってんだ! ご主人様が延々仕事探しに必死な中、てめぇは女の尻追っかけてるのか!」


 ち、違う、と反論しようとしても息が詰まっており、ひゅー、ひゅーという不気味な声しか出ない。


「おら、女ならこっちのガキにしとけ! ちぃとばかしガキ過ぎるが……それも悪くないぜ」

 げへへへ、と笑い──エミリィの尻を撫でるベン。

 嫌悪感でエミリィは震え上がっているが、普段から奴隷として扱われているせいか抵抗はしない。


「よ、ぜっ!」


 グィっと引っ張り返し、酸素を何とか確保する。少しの反抗的態度ではあったが胸に鋭い痛みが奔る。

 それでも窒息よりははるかいマシだ。


「おーおー、それでいいんだよ。大人しくしてろ!」


 ったく、とビィトの鎖を引いて歩き出すベン。


 そしてようやく動き始めた列に沿って冒険者ギルドに入るビィト達。





 そんなやり取りの間に、リスティ達はとっくに視界から消えていた───



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