第16話「なんか出てきました」
「しっ!」
…?
「つ、つながってる!?」
「え?」
エミリィが顔をあげると、
「ダンジョンと繋がってる!」
そう叫び、ものすごい勢いで飛び上がると通路まで退いた。
「逃げてお兄ちゃん!」
その声と同時に、女王蟻の下が盛り上がり───
《グゥゥオオオオオオオ!!!》
ズドォォォン! と地面が爆発した───否、突き破られた!?
ぽっかりと開いた空洞から巨大な毛むくじゃらの腕が突き出し、ビィトに迫る。空洞の奥には
「く!」
背後に転がる様にして辛うじて一撃を
しかし、その後にはすぐに、その腕の持ち主が顔を出した。
「み、ミノタウロス!?」
牛頭の巨魁……4本の腕と巨大な角がトレードマークの上位モンスターだ。
「エミリィ! 逃げてっ」
ビィトの退路を防ぐような位置にいたエミリィは慌てて通路の先へと駆けていく。
「ど、どうしようお兄ちゃん!?」
《グゥオオオオオオオ!!》
ズズンと蟻の巣が小揺るぎする。
背後からは、ぶっとい腕が迫るが───
「大丈夫!」ガン───と、蟻の通路の入り口でつかえて止まった。
《グゥオオオ! グゥオオオ!!》
「あの巨体じゃ、ここは狭すぎる…」
ドカン、ドカン! と悔し気に通路を殴りつけるミノタウロスも、やがて落ち着いたのか女王蟻の部屋に上半身の一部を突き出した状態で荒い息をついている。
「危ない所だった……」
ミノタウロスは十分に脅威だが、あの巨体ならここは通れない。一安心していいだろう。
だが、この通路を通って他のモンスターが沸き出さないとも限らない。
「他の素材の回収は……残念だけど諦めよう」
「う、うん」
エミリィは何を言ってるんだという顔をしていたが、
それは素材回収を諦めることよりも、ダンジョンから上位モンスターが沸き出そうとしているのに、
素材のことを気にかけているビィトに驚いているようだ。
「先に行ってて」
「お、お兄ちゃんは?」
ニコリと笑ってエミリィを送り出すビィト。
「念のため……ここを念入りに塞いでおくよ」
「え?」
いいから行って! と送り出されてしまってはエミリィにも反論できない。
タタタタッという、軽快な足音が後ろに消えていくのを見送ると───
「よう……まさか、こんなとこで会うとはな」
《グルルルルルルルルルゥ…》
「
これでも、深層では、ノーマルタイプのミノタウロス等雑魚扱いなので、それこそ腐るほど倒した経験がある…──パーティがね。
ダンジョン内の空間は歪んでいるので、こうして無理やり繋がった場合はロクでもない化け物が沸き出すことがある。
だから危険なのだ。
「いつか、……そっちに行くからさ! だから今はひっこんでな!」
両の手にチカチカと光る魔法を収束させると───
「あばよっ!」
ここをぉぉ───封鎖する!!
低級魔法とは言え、ダンジョンの壁でもないただの地中の蟻の巣だ。
わけないさ───
「らぁぁ!!」
───小爆破っ!!
《グウオオオオオオオオオンンン!!》
女王部屋の天井が崩落し、次々に降り注ぐ土砂にミノタウロスの悔し
グラグラと揺れるアリの巣はそう長くは持たないかもしれない。
特にこの新しい掘削場所は
「じゃあな! 二度と出てくんな!」
小爆破ッ
小爆破ッ
蟻の巣を走り抜けながら、後ろ手に爆破していく。
あの部屋だけを潰しても掘り返される危険もあった。それくらいなら全て破壊した方がいいだろう。
小爆破ッ、小爆破ッ!
小・爆・破ッ!!
ドォンドォンという爆破の音と、崩落が後から追いかけてくる。
狭い通路を駆け抜けていくと視界の先に外の明かりと景色が見えた。
その先にはエミリィの心配そうな顔も見える。
「潰れろぉォ」ダメ押しのぉぉぉ───
いっぱぁぁぁぁつ!!
小爆破ぁぁ!!
最後に一発……一際魔力を込めてぶっ放した。
ドォォンと言う音と共に土埃が押し寄せ、ブワォァアと、一瞬早くビィトを追い抜く。───おえええ……
鼻腔をつく土の臭いに閉口しながらも、
ボフ! と土埃のベールを抜け出す様に巣穴を飛び出した。
直後に巣穴の中で逃げ場を失っていた熱やら埃やら土塊がボォォォン! と火山の様に噴き上げた。
「ゴフォゴフォ……」
「ケホッケホッ…」
盛大に咳き込むビィトと、顔に煙を被ったエミリィが仲良くせき込む。
その近くで地面が不気味に軋み、
どうやら、巣穴は完全に潰れたようだ。
「ふぅぅ……」
「うぇぇぇ…」
余裕な
でも、無事だ。
……二人とも。
「えへへ…」
なんともなしにエミリィが笑う。
それにつられてビィトも───
「あはははは……!」
「エヘヘヘヘヘ!!」
そして、哄笑。
「「あーははははははははは!」」
何がおかしいのか二人にもわからなかったが、達成感のようなものを感じていた。
奴隷二人組がパーティとして活動した初めての冒険。
……なんだろうな。
笑いながら、ビィトは満たされるようなものを感じていた。
「
確かに名誉も報酬も……尊敬すら「
だけど、今はどうだ。
ただの蟻の巣退治だというのに、この達成感。
エミリィと過ごす時間の楽しさ。
ビィトの財布をスリ取り、
その後はビィトが自らやったこととはいえ、奴隷にまで落ちてしまった。
だけど、その先にエミリィと過ごす時間があったと考えるなら、それも最悪な出来事ではなかったのかもしれない。
なんとなく、彼女が仲間だと……自然に感じ取ることができた瞬間だった。
埃まみれの二人はしばらく太陽を浴び、背中合わせにへたり込む。
ビィト自身は
エミリィも同様だ。
「ははは」
「えへ…」
笑い終わると、二人は自然に背中合わせで触れ合った手を
──キュ……
どっちもザラザラとして、雑用ばっかりしている者の手だった。
そこになんとなくシンパシーを感じて……ビィトは居心地の良さを感じた。
「ありがとな」
「え?」
唐突に言われた御礼にエミリィは首を傾げる。
「なんとなくだよ…」
「??」
ビィトもよくわからないけど、エミリィと出会えたのは幸運だった気がする。
出会いは最悪だけど、……そんな縁も悪くない気がした。
「帰るか…」
「あー…うん」
ケチなご主人様がしびれを切らせて呪印を発動させないとも限らない。
ドロップ品を巻き上げられるのもシャクだし、早いとこギルドで
「あー……もう少しいるか」「うん…」
何故か腰を上げなかったエミリィに付き合い、ホン少しだけ滞在を延長したビィト一行であった。
……私のほうも、───ありがとうお兄ちゃん。
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